第33話 ソフィアVSフェリックス第二回戦の回
同級生からの援助で一旦は回復したソフィアの口座だったが、ガゼルト男子学院の攻撃の前に、再びゼロに近づいていた。敗北は濃厚だった。
その時、地面から巨大な漆黒の刃が次々に突き出てきた。男子学生が漆黒の刃に貫かれる。
漆黒の刃は、三日月の離れから全力で庭に走ってきたエンリカが放った魔法だった。エンリカと一緒に来た女子学生達が、男子学生に襲いかかる。
完全な奇襲を受け、男子学生が浮き足だつ。
「ソフィア、反撃だ。フェリックス達をやっつけるぞ」
ソフィアの傍にきたエンリカが激を飛ばす。
「エンリカさん。あなた達今までどこに?」
「話は後だ。とにかく反撃だ」
「分かりましたわ。逆襲といきましょう。クリスティナさん、生徒会費を使って皆さんの戦闘衣を回復してください。総攻撃をかけます」
副会長のクリスティナがソフィアの指示を実行する。生徒会費の入金により全員の戦闘衣の損傷が回復する。メイド服を着ていた者も戦闘衣に戻り、戦線に復帰する。
「みなさん。攻撃です。今が勝負の時です」
女子学生達は、今までの恨みを一気に晴らすかのごとく、怒涛の総攻撃に打って出た。しかし、為替はフローナ安であり、男子学生に有利だ。今は勢いに乗った女子学生達も時間が経てば男子学生に押されるのは火を見るより明らかだ。だからソフィアは敵のリーダーであるフェリックスと、副リーダーのクリストフを倒し、戦いを終わらせる作戦に出た。
「エンリカさん。クリスティナさん、行きましょう。フェリックスさん達を倒します」
ソフィアは背中に羽のアタッチメントを付け、低空飛行でフェリックスに突進する。
「おお、やってやるぜ」
エンリカとクリスティナも羽のアタッチメントを付けてクリストフに迫る。
ソフィアは魔法の杖を細身の剣に変換し、飛行の勢いを乗せてフェリックスに切りかかる。フェリックスは長剣でソフィアの鋭い斬撃を受け、逆に、ソフィアの剣を押し返す。
ソフィアは後ろに飛び間を取る。が、次の瞬間には一気に間合いを詰め、鋭く華麗な連撃を繰り出す。フェリックスも長剣を巧みに操り、豪快な斬撃を繰り出す。刃と刃が激しくぶつかり、金属音が鳴り響き、火花が散る。
ソフィアとフェリックスの隣では、エンリカとクリスティナがクリストフと戦っていた。
「くらえ! 百槍連牙」
エンリカの高速の突きがクリストフの体を滅多刺しにする。
「二人がかりで卑怯ですが、これも戦術です」
魔法の書を開き、クリスティナが魔法を唱える。
「災厄よ集え、カラミティ カオス」
クリストフの足元に漆黒の鉤爪が現れる。鉤爪がクリストフを切り刻む。
「すこしは反撃してきたらどうだ、このモヤシ野郎」
エンリカが勢いに乗って攻めかかる。クリスティナも連続して魔法を唱える。
ソフィアもフェリックスに猛攻をしかけていた。
「暴虐なる炎の精霊よ、我、盟主として命じる、以下省略、ファイアードラゴン!」
炎の竜がフェリックスを飲み込む。炎上するフェリックスに、さらにもう一発ファイアードラゴンを放つ。そして、細身の剣で華麗に貫く。
「これだけ攻撃してるのに、ダメージが少なすぎる……」
一方的に攻めるソフィアだが、攻撃すればする程、不安が生まれてくる。
ソフィアの猛攻を受けているのにフェリックスの戦闘衣はかすり傷しか負っていない。
フェリックスの戦闘衣の防御力、すなわち貯めてある資金が多いというのも一因だ。だが、それ以上に為替の影響が出ていた。
フローナ安がより進行した今、フローナを使うソフィアの攻撃はガゼルトを使うフェリックスには取るに足らないものになっていたのだ。
「為替の差がある以上、あなたのどんな攻撃も無意味だ」
フェリックスがソフィアを見て不敵に笑った。
「フェリックス、遊びはそろそろ終わりにしよう」
人形のように一方的にエンリカとクリスティナの攻撃を受けていたクリストフも不敵に笑っている。彼の戦闘衣もフェリックス同様、かすり傷しか負っていなかった。
