第14話「想い変転」
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フランス人のお母さんの血を色濃く受け継いだ私は、日本人離れした容姿をしている。
金髪はふわふわと手触りよく、碧眼はぱっちり大きく、外国映画のお姫様みたいだとよく言われる。
胸もある。お腹にはくびれがあり、お尻だってたいしたものだ。
モデルやアイドルにならないか、なんて話も後を絶たない。
当然モテる。
全校男子の注目の的だし、男性教師たちからだって熱視線が注がれてる。
反面、女子は嫉妬する。
あることないこと噂する。嫌がらせだって後を絶たない。
全部全部、くだらないことだと思ってた。
私を中心に描かれる円の中には、まともな人間が生息していない。
運動、勉強、外見、矜持。
誰一人、私とタメを張れない。対等な目線でものを語れない。
昔からそうだったように、それはきっと、高校生になったって変わらない。
どいつもこいつもガキばかり。相手にするだけ時間の無駄。
だから私は心を閉ざしていた。
極力省エネで、平坦な日々を送ろうと思っていた。
──だけどそいつはそこにいた。
三条永遠子。呼び名はトワコさん。
勉強させれば学年1位。
運動させれば全国トップクラスの数値を造作も無く叩き出す。
月の女神みたいに綺麗な顔立ちも合わさり、彼女は瞬く間に学校一の人気者の座に踊り出た。
メラメラと、闘志に火がついた。
生まれて初めて、誰かに負けたくないと思った。
勉強も、運動も、外見も、矜持も恋も──あらゆる分野で彼女に勝ちたい。
トワコさんの想い人が先生なのは、誰の目にも明らかなことだった。
時おり向ける熱視線。
何気ないふたりの会話。
彼女は芯から先生に惚れていた。
先生そのものにはさほど興味はなかったけど、私は動き出した。
親し気に声をかけて。
甘えるように体を触って。
わざわざお弁当を作ってあげて。
だけどあの人は、ちっとも嬉しそうな顔をしなかった。
ただただ、困ったように笑ってた。
そのくせ、いつもトワコさんのことばかり気にしてた。
機嫌を損ねないよう、びくびくした目で窺ってた。
トワコさんが楽しそうにしてると、目を細めて喜んだ。
子供を愛でる親のような、彼女を見守る彼氏のような、いくつものタイプの愛情の折り重なった、そんな表情。
いつからだろう──
その顔を見るのが苦痛になった。
ずきずきと胸が痛んで。
頭に血が上って。
考えすぎると悲しくなった。
夜中に突然涙が出た時に、ようやく気づいた。
ミイラ取りがミイラになるように。
もはやトワコさんに勝つとか負けるとかではなく、ただ単純に、ごく純粋に。
私はあの人のことが、好きになってしまっていた。
その日私は、ある決意を胸に秘め、先生のあとをつけていた。
偶然を装って、よきタイミングで捕まえて、この想いを伝えよう。
張り裂けんばかりの胸の内を伝えよう。
そう思っていた。
先生はまっすぐ家には帰らず、駅近の公園に立ち寄った。
周囲を窺ってから、独り言を話し始めた。
まるでジャングルジムの上の誰かと話しているようなパントマイムまでしてみせた。
最初はただ不思議に思って眺めてた。
意外にユニークなところのある人なんだと、こっそりくすくす笑ってた。
なかなか終わらないのでしびれを切らした。
頬を張って気合いを入れ、つかつかと歩み寄って声をかけ……ようとしたところで、先生の口がその言葉を発した。
──やめてくれ! マリーさん!
って。
たしかに先生はそう言った。
誰も知らない私の秘密を。
鞄の中に封印されているあの秘密を。
なぜか先生は知っていて……。
……そのあとのことは、よく覚えていない。
先生の制止を振り切った気がする。
無我夢中で走った気がする。
たぶん電車に乗って、家にたどり着いて、2階の自室に駆けあがって……。
ベッドに突っ伏した私は、ボロボロと泣きだして……。
翌日、学校を休んだ。
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