第32話 青玉竜登場。そして、エファVS青玉竜の回

「両学院の制覇、が目的だったのね」

 多機能携帯魔機スマホの画面でソフィアとフェリックスのやり取りを見ていたエファは意味ありげな笑みを浮かべる。


「おいエファ、いつまでここにいるつもりだ。フェリックスの野郎をぶっ飛ばしに行くぞ」

 エファ、ソフィアについでクラスで三番目に金持ちの女の子が胸の前で拳を、がちっと打ち鳴らす。

 フェリックス名義のラブレターを受け取った彼女は胸をドキドキときめかせながら待ち合わせ場所に、ばっちりお化粧をして向かった。

 普段の男勝りな言動からはなかなか想像が難しいが、彼女も女の子であり、乙女心全開のときだってある。だが、その乙女心を利用された今、フェリックスへの強い憧れは強い憎しみと復讐心に変化していた。


「そうね、こんなところに用は無いし、行きましょ」

 エファ達は階段を上り、地上に出る。


 地下室にはゲオルグだけが残された。ゲオルグは多機能携帯魔機スマホを取り出して画面をスクロールさせ、非常事態のボタンを押した。

「せっかく戦力を二分したんだ、合流などさせんぞ」

 くっくっく、というゲオルグの笑い声が地下室に響いた。


 三日月の離れから外に出たエファ達は目の前に立ちふさがる竜を見た。竜にしては小柄だが、体調はエファの身長の七、八倍はある。深海のような深い青色の鱗はそれ自体が発光しているのか、神秘的なきらめきを見せていた。

 青色の竜は、しゃあああ、と獰猛な雄叫びをあげ、エファ達を睥睨する。

「こいつ…… 青玉竜……」

 紅玉竜を見たことのあるエファは目の前の竜が紅玉竜と対をなす兄弟竜、青玉竜だと見抜いた。

「ご名答、ガゼルト男子学院の地下倉庫に保管されている、青玉竜だ。それも寝起きの機嫌の悪い状態だ。下手に動けば攻撃されるぞ。おとなしく、三日月の離れに戻るんだな」

 三日月の離れから出てきたゲオルグが哄笑する。


 フェリックス達は、ガゼルト男子学院の地下倉庫の青玉竜の区画に転送用魔機テレポーターを設置していた。ゲオルグがタップした非常ボタンはその転送用魔機テレポーターを発動するものだった。転送魔機には、安眠している青玉竜を無理やり起こすための電撃オプションも付加されていた。

 地下倉庫で安眠していた青玉竜は、電撃オプションで無理やり起こされ、非常に機嫌が悪い状態でこの場に転送されてきたのだ。


「お前馬鹿か。青玉竜を避ければいいだけだろ」

 確かに、青玉竜の左右には大きく迂回できるスペースがある。クラスで三番の女の子は有言実行とばかりに制服をチャイナドレス風の戦闘衣に変換し、走り出す。

 その瞬間、青玉竜が大きく開いた口からクラスで三番の女の子にレーザービームを発射した。レーザービームは寸分の狂いなく、クラスで三番の女の子を貫く。

「ふはははは、馬鹿はお前だ。寝起きの青玉竜は獰猛な性格のうえ、全方位をカバーする遠距離攻撃を持っているんだ。横を避けて通れるなんて思うなよ」

「くっ……」

 青玉竜の攻撃を受けたクラスで三番女の子の戦闘衣は損傷がひどく、ボロボロだった。青玉竜の攻撃力の凄さに十人ほどの女子学生達は言葉を失う。


 寝起きで機嫌の悪い青玉竜が、のっしのっし、とエファ達に向かってくる。

「お前たちに残された道はおとなしく三日月の離れに戻ることだけだ」

 ゲオルグはいち早く、三日月の離れに避難する。

「ガゼルト男子学院との決戦が始まってるのに、足止めを食うわけにはいかないわね」

 エファは青玉竜の神経を刺激しないように、ゆっくりと移動し、地面にうずくまっているクラスで三番の女の子に近づく。


「青玉竜は私がひきつける。その間にあんたは皆を連れてソフィア達の所に行きなさい」

「なに?」

 クラスで三番の女の子が、数百年周期で現れる珍しい彗星を発見したかのような表情でエファを見る。目立ちたがりで唯我独尊で自分勝手なエファが、皆の為に囮を引き受けると言い出したことが、信じられないのだ。