「そうだな。本気を出すとするか」
フェリックスが動いた。エンリカの戦闘衣がはじけ飛び、メイド服に変わる。
「なっ!?」
どうして戦闘衣が消滅したか分からず、エンリカが目を見開き、驚愕する。実は、フェリックスが、ソフィアを無視して、エンリカをとの間合いを一気に詰め、剣を振り下ろしたのだ。たったそれだけの攻撃だが、フローナとガゼルトの為替の差により、絶大な威力のものに変わっていた。
「為替とは無慈悲なものだな」
クリストフが軍服の懐から拳銃を取り出す。クリスティナに向け、魔法の弾丸を撃つ。クリスティナがバリアを張る、が、魔法の弾丸はバリアを打ち破り、クリスティナの胸を打ち抜いた。クリスティナの、決して弱くはない戦闘衣が消滅し、メイド服に変換された。
「あとはあなたを倒せば終わりだな」
フェリックスが長剣を構えソフィアを見る。
「そうやすやすとはやられないかしら」
ソフィアは細身の剣を構える。
「この窮地の状況でも強がりを言えるのはさすがだ。だが、所詮は強がり」
フェリックスがソフィアに切りかかる。
エンリカが全く反応できなかった攻撃だ。ソフィアも目で追うのがやっとで、体は反応できなかった。
フェリックスの長剣がソフィアを肩から両断する、はずだった。ソフィアにカナンの盾の魔法が無かったなら。
フェリックスの長剣はソフィアの肩すれすれで光球に弾かれた。体勢を崩したフェリックスにソフィアが細身の剣の斬撃と、ファイアードラゴンをお見舞いする。
フェリックスは後方に飛び、ファイアードラゴンの炎を振り払う。
「なるほど、カナンの盾があったか。これは、なかなか厄介だな」
「言ったでしょ。やすやすとはやられないと」
「素晴らしい。さすがはカナン家の一族。その高名は伊達ではなかったということか」
完璧な防御を誇るカナンの盾に守備を任せ、攻撃に専念する。ソフィアのその戦闘スタイルは非常に強力で、フェリックスでも短期間に攻略するのは困難だった。しかし、それを知った上で相手を賞賛できるのは、フェリックスに奥の手がある証拠だった。
「クリストフ、ヴァルキリーシステムの管理者権限の買収を強化してくれ」
「任せておけ」
クリストフが多機能携帯魔機を操作する。フローナ女子学院のヴァルキリーシステムの管理者権限の敵対的買収に、ガゼルト男子学院の生徒会費から更なる資金が投入される。
「クリスティナさん、こちらも対応してください」
クリスティナが
「財源が……足りません。ガゼルト男子学院の敵対的買収に対抗するのは、もう無理です」
クリスティナが苦しそうに呻く。クリスティナの報告はソフィアには敗北を、フェリックスには勝利を約束するものだった。
「フローナ女子学院の管理者権限の四十%を買収した。今なら強制徴収も使えるぞ」
クリストフが勝利を確信した様子でフェリックスに報告する。
「では、終わらせるとするか」
フェリックスが長剣を斜め上に向けてかざす。
「強制徴収」
ソフィアを含めた、男子学生と戦っているフローナ女子学院の学生達の戦闘衣が淡く光る。その光が、フェリックスがかざしている長剣に吸収されていく。
フェリックスが使ったのはハンデを付ける為に用意された機能の一つで、戦っている相手の口座から問答無用でお金を奪い取る機能だ。一般には、実力差がある場合に弱い方が使用回数や徴収の限度額を設けて使う。
強制徴収を使うにはヴァルキリーシステムの管理者権限の四十%が必要になる。敵対的買収でフローナ女子学院の管理者権限の四十%を取得したので、フェリックスが自由に強制徴収を使えるようになったのだ。
強制的に口座からお金を奪われ、女子学生達は為すすべなく戦線離脱していく。戦闘衣も消滅し、メイド服に変換させられる。
最後にソフィアが残ったが、強制徴収を受け戦闘衣はボロボロだ。庶民の年収をはるかに凌駕するソフィアの口座も底を尽く時がきたのだ。
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