第5話 赤い夢

赤い夢を見た。

ただひたすら赤の中を泳ぐように歩いて。

空気はほのかに重く、体もすっとは動かない。

それでも何かに急き立てられるように赤を歩く。

そしてそれは、何度も何度も繰り返した。

眠るごとに深まる赤。

そしてなんの策もなく、ただひたすら歩く僕。


赤い夢を見た後は、ひどく寝覚めが悪い。

窓から差し込む朝の光で、

手のひらをぼーっと眺めてみたりする。

そんなことをもう何度も何度も繰り返しているのに、

やはり赤い夢を見てしまう。

望む望まないにかかわらず。

これが何かの暗示なら、きっと僕は不幸になる。

そんなことを思いつつ少し笑う。

夢に運命を握られたくはないから。


赤い夢を見た朝はどうにも体がぎこちない。

五感のすべてを置き去りにして、

体だけがベッドに横たわっている、そんな感覚。

違和感だらけの感覚なのに、

なぜかそれに慣れようとしている僕がいる。

ひどく罪深い気分だ。

夢に沿おうとしている己に対してか、

はたまたそんな夢を見ていることに対してか。

それでも僕は、どうしてもそれにとらわれている。


赤い夢から目覚めた僕は、窓から空の青を見る。

澄み切った空を見た目は、ひとりでに涙を流す。

ああ、ここではこんなに息が吸える。

風を感じ、光に包まれ、それが当然のことのように。

そして僕は知る。

あの夢での赤が、僕の流した血であることを。


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