「ソフィア達を助けないとフローナ女子学院が負けちゃうでしょ。早く行きなさいよ」

「分かった。すまない、エファ」

 クラスで三番の女の子が立ち上がる。


「勝負の行方はあんた達の働き次第なんだからね、しっかりやんなさいよ、エンリカ」

 名前を呼ばれたクラスで三番の女の子、エンリカがことの外、驚く。

「私の名前、憶えてたのか」

 常に貧乏人、と言われていたのでエンリカはエファが名前を覚えていないと思っていた。

「覚えてるわよ。女子学院の仲間でしょ」

 随分とくさい言葉を口にして、エファは青玉竜に突進していった。


「ユーディット援護して」

 ユーディットが即座にヴァイオリンを具現化し、演奏する。

 青玉竜が口を開き、エファにレーザービームを放つ。ユーディットの演奏で俊敏性を向上させているエファは危なげなくレーザービームを避ける。

「コリュウ、青玉竜をひきつけなさい。でも攻撃はするんじゃないわよ」

 紅玉竜の鱗に付与されていた自動魔法反射(オートリフレクション)が青玉竜の鱗にも付与されているであるうことを予想して、エファがコリュウに指示を出す。

「心得たでござる。忍法、分身の術」

 青玉竜の周囲に何十人もの、本物と瓜二つのコリュウが現れ、動き回る。うるさく飛び回る蠅を追い払うかのように、青玉竜がコリュウの分身を攻撃する。


「みんな、青玉竜はエファ達に任せて、私達は移動するぞ」

 エンリカが先頭になり、女子学生達は走って青玉竜の右側を迂回する。

 青玉竜は近距離で動き回るエファとコリュウに夢中でエンリカ達には反応しなかった。エンリカ達は呆気ない程あっさりと、青玉竜の横を抜けた。


「けだものめ、何をやっている」

 エンリカ達がこの場を離れるのを見て、三日月の離れに逃げたゲオルグが地団駄を踏む。青玉竜を転送したゲオルグだが、青玉竜を支配しているわけではない。エファとコリュウを追うのに躍起になっている青玉竜を制御する術をゲオルグは持っていなかった。


「コリュウ、校長が紅玉竜と青玉竜について言っていたこと覚えてるわね」

 青玉竜の攻撃を避けながら、エファがコリュウに叫ぶ。

「当り前でござる。記憶力の良さは忍者の基本中の基本でござる」

「よし。じゃあ、あいつの耳の裏をさすって怒りを鎮めわ。私があいつの背後に飛ぶ為の隙を作りなさい」

「分かったでござる」


 コリュウが再び分身の術を唱え、青玉竜の攻撃で減った分を増やす。ちょこまか動き回るコリュウの分身を、青玉竜が躍起になって追いかける。

 エファは青玉竜の動きに全神経を集中させて隙を伺う。しかし、古の竜だけあって青玉竜の攻撃にはつけ入る隙が見つからない。焦れるエファの額に汗が流れる。


 じゃーん!!


 耳障りでけたたましい音が響いた。紅玉竜の足元でユーディットがヴァイオリンをでたらめにかき鳴らしたのだ。

 予想外の騒音に、エファもコリュウも、そして青玉竜も反射的にユーディットを見た。

「おらおらおら、ビッグチョーさんのおでましでぃ。括目しやがれい」

 青玉竜の足元から、筍のように、にょきっ! と五、六メートルに巨大化したチョーさんが現れた。体が膨れ上がる様子は、生えてきた、という表現がよく似合う。


 ぴー、と甲高い鳴き声をあげ、青玉竜がのけ反る。ユーディットに注目していたところに、ビッグチョーさんが出現したのでさすがに驚いたのだ。

「今だ!」

 空高く、青玉竜の頭上へエファは飛び上がる。

 大ジャンプをしたエファは青玉竜の頭の後ろ、ちょうど耳の付け根の近くに降り立つ。そして、耳の付け根を優しく撫でた。

 気持ちよさそうに鳴き、青玉竜は体を丸めてその場にしゃがみ込み、大人しくなる。

「よし。大成功ね。今のうちに行くよ」

 青玉竜から飛び降りたエファは庭に向かって走りだす。ユーディット、コリュウ、チョーさんもエファを追って、走る。


「馬鹿な、なぜ青玉竜が大人しくなるんだ?!」

 三日月の離れにいたゲオルグが頭を抱えて叫んだ。

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