第28話 7月21日(土)



「自殺したあと、幽霊になったのは意外でした。幽体離脱と幽霊は、あくまでも別物だと思っていましたから。

「幽霊になると、やっぱり今まで見えていた景色とは大きく違ってしまいます。やっぱり、帰る肉体が無いっていうのは、怖いものです

「怖くて怖くて仕方がなくて

「幽霊になった私は、りょーたんと一緒にいる事にしました。

「りょーたんを追い詰めたにも関わらず、それでも私はりょーたんのいる場所に向かっていました。家を探してもいなくて、公園にいたらりょーたんが落ち込んでて


「つい、声をかけたのです

「りょーたんを、慰めたくて


「りょーたんのショックは軽くなって、私が自殺した意味が少し薄れたかもしれないけど、それよりも、ずっと一緒に居られる事の方がうれしかったのです。

「…………不思議なものですね。私は、りょーたんのショックが重くなる事を望んでいたんですから。それなのに、慰めようとしていたんです


「でも、そんな幸せは長くは続きませんでした。

「斑鳩さんの登場です。


「彼女は探偵で、その上事件の調査をするとか言いました。このままでは、私のしたことが明るみになってしまいます。それだけはごめんでした。

「りょーたんに、真実を知ってほしくはなかったのです。

「なので私は、偽装工作を行う事にしました。どうせ小説通りに人を殺したのなら、もうちょっと殺して、小説通りに殺人事件を起こしているようにみせかけたのです。

「でもそのためには、犯人を用意する必要がありました。事件を形の上だけでも、解決させる必要がありましたから。


「犯人役にふさわしいのが、瑠々島ちゃんでした。


「私は瑠々島ちゃんに、昔の友達の事を聞いていました。一つ上に、とても仲の良い友達がいたと。でもその人は、いじめられて死んでしまったと。

「生前、私はその事について調べていました。その結果、あの三人が瑠々島ちゃんの友達を殺していた事も知りました。

「犯人を調べても、でも私にはどうしようもできませんでした。

「その事を先生に話しても、先生方は高峰先輩の方を信じるでしょうし、そもそもどうやって調べたのかを話す事もできません。

「でも幽霊になったら、その人たちを殺すことができます。なので私は、瑠々島ちゃんの友達の敵をとる事にしました。

「それが瑠々島ちゃんのためにもなると、そう思っていました。もっとも、その後瑠々島ちゃんを殺してしまうんですけど

「そしてその殺人は、同時に私のやってしまった事を隠すこともできました。

「友達である瑠々島ちゃんの無念も晴らせる。そして私のやったことも隠蔽できる。まさに一挙両得、一石二鳥な作戦でした。

「そこから私は、水無月先輩を殺して、高峰先輩を殺して、加佐見先輩を殺しました。

「その事は、瑠々島ちゃんも承知の上でした。

「私は瑠々島ちゃんに自分の計画を話していたのです。勿論、最後に瑠々島ちゃんを殺すことは黙っておいてです。

「そして私は言いました。瑠々島ちゃんの祈りがないと、私はこの世には居られない。生きている人間の強い思いが、私をこの世にとどめる力になると。


「勿論嘘です。

「適当な嘘です。


「でも瑠々島ちゃんは信じてくれました。自分のオカルト趣味に合わせて、色々な道具を持ち歩ていたようですし。

「そうやって瑠々島ちゃんにも何かしらの行動をさせる事で、瑠々島ちゃんは共犯者になりました。


「共犯者なら、私を裏切らないと、そう考えました。


「そして殺人計画は順調に進み。

「加佐見先輩を殺したあたりで、計画はもう十分に達成しました。

「ここまで行けば、もう私が疑われる事もないでしょう、そう考えました。そのころには、斑鳩さんやりょーたんも、なんとなく事件の全貌をつかんでましたし。

「特に斑鳩さんは、瑠々島ちゃんの動機をつかみ始めていましたし。


「このままいけば、犯人は瑠々島ちゃんです。


「そして私は瑠々島ちゃんを殺しました。もう瑠々島ちゃんは用済みでした。

「あの日、りょーたんと一緒に学校に行った日、私は予め瑠々島ちゃんを呼び出していました。

「斑鳩さんが、瑠々島ちゃんの情報をつかんだのを知っていましたし、そのまま行けば今日中には瑠々島ちゃんを捕まえようとすると判断しました。

「私たちが学校に行くことになるかどうかは賭けでした。部外者である斑鳩さんは、これ以上学校に行くこともないだろうとは考えましたが、でも変装してまで学校に来る人ですからね、確証はありません。

「ただまあ、どっちでもよかったんですけどね


「結局やるべき事は、瑠々島ちゃんを殺すというその一点だけですし。

「りょーたんと一緒に学校に行く方が、何かと便利だっただけです。


「そして学