第14話 あまり見たくない、ゴッドハンドVS身代わりの術の回

 フローナ女子学院の一階にある職員用の会議室に教職員が集まっていた。全員女性だ。

「本日、校長の監禁が解かれます。後ほど私が校長をお迎えに行きます。三か月の監禁で煩悩が消えていることを祈りますが、皆さん、対痴漢用魔機はしっかり携帯してください」

 教頭のクラウディアが教師達に伝える。教師達がざわつき、場が騒然となる。

「校長が戻られるのですか…… しばらく平和だったのに」

 若い女性教師が泣きそうな顔になる。


 校長のミカエルは経済、政治、歴史の分野で稀有な才能を持った学者だった。研究業績は世界的に高く評価され、乞われてフローナ女子学院の校長に就任した。性格的にも温厚で教育者としても校長に申し分ない人物だった。しかし、大きな欠点があった。それが、極度のエロ、だ。


 校長就任後、五年間は理性でエロを抑えていたミカエルだが、歳と共に理性が鈍ったのか、最近は女性教師のスカートをめくったり、お尻を触ったりとセクハラが酷かった。


 ミカエルは王国の政治、経済の相談役も兼任しており、行政においてミカエルの意見は欠かすことができないものだった。それ故に、ミカエルを学院から追放することはできず、多少の悪事は見逃さざる得ない状況だった。

 ミカエルも生徒に手を出すことは無かったので大目に見られていた。しかし、日増しに増加するセクハラ被害に、ついに教頭のクラウディアがミカエルの監禁を決断した。


 三か月間、地下倉庫に監禁して女性から隔離し、希少生物の世話をさせることで心を和ませ、ミカエルのエロを弱めようとしたのだ。しかし、監禁は逆効果だった。

 女性から隔離されたミカエルは悶々とした日々を過ごし、エロ魂を増加させ、今やエロ大魔神と化していた。

 エファ達が出会ったミカエルは、そんなエロ大魔神状態であり、理性などというものはとうの昔に涸れ、生徒にも手を出す危険極まりない存在に化けていた。


                  *


「フォフォ。さすがは忍者。わしの神速を見破るとは、恐れ入った」

 ミカエルはコリュウの手を振り払い、後方にジャンプして間合いを取る。


「あんた、校長って言うのは嘘で偽物ね」

 エファがミカエルを糾弾する。

「偽物とは失礼な。わしこそ、フローナ女子学院校長、ミカエル オイレンベルじゃ」

「じゃあ、なんで校長のくせに生徒に手を出すのよ」

 ミカエルは笑いだす。今までの鷹揚な笑いではなく、エロ一色に染まった笑いだ。

「三ヶ月の監禁による禁欲生活でわしのエロ魂は爆発寸前なのじゃよ。生徒には手は出さんと決めていたが、もう限界じゃ。君らにはゴッドハンドの慰みものになってもらうぞ」

 ミカエルはヴァルキリーシステムモバイルを起動して作業着を戦闘衣の漆黒の燕尾服に変換する。

 ミカエルの右手が黄金に輝いている。エロ魂を具現化したゴッドハンドだ。


「ふざけんじゃないわよ、このエロ変態爺。ボコボコにしてやる」

 エファとユーディットも戦闘衣を着る。紅玉竜との戦いで損傷した戦闘衣はボロボロのままだが、ヴァルキリーシステムの中で戦うには戦闘衣を着なければならない。

「うひょー いい恰好じゃ。サービス精神旺盛じゃのう、ゴッドハンドが疼くぞ」

 損傷した部分から素肌や下着が覗いているエファ達を見てミカエルがことのほか喜ぶ。


「フォフォフォ、では、我がゴッドハンドの餌食にしてくれようぞ」

 ミカエルが動いた。ミカエルの動きは光の速さに近いものだった。ユーディットはおろか、エファもコリュウも全く反応できなかった。

 ユーディットの横をミカエルが駆け抜けた。次の瞬間、粉々に切り裂かれたユーディットの戦闘衣が舞い散る。

 下着だけの姿になったユーディットが今日何度目かの悲鳴を上げ、両手で体を隠すようにしてしゃがみ込む。

「どうじゃ、これが校長の力じゃ。生徒が太刀打ちできるものではないのじゃよ」

 ミカエルがいやらしい目つきでエファを見る。

「次は君だ。覚悟したまえ」


「待つでござる。これ以上の痴漢行為は拙者が許さないでござる」

 コリュウは着物の上着を脱いでユーディットにかけ、ミカエルの前に立ちはだかる。上半身裸になったコリュウを見て、ミカエルは渋面になる。

「忍者と言えども、手負いとあらば敵ではないわ」

 ミカエルが右手に充満しているエロの波動をコリュウに放つ。コリュウも体内で練った気を打ち出す、が、紅玉竜との戦いのダメージのせいで気が足りない。コリュウの気はミカエルのエロの波動にあっさり飲み込まれた。

