第3話 紫

紫。赤と青。静脈と動脈の血がまじりあったとき、街は紫に染まる。

怒りの赤、嘆きの青、この世界は紫だ。


ところどころまだ紫にに包まれていないところがあって、そこは真っ白に輝いて見える。

手を触れたくても触れられない気高き輝き。

紫に侵されかけている僕に、それは「永遠」という言葉を思い出させる。


子供の靴下、校舎裏の落書き、割れたガラス、夜中の公園----

いまだ浸食されていないものを追いかけて転がり続けてみても、

日増しに紫は世界を覆い、飲み込んでいく。

紫に人々を吸い込む紫色したビルディング。

夕日を反射する窓ガラスが紫の視線を放ち、僕は動きを封じ込める。

僕はまだ、飲み込まれるわけにはいかない。

完全に染められてはいけないのだ。

もしも飲み込まれてしまう日が来たら、

自らの静脈血を動脈血を絡ませて、

自らの命を絶つまでだ。

それにはひとかけらの恐怖もない。

恐ろしいのは、紫が音もたてずに忍び寄ってくる今、その時だ。


窓の外から穏やかな風が入ってきたとき、僕はとっさに身構える。

紫が密かにココを侵し始めたのかもしれないから。

息をひそめ、身を固くしながらただ時が過ぎゆくのを待つ。

僕の内なる紫が、圧倒的多数で押し寄せる外の紫を呼ぶのがわかる。

それでも僕は、紫に飲み込まれることを拒み続ける。

誰かの感情に取り込まれたくはない。

僕は僕だけの感性の中で生きていたい、ただそれだけ。


紫。赤と青。静脈と動脈の血がまじりあったとき、街は紫に染まる。

そして僕は、何物にも染められず、ひっそりひっそり歩いていく。

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