2話目



なんとか部屋を出た俺は、部屋と変わらない真っ白な廊下を歩いていた。


俺の症状、『触った物が宝石になる』。

なかなかやっかいだが、医者のおかげでいろいろなことが判明している。

例えば、触っても宝石に変化しない物質があるということだ。

具体的にいえば、ゴムや金銀銅、その他少しの金属くらい。あとは人体くらいだろうか。

これらの物体越しであれば、その他の物質に触る事もできる。

なので、俺は普段は、医者が使うようなゴム製の薄い手袋を着用している。

正直、これがあるだけでやりにくいこともあるけど、触ったものが全部宝石になるよりかはまぁましだろう。


そんな事を思いながら渡り廊下を歩いていたとき、ふと中庭に人影が見えた。


誰かいるのか、と思って、俺は中庭へと向かった。



*~*~*


「お、エディだ。おはよー」

「おはよう。デュークだったか」

俺をエディと呼んできたのはデューク。この病院に入院している中では唯一の常識人だと思う。

「どうしたの、こんな早く」

俺がそう聞くと、デュークは笑いながら答える。

「いやー…目が覚めちゃったからどうしようかと思って。ここなら朝焼け見れるだろ?」

そう言ってデュークが指差す方を見る。


雲が赤く染まり、もうすぐにでも太陽が顔を出し始めそうだ。


「…こんなところで見れたんだ」


俺が感嘆の声をこぼすと、デュークはまた笑った。


「俺も見れるとは思わなかったよ。朝の探検ってのもなかなかいいもんだね」

とは言っても、最近は朝に曇ってて見れなかったけどね。と続ける。


「最近はいつもこの時間には起きてるの?」

俺が聞くと、デュークは頷く。

驚いた。

今まで、デュークは朝食の時間が来るまでは絶対に寝ていたのだ。それが、どうしてこんな早い時間に…。


俺の考えている事がわかったのか、デュークが口を開く。

「なんでだろうな。最近はこの時間に目が覚めるんだ。」

そう言うと、近くのベンチに座り、

「なぁ、エディ。見ろよ向こう。」

言われるがまま、そちらを向く。


すると、空が赤く輝いていた。地平線からは太陽が顔を覗かせ、新しい1日の始まりを告げる。


「…すげぇ」


そして、デュークが俺に問いかけた。


「…どうして、朝焼けって綺麗なんだろうな」


「どうしてって、朝が1番空気が綺麗だからじゃないのか」


俺の答えを聞いてか、太陽が眩しかったからなのか、デュークは目を細める。


「…俺はさ、それが決して手に入れることのできない、一瞬のものだからじゃないかって思うな」


言った事に首を傾げると、


「…まぁ、君もそのうちわかるさ。」


デュークはそう言って立ち上がり、歩き出す。


「1つだけ言わせろ!」


俺は眩しいその背中に一言。


「お前も俺と年変わんねーよ!!」


デュークは、左足を引きずりながらひらひらと手を振るだけだった。

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