第15話 紅玉竜再び、今回は泣いてもらいますわよの回
エファはミカエルに道案内させ、紅玉竜の区画に戻ってきた。紅玉竜は湖畔で寝ていた。
「校長、紅玉竜の涙を取ってきなさい」
「うむ。そんなことなら簡単じゃ」
校長が生徒に命令されるという異常事態だが、コリュウの股間を揉んだことを思い出したくないミカエルはエファの命令に従う。
「簡単じゃないですよ。紅玉竜ちゃんは凶暴ですよ」
紅玉竜との戦いを思い出したのかユーディットが身震いする。
「凶暴? 紅玉竜は知性の高い竜で大人しいはずじゃ。紅玉竜の涙の一つや二つなら、話せば簡単にくれるはずじゃが…… そうか、寝ている紅玉竜を無理やり起こしたのじゃな」
納得したのか、ミカエルがうんうん、と頷く。
「紅玉竜は寝起きが悪くての、無理に起こしてはいかん。紅玉竜や兄弟竜である青玉竜は耳の後ろを撫でられるのが好きでの。起こすときや怒りを鎮めるときには、優しく耳の後ろをさすってやるのじゃ」
ミカエルは紅玉竜に近づき、体をよじ登ると紅玉竜の耳の裏を優しく撫でた。
寝ていた紅玉竜がゆっくりと目を開ける。ミカエルが紅玉竜に話しかけると、紅玉竜は小さく頷いて目を閉じた。紅玉竜の目じりから涙が流れる。空気に触れた紅玉竜の涙が結晶化し、ルビーになる。地面に六つの紅玉竜の涙が落ちる。
六つのルビーと化した紅玉竜の涙を拾って、ミカエルが戻ってくる。
「ほれ、紅玉竜の涙じゃ」
ミカエルがエファに六つの紅玉竜の涙を手渡す。エファは紅玉竜の涙を見る。
「これが紅玉竜の涙なの? あまりたいしたルビーじゃないわね」
「あの紅玉竜はまだ幼竜じゃからな。成長の途中は涙に老廃物がたまりやすく紅玉竜の涙もいまいちなのじゃ。いい紅玉竜の涙が欲しかったら成竜になるまで待たんといかん」
「まあ何も手に入らないよりはましか。お腹も空いたし、帰りましょう。校長、案内して」
「ほいほい。では行くとしようかの。わしもそろそろ出ていい頃じゃしな」
ミカエルが先頭に立って歩き出した。
入り口に向かって歩きながらコリュウはきょろきょろと周りを見る。
「チョーさんはおらぬでござるな」
「あんな薄情な幽霊お呼びじゃないわよ」
「呼ばれて飛び出てウラメシヤ!」
エファ達の前の何もなかった空間から、突然チョーさんが現れた。
「チョーさん! 無事だったでござったか」
「おうとも。俺っちは無敵のチョーさんだぜ、心配はご無用だ。紅玉竜に吹き飛ばされたが、皆を探して三千里、戻ってきたぜ」
「騒がしいのが戻ってきたわね」
ぼそりとエファが呟く。
「おっと、つれねえなエファ様。二人の熱いランデブーはネバーエンディングフェアリーテールなんだぜ。さあ、紅玉竜の涙を取りに行こうぜ」
「紅玉竜の涙ならもう手に入れたから。あとは帰るだけよ」
「おお! さすがエファ様。俺っちがいない間に大きくなった。なら、帰り道はこっちだ。みんなついてこい、振り落とされるなよ」
案内役をミカエルからチョーさんに変え、エファ達は帰り道を進む。
地下倉庫の出口でチョーさんと別れ、エファ達は地下室に戻ってきた。
「あー 疲れた。紅玉竜の涙を売りに行くのは明日にしよう」
エファはベッドに腰掛ける。
「エファちゃん。私、部屋に帰るね」
ユーディットが、ばいばい、と手を振る。
「あ、うん。じゃあね」
「ちょっと待つでござる。ユーディット殿と紅玉竜の涙を分けるのではないでござるか」
コリュウの発言が予想外のさらに外だったのか、エファは目を点にして驚く。
「何で分けるのよ。私は一言も紅玉竜の涙を分けるなんて言っていないよ。それなのに勝手にこの貧乏人がついて来ただけでしょ。紅玉竜の涙を分配する旨の契約書だって無いし」
「一緒に頑張った友人と成果を共有する、というのはいいことだと思うでござるよ」
「別に私こんな貧乏人と友達じゃないんだけど」
あっさりエファはひどいことを言う。
「コ、コリュウちゃん、もう、いいから、ね」
エファの言葉に傷ついたのか、ユーディットは憔悴した様子で地下室から出て行った。
「わしも戻るとするかの。コリュウ君、君には見せたいものがある。ついてきなさい」
ミカエルが手招きしてコリュウを呼ぶ。
「待って。面白そうだし、私も行く」
ベッドから立ち上がり、エファもミカエルとコリュウと一緒に部屋を出て行こうとする。そのとき、地下室の扉がノックされた。
扉を開けると、水色の長髪を頭の後ろで団子にし、きちっとスーツを着た長身の女性がいた。他人にも自分にも厳しそうな雰囲気の持ち主だ。
「教頭先生…… 何か御用ですか?」
地下室に訪れた女性は教頭のクラウディア フォルスだった。
「校長を迎えに来たのですが、もう地下倉庫からでられたとは思いませんでした」
クラウディアがミカエルを見る。そして視線をエファに戻す。
「エファさん。校長に変なことされませんでしたか」
「大丈夫です」
エファはコリュウを指さす。
「変なことしてきたらあいつの股間……」
ひいいぃ、とミカエルが悲鳴を上げる。両耳を押さえて、思えださせないでイヤイヤ、と首を左右に振る。いったい何が起きたのか分からずクラウディアは首を傾げる。
「よく分かりませんが、無事ならいいです。校長、行きますよ。仕事が溜まっています」
「仕事か…… 面倒じゃな。クラウディア女史、やっておいてくれぬか」
「私で決裁できるものはしました。残りは全て校長にしかできない仕事です」
クラウディアがミカエルの腕を掴み、連れて行こうとする。その時、ミカエルの瞳がエロ色に輝いた。
「隙あり!」
ミカエルがクラウデイァのお尻をなでようとする。しかし、対痴漢用魔機が強力な電撃をミカエルに放った。
びりりりりりり! と、ミカエルは感電していることがよく分かる叫び声をあげる。
「校長のセクハラ対策に対痴漢用魔機を用意しました。不埒な真似は控えていただきます」
クラウディアがミカエルを連れて階段をあがる。
「ちょっと待つのじゃ、クラウディア女史。少し時間をくれい。あの者に資料室にある女王陛下の絵画と王国の歴史を話したいのじゃ」
「絵画と歴史ですか?」
クラウディアがコリュウを見る。
「あの者は伝説の忍者じゃよ。おそらく、十人目の聖騎士じゃ」
クラウディアが、そんなまさか!? と驚きの感情を露わにした。
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