-4-
雨はやわらかく雪の身体を包んで、濡らしていた。十字路の真ん中で、雪は周囲を見渡した。遠くの方に人が見えた。ただ、それは異様な光景だった。
なかには学校のクラスメイトもいるようだった。みな、ようやく顔が見えるくらいの遠くの方で集まり、こちらを見ていた。雪は戸惑い、反対の道を見た。すると、雪に馬乗りになって顔をなぐった女子がその中にいて、こちらを、雪を恐怖のまなざしで見ていた。
微動だにしないその人の群れを、雪は、何かの間違いかと思い、いま来た道を見たが同じことだった。
『逃げられない』
雪にとっては、それが一番怖かった。十字路の真ん中、車も人も、しんと静まり返り、雪を遠巻きにしていた。それも唐突に始まり、いつまでも終わらない拷問のように、そのほかの考えを赦さなかった。
雪は、彼らの注意の先に自分しかいないことを、認めざるを得なかった。あまりに、作りものじみた状況だった。
嘘みたいな現実に振り回され続けて、最期が極めつけなんて、あまりにむごい。いったい何が本当のことで、雪は、いったいどうすればよかったのだろうか。
正解が欲しかった。生き方を間違えたのだろうか。もしかして本当に雪は、大きな罪を働いたのか。だからこうして、たくさんの人になぶり殺されて死ぬのか。
いくら思い返したって、雪には何もなかった。いくら考えても、何も浮かばない。いったい自分がどうやってここまで生きてきたのかだって、いまとなれば、怪しいものだ。
額に手をやる。そういえば、足が痛くてしようがない。走りすぎたのだ。雪は道路の真ん中で腰を下ろす。
おりしも、空は雲でおおいつくされ、太陽のかげも、その向こうに消えた。雨混じりの突風は、ぼたぼたと大粒の雨へと変わり、雪の頭や首筋、背中と、どこへとも構わず、その身を叩きつけた。
まるで川の中にいるようだと思うほどに、雨はひどく降りつづけた。
アスファルトに跳ね返る雨しぶきの向こうに、人がいるのかいないのか、それさえも分からなくなっていた。
流れ落ちるのならば、自分の命が流れればよいのにと、雪は思った。
その味わってきた痛みごと、彼のあるかないかの罪も、まるごと消し去ってくれればいいのだが、それだけはだめなようだった。どれくらい経ったのか、もし襲ってくるのならば、「時間切れ」と思えるくらいの時間が流れたはずだ。
雷鳴がとどろき、地響きがして、雷がいくつも地表に落ちる。目を焼くような光が明滅するのは、「空」という果てしないスクリーン上のことで、雪の命には関係ない。だから、これもまたよくできた作りものだ。雪はため息をつく。
『あぁ、早くしてくれ』
雪の心の声は、図らずも天に届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます