第6話 女の子がサンドウィッチまみれになる回
背中の痛みで失神していたエファは目を覚ました。小太りの体を無理にねじった変な格好で仰向けになっていたので背中が痛んだのだ。
エファは立ち上がり、地下室を見渡す。おどろおどろしい声は聞こえず、電気もついている。ドアノブを回してみる。ノブは簡単に回り、扉が開いた。
エファは机の上の時計を見た。朝九時を過ぎていた。失神したまま寝てしまったようだ。
「幽霊が出たんだ」
エファは握った両手を口にあてて、ブルブル震えだす。
「何か対策を立てないと…… そうだ。エルマーに何とかさせよう」
エリート執事のエルマーならどんな難題でもどうにかするだろう。エルマーに丸投げすることに決め、エファは逃げるように階段を上り地上へ向かった。
朝食を食べる為エファは食堂に入った。
昨日まではエファグループの女の子達が一緒に食べようと声をかけてきたものだが、落ちぶれたエファに近寄ってくる者はいない。驕れる者は久しからずである。
「お金が無ければこんなものよね。貧乏友無しか」
エファは特に落胆する様子も無く、空いていたテーブルに一人で座った。
エファは友達がいなくなったことを、まったくと言っていいほど気にしていなかった。なぜなら、エファは一フローナにもならない、友達、に価値を見出していないのだ。価値の無い者が去ろうが、どうしようが、いちいち気に病むことではない。
「エファちゃん、おはよう」
誰一人近寄ってこなかったエファのテーブルに一人女の子が寄ってきた。長い黒髪を両耳の横で三つ編みにした女の子はユーディットだった。
「これから朝食? 一緒に食べよう」
ユーディットはエファの向かいの席に座る。
「あんた、今日に限って何で私に近づいてくるわけ」
エファは不思議だったので質問した。
「いつも一緒に食べていたよ。エファちゃんは気づいていなかったかもしれないけど」
ユーディットはのんびりした口調で答える。
ユーディットは、本人が言うようにいつもエファと食事をしていた。しかし、昨日まではエファの周りには取り巻きが多く、ユーディットはほぼ蚊帳の外にいたのでエファの眼中に入らず、記憶にも残らなかったのだ。
「私はサンドウィッチにするけど、エファちゃんは」
「私はシェフのお奨めよ」
「そんな高いメニューで大丈夫」
ユーディットが心配そうにエファを見る。シェフのお奨めは食堂で最も高いメニューだ。
「寝ぼけたこと言ってんじゃないわよ、貧乏人。これくらい大丈夫よ」
エファがウェイトレスを呼び、注文する。ユーディットもサンドウィッチを注文する。
ウェイトレスが
「残高が足りないようです。他のメニューにしますか?」
ウェイトレスがエファに問う。
「足りないわけないじゃない」
エファは
「何よこれ、どういうこと……」
「ねえ、エファちゃん。ペントハウスの修繕費や地下室の敷金がひかれたんじゃないかな」
ユーディットの言葉がエファの記憶を刺激する。
昨夜、ペントハウスを退去したとき寄宿舎の管理事務局からペントハウスの修繕費の請求があった。エファは好き勝手にペントハウスを改良していたので修繕費はかなりの額になった。また、地下室の敷金の請求もあった。
強制的に部屋を移動させられて自暴自棄気味だったエファは深く考えずに請求書にサインした。結果、エファの残高は五万フローナまで減ってしまったのだ。
エファは己の失態に気づき、呆然とする。
エファがお金を持っていないと悟ったウェイトレスはさりげなく去っていた。
「エファ様」
名を呼ばれエファは我に返る。エファの椅子の横に跪いたエルマーがいた。
「今月の執事代の引き落としができませんでした。口座の残高をご確認頂けるでしょうか」
「あ……」
エファは言葉を失う。エルマーの執事代は今のエファに払える額ではない。
エファはエルマーに執事代が払えないことを伝えた。執事代が払えないという貧乏ぶりが恥ずかしくエファは顔を真っ赤に染めていた。
こうしてエルマーとの契約は解除された。
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