1話目
午前5時15分。
何度見ても変わらない時計に、俺はため息をつく。
早起きは三文の徳、と聞くが、早く起きたところで何もすることがなければ徳も何もあったもんじゃない。
しかし起きてしまってはどうしようもない。どうしようか。
選択肢は2つ。
二度寝をするか、仕方がないから部屋の外に出るか。
1つ目の選択肢。これは最早あってないようなものだろう。それもそのはず。
俺は、生まれてから自分の記憶がある限り二度寝などしたことがない。
よって、必然的に部屋の外に出なければいけないわけだ。
その前に、まずは顔を洗おう。流石に寝起きのままで人に会うわけにはいかない。
そもそもこの時間に起きてるような奴もいないだろうが。
ベッドから起き上がり、改めて無駄に広い部屋を見渡す。
他の部屋も同じような造りだが、一言で言えば白い。いや、まあ病院なのだから当たり前だけど。
ドアを開けると俺が今いるここ、ベッドの置かれたいわゆるリビングのような場所がある。部屋の左側にはクローゼットのみならずキッチン、冷蔵庫まで置かれている。
部屋の右側にあるドアの先は洗面所および浴室。普段は友人と大浴場に行くので部屋の風呂は滅多な事がない限り使わない。
1部屋あたりがこれほど広く、金がかかっているわけ。
それはあまりにも特殊な病気のせいだろう。
俺は洗面所のドアを足で蹴り開ける。
鏡に映った自分を見て、またいつもの通り酷い位に髪が跳ねている。
そして蛇口をひねり、流れる水に手をつける。とたんに、カラン…と乾いた音が響く。
しまった、と思ってももう遅い。
そう。これが俺の病気。
症状:『触れた物が宝石になる』。
流し台には、何粒かの小さなサファイアが転がっていた。
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