第7話 黒い世界

暗闇を見た。

一面黒に覆われた世界。

目を閉じるより開けた方が暗く感じる闇の中で、

なぜか僕は歩いている。

何も見えない。何もない。

ただ灯りだけを探して。

想像を絶するほどの黒に圧倒されながら、手探りで歩みを進めるけれど、

体中に流れ込んでくる闇が僕を押し潰そうとする。

鼻からも口からも、どんどん闇が入ってきて、

呼吸すらままならない。

ついにしゃがみ込んでしまった僕は、来たるべき未来を冷静に受け止めた。

そして、覆い尽くす黒の中、全てを受け入れ目を閉じたとき。

色彩の中で目が覚めた。


目に飛び込んでくる景色は余りにもまぶしくて、

僕は戸惑う。

さっきまで息苦しいほどの闇にいたのに、この輝きは一体何なんだ。

あれが夢だとすれば、あまりにもリアルな夢だった。

黒い靄が絡みつく感覚を体が覚えている。

闇が呼吸器に浸潤してくる苦しさを知っている。それはここに広がる色彩と正反対のもの。

光を忘れ影と親しみ、

喜びをもがれ苦痛をあてがう。

全身があの黒に沈んだら、もうきっともう浮上はできない。それほどまでに圧倒的なもの。

そう、それは「絶望」だ。

絶望に包まれたとき、抵抗することを忘れた。

絶望に包まれたとき、歩くことを忘れた。

絶望に包まれたとき、呼吸を忘れた。

もう為す術もなく打ちのめされたのだった。

それなのに、あの闇から逃れられたのに、僕はなぜかまだ闇を思う。


目を閉じる。

あのときの黒が蘇る。

逃げ切れない闇が僕の中にある。

僕は光も色彩も知っている。

そこへ向かいたい、たどり着きたいと思うけれど。

きっとそれは、純粋な憧れではなくて。

ぐちゃぐちゃの感情と思いの中で、

いつか輝く景色の中にたどり着ける日まで。


僕は絶望と共に歩いて行く。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る