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雨はやわらかく雪の身体を包んで、濡らしていた。十字路の真ん中で、雪は周囲を見渡した。遠くの方に人が見えた。ただ、それは異様な光景だった。


なかには学校のクラスメイトもいるようだった。みな、ようやく顔が見えるくらいの遠くの方で集まり、こちらを見ていた。雪は戸惑い、反対の道を見た。すると、雪に馬乗りになって顔をなぐった女子がその中にいて、こちらを、雪を恐怖のまなざしで見ていた。


微動だにしないその人の群れを、雪は、何かの間違いかと思い、いま来た道を見たが同じことだった。


『逃げられない』


雪にとっては、それが一番怖かった。十字路の真ん中、車も人も、しんと静まり返り、雪を遠巻きにしていた。それも唐突に始まり、いつまでも終わらない拷問のように、そのほかの考えを赦さなかった。


雪は、彼らの注意の先に自分しかいないことを、認めざるを得なかった。あまりに、作りものじみた状況だった。


嘘みたいな現実に振り回され続けて、最期が極めつけなんて、あまりにむごい。いったい何が本当のことで、雪は、いったいどうすればよかったのだろうか。


正解が欲しかった。生き方を間違えたのだろうか。もしかして本当に雪は、大きな罪を働いたのか。だからこうして、たくさんの人になぶり殺されて死ぬのか。


いくら思い返したって、雪には何もなかった。いくら考えても、何も浮かばない。いったい自分がどうやってここまで生きてきたのかだって、いまとなれば、怪しいものだ。


額に手をやる。そういえば、足が痛くてしようがない。走りすぎたのだ。雪は道路の真ん中で腰を下ろす。


おりしも、空は雲でおおいつくされ、太陽のかげも、その向こうに消えた。雨混じりの突風は、ぼたぼたと大粒の雨へと変わり、雪の頭や首筋、背中と、どこへとも構わず、その身を叩きつけた。


まるで川の中にいるようだと思うほどに、雨はひどく降りつづけた。

アスファルトに跳ね返る雨しぶきの向こうに、人がいるのかいないのか、それさえも分からなくなっていた。


流れ落ちるのならば、自分の命が流れればよいのにと、雪は思った。


その味わってきた痛みごと、彼のあるかないかの罪も、まるごと消し去ってくれればいいのだが、それだけはだめなようだった。どれくらい経ったのか、もし襲ってくるのならば、「時間切れ」と思えるくらいの時間が流れたはずだ。


雷鳴がとどろき、地響きがして、雷がいくつも地表に落ちる。目を焼くような光が明滅するのは、「空」という果てしないスクリーン上のことで、雪の命には関係ない。だから、これもまたよくできた作りものだ。雪はため息をつく。


『あぁ、早くしてくれ』


雪の心の声は、図らずも天に届いた。



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