 エロの波動がコリュウに命中する。

「ぐぬっ」

 コリュウがその場に崩れ落ちる。意識はあるが立ち上がれないでいる。


「フォフォッフォ、邪魔者は消えたぞい」

 ミカエルの強さは絶大で正面から戦っては勝てないとエファは悟った。ならば策を練らねばならない。エファはすごい速さで頭を働かせ、自分が助かる策を導き出す。

「校長、一つ相談なんだけど」

 エファはミカエルに近づく。


「あの貧乏人は好きにしていいから、私は見逃さない」

「エ、エファちゃん?!」

「と、友達を売るなんて何を言っているでござるか、エファ殿!」

 ユーディットとコリュウの声を無視してエファはミカエルとの交渉を続ける。

「ただで見逃せとは言わないわ。私を見逃したら、他の女子学生もここに連れ込んできてあげる。そうすれば校長の好きなようにできるでしょ」

 自分が助かりたいばかりに悪辣で卑劣なことを言うエファを、コリュウとユーディットは信じられない、と言った顔で茫然と見つめる。

「ふむ。悪い話ではないな。この地下倉庫にわしのハーレムが作れるというわけだのう」

 ミカエルは、彼にとってのバラ色の未来を思い浮かべ、鼻の下を伸ばす。その隙をエファは見逃さない。

 エファはジャンプ一番、ミカエルの顔面にとび蹴りを食らわせる。  


 エファ必殺のとび蹴りだったが、ミカエルはびくともしなかった。ミカエルは顔に当たっているエファの足を掴み、地面に着地させる。

「フォフォフォ、もっとお淑やかにしないとパンティがまる見えじゃぞ」

 ミカエルは右手でエファの戦闘衣のスカートの裾に触れる。その途端、スカートの腿より下の部分が消し飛ぶ。

「くっ」

 エファはミカエルから離れようとする、が、ミカエルがエファの足首を掴んで離さない。

「わしを油断させようという策は面白いが、悲しいかな、非力過ぎじゃ。さあ、覚悟せい」

 ミカエルがエファの短くなったスカートの中に右手を伸ばす。わざとゆっくりと右手を動かすのは、焦らしてエファに恐怖を与え楽しむ、という、駄目人間な嗜好ゆえだ。


「ちょっと、やめなさい。変なことしたらボコボコよ」

 エファが凄む、が、悲鳴になりかけている声ではいつもの迫力の十分の一も出ない。

 怯え焦っているエファを見て、嗜虐性とエロ精神を刺激されたのか、ミカエルは嬉しそうな顔になる。その表情は気持ち悪いを通り越してキモイことこの上ない。


「エファ殿、今、助けるでござる」

 ヘタっていたコリュウが、主人のピンチに気力を振り絞って立ち上がる。

「いまさら遅いわ。この者は、我がゴッドハンドの餌食じゃ!」

 ミカエルがエファのスカートの中に右手を入れる。

「忍法、身代わりの術」

 コリュウが術を唱える。エファとコリュウの位置が瞬時に変わる。


 ミカエルのゴッドハンドがコリュウの股間を激しく揉みし抱く。

「ぎょえええええ!」

 コリュウが断末魔の叫びを上げる。股間を両手で押さえて床を転げ回り、もだえ苦しむ。ミカエルのゴッドハンドに揉まれ、コリュウの股間は、すんごいことになっていた。

「ぬぐおおおおおおお!」

 ミカエルも断末魔の叫びをあげ、右手を押さえて床を転がりながら悶えている。

「お、男に触れてしまった。それも、あんな気色悪いものに! 手が腐る、手がああ……」

 ミカエルの右手が強力な酸に侵されたかのように、急速に溶けていく。

「エ、エファ殿、ユーディット殿、今のうちに、逃げるで、ござるうぅぅ」

 瀕死状態のコリュウが叫ぶ。その横ではミカエルが泡を吹いて仰向けに倒れている。


「校長の奴、瀕死みたいね。今ならやれるわ。さっきの恨みを晴らしてやる」

 エファは倒れているミカエルの顔面を蹴りつける。

「わ、私も」

 ユーディットもミカエルの膨らんだ腹を蹴りつける。普段、おとなしいユーディットにしては非常に珍しい行動だが、それだけ、怒り心頭に発していたのだろう。


「き、君たち、やめなさい。いた、痛いっ。校長を蹴るなんて生徒にあるまじき行為じゃ」

「うるさい! さっきまであんたがやっていたことは、校長にあるまじき行為でしょ」

 エファとユーディットは容赦しない。


「いい加減にしなさい。さもないとゴッドハンドの餌食じゃぞ」

「ふん。できるものならやって見なさい。あんたの弱点はもう見切ったんだから」

「このわしに弱点などあるものか」

 ミカエルが強がるが風前の灯だった。その灯をエファの一笑が吹き消す。

「あんた、男に弱いでしょ」

「ぎくぅ!」

 ふざけているわけではないのだろうが、ミカエルが言わなくてもいいうめき声をあげる。

「うわぁ、分かりやすい反応ですね」

 変なところにユーディットが感心する。


 ミカエルのコッドハンドは女性に対しては絶対的な強さを誇る。しかし、その反面、男が天敵になる。遠距離攻撃なら問題ないが、ゴッドハンドで男に触れると精神的苦痛を伴う拒絶反応でゴッドハンドが溶けてしまう。


「ほら、生意気なこと言ってるとコリュウの股間を揉んだことを思い出させるわよ。生温かくて、ぐにゃぐにゃで、卑猥な形をしていて……」

 エファはよく分からず想像で言っているだけだが、自分でも恥ずかしくなってきたのか、頬を赤くする。隣ではユーディットが顔を真っ赤に染めていた。

「ひいぃぃ。やめて、やめてー。思い出させないでー 手が腐るー」

 ミカエルが泣き叫ぶ。コリュウの股間を揉んだことが深い心的外傷になっているのだ。

「やめて欲しかったら、私のいうことを聞きなさい」

「聞く、何でも聞くから、もう、忘れさせてー」

 ミカエルはエファに全面降伏した。

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