第18話 ソフィア暗殺指令! でも却下の回

 地下室に戻ったエファはベッドに寝転がると、多機能携帯魔機スマホでコリュウを呼び出す。数分後、部屋に来たコリュウに、エファは怒りにまかせて凄い指示を下した。


「コリュウ、ソフィアの部屋に忍び込んであいつを暗殺してきなさい」

 ソフィアのことを知らないコリュウは首を傾げる。

「暗殺とは物騒でござるな。いったい何があったでござるか。それに拙者、ソフィア、という御仁を知らないでござるよ」

「ソフィアってのはクラスで一番いけ好かない奴よ。あいつ、生意気にも私を虚仮にしたのよ。絶対に許せないわ。おもいっきり苦しませながら殺しなさい」

「エファ殿、クラスの友達を殺すなんて、冗談でも言っては駄目でござるよ」

 コリュウがエファを諭す。


「何よ、あんたあいつの味方をすんの。私の奴隷のくせに生意気よ」

 エファは寝転がったベッドの上で手足をじたばたを動かす。

「落ち着くでござる。そんな動いたらスカートがめくれて下着が見えてしまうでござるよ」

「見たら殺す!」

 エファがコリュウに殺意ある視線を向ける。

 エファの顔を見たコリュウが驚く。エファは泣いていたのだ。

 仕送りが止められたことを皆に暴露されたこと。ペントハウスから地下室に追いやれたこと。そして、今回の競売のこと。立て続けにソフィアにしてやられたことが、悔しくて、どうしようもなく悔しくて、エファは耐えられずにいた。


「エファ殿。クラスのご友人をライバルとして切磋琢磨するのは素晴らしいことでござる。しかし、それは、お互いに敬意を持ったうえでのことでござる。すぐに、殺す、なんて言う関係では駄目でござる。まずは相手を認めることから始めるでござるよ。そして、正々堂々と戦って、そのソフィアという御仁に勝つでござる。それが健全でござるよ」

「勝つ!? そうよ、あいつに勝てばいいのよ」

 枕に顔をうずめていたエファが顔を上げる。

「私ともあろうものが、なんて弱気になってたのかしら。あいつに勝てばいいんじゃない。夏祭りであいつの店を遙かに凌駕する売り上げを出して叩きのめしてやる」

「その意気でござるよ」

「よし、必勝の策でいくよ。コリュウ」

 エファが活き活きとやる気に満ちた瞳でコリュウを見る。涙は吹き飛んでいた。

[その意気でござる。拙者も微力ながら全力を尽くすでござるよ」

 コリュウも主人の意気込みに応えるべく、気合いを入れる。


「コリュウ、主人として命じる。ソフィアに嫌がらせしてノイローゼにしてきなさい。方法は問わない。靴に画びょうを入れるとか、背中に「私変態でーす」ていう紙を貼るとか、根も葉もない噂をたてるとか。そうだ、あいつの部屋に夜な夜なチョーを送り込んで、怖がらせて寝不足にするなんてのもいいじゃない。夏祭りの出店の準備なんてやってられない状態にして当日はお店を開けなくしてやりなさい。これくらいできるでしょ。忍者なんだから」

 大きく膨らんでいたコリュウのやる気が急速に萎む。エファは元気を取り戻すと同時に陰険さと姑息さも取り戻したようだ。


「エファ殿、拙者は正々堂々と戦って、と言ったでござるよ。嫌がらせなんて姑息な手段はやめるでござる。そんな方法で勝っても意味がないでござる」

「何言ってんのよ、完全勝利に意味が無いわけないでしょ」

 コリュウは溜息をつく。

「勝利は大事でござる。しかし、ライバル、それも学友との切磋琢磨には勝利よりも大事なものがあるでござる」

「勝利より大事な物って何よ」

「友情を育むことでござる。正々堂々とした真っ向からの真剣勝負の後には、勝っても負けてもお互い恨みっこなしで手を取り合うのでござるよ」

 コリュウの答えを聞いたエファは、けっ、と鼻で笑う。


「友情のどこが勝利より大事なのよ。勝利は友情の一億倍は重要よ。ああもう、あんたと話してると頭が痛くなってくる」

 エファは額に片手を当て、眉をしかめる。

「つまりあんたは私の命令に従わないってことね。だったらいいわ、もう出て行きなさい」

 エファは犬を追い払うように手の平を前後に動かす。しかし、コリュウは動かない。

「エファ殿の命令に従わないわけではござらぬ。卑怯なことはできないと言うことでござる。別のこと、例えば店の準備とかならいくらでも手伝うでござるよ」

「そんなの当然でしょ、奴隷なんだから。偉そうに言ってるんじゃないわよ、まったく」

 エファはベッドから起き出し、テーブルの椅子に座る。


「あんたも座んなさい。どんなお店にするか考えるから、いいアイディアを出しなさいよ」

「そういうことなら任せるでござる」

 エファとコリュウは夏祭りに出すお店についてアイディア出しを始めた。

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