第31話 ソフィアVSフェリックス戦の回

 調理場へ撤退したソフィア達は裏口から外にでて広大な庭へと逃げてきた。

 ソフィアは前方にいる二人の姿に気づいた。転送魔機を使って先回りしていたフェリックスとクリストフだ。

 女子学生の先頭を走っていたソフィアが止まる。後ろにいた他の女の子達も立ち止る。


「フェリックスさん、ガゼルト男子学院の食堂での襲撃、どういうことですか。返答次第ではフローナ女子学院とガゼルト男子学院の外交問題にも発展しますよ」

 ソフィアの問責をフェリックスは、ふっ、と一笑した。

「襲撃、といってもヴァルキリーシステムによる遊びの一環。大げさにとられては困るな」

 ヴァルキリーシステムは金持ちの道楽として生まれた決闘システム。今回の私闘も道楽、つまりは遊び、だとフェリックスは主張しているのだ。


「為替操作までしておいて、遊び、で片づけられると思っているのですか」

 片づけられるわけないでしょ、と、ソフィアがフェリックスを睨みつける。しかし、フェリックスは、後ろめたいことは何一つ無い、という態度でソフィアの視線を跳ね返す。

「そうだ。全て遊びだ。為替操作も含めてスリリングな展開を楽しんでくれたことと思う」

 ソフィアとフェリックスの間で非友好的な言葉が往復する間に、食堂から出て来た男子学生達がソフィア達に追いつく。


「では、そのお遊びの目的は何ですか。朝食時に襲ってくるなんて、非礼で非常識で非紳士的な行為いです。遊びだからと言って許される行為ではありません」

「目的は一つ。ガゼルト男子学院による両学院の制覇だ」

 厳かにフェリックス宣言した。威風堂々たる態度は征服者たるにふさわしいものだった。

「両学院の制覇ですって? 両学院の友好を壊す、そんな愚行を本気で行うつもりですか」

 ソフィアは嫌悪感を露わにする。


 フローナ女子学院とガゼルト男子学院は設立以来友好な関係を保ってきた。その友好関係を良しとするソフィアには、制覇、なる行動は愚行としか思えなかった。


「今まで誰も成し遂げたことの無い両学院の制覇。それを達成すれば学院史上に名が残る偉業となるだろう。決して愚行ではない。そして、先ほどから言っている通り、これはあくまでヴァルキリーシステムを使った遊び。両学院の友好を壊す行為では無い」

 都合のいい屁理屈をこねて、とソフィアは苛立ちで爆発寸前だった。

「あくまで遊びと言い張るなら、私達フローナ女子学院の者は、こんな野蛮で礼儀を顧みない遊びには参加いたしません。ですから、この遊びもこれで終了です」

「そういうわけにはいかないな」


 フェリックスが制服をダイヤモンドの光沢を放つ神々しい鎧の戦闘衣に変換する。フェリックスの隣にいるクリストフも制服を白色を基調にした軍服風の戦闘衣に変換する。


「両学院の制覇は我らの悲願。嫌でも付き合ってもらうぞ」

 フェリックスが長剣を具現化し、大きく振る。刀身から、ソフィア達に向けて衝撃波が放たれる。ソフィアをはじめ、戦闘能力が高い者達は咄嗟にバリアを張った。しかし、フェリックスの攻撃に対応できない者もいた。

 庭に女の子達の悲鳴が響く。バリアを張れなかった者達が衝撃波の餌食になったのだ。

「皆さん?!」 

 振り返ったソフィアはメイド服姿の同級生達を見た。今の攻撃で戦闘衣を破壊されたのだ。


「そのまま座して敗北を待つか、戦って敗北するか、好きな方を選ぶがいい」

 フェリックスが魔法を詠唱する。

「ホーリーレイ」

 天空より、ソフィア達めがけて聖なる光の槍が降り注ぐ。

 ソフィアが無詠唱で、カナンの盾、を発動する。無数の光球が上空に放たれ、ホーリーレイの光の槍を全て撃墜し、フェリックスの攻撃から同級生を守る。


「いかなる攻撃にも即座に反応して撃墜するカナン家伝統の防衛システムか。その迎撃アルゴリズムは驚嘆に値する。だが、圧倒的物量の前にどこまで耐えられるかな」

 フェリックスは隣にいるクリストフに視線を送る。クリストフは無言で頷くと、襟元に付いた小型マイクでガゼルト男子学生に指令を出す。

「総攻撃開始」

 クリストフのマイクは、声を男子学生達の耳に直接届ける魔法が付与されている。

 クリストフの指令を受け、食堂からソフィア達を追って来た男子学生が攻撃を始める。


「くっ……」

 ソフィアの表情が険しくなる。フェリックスの攻撃だけでも大きな負担なのに周りの男子学生の攻撃も加わっては、ソフィア一人の資金力では到底対抗できない。


「皆さん、ソフィアさんの口座にお金を振り込んでください」

 副生徒会長のクリスティナが叫ぶ。ソフィアに守られていたフローナ女子学院の学生達が、持っているお金をソフィアの口座に送る。クラスメイトの助けでソフィアの口座の残高は大きく回復した。しかしそれは一時しのぎでしかなく、人数でも為替でも不利なソフィア達フローナ女子学院の敗北は時間の問題に思えた。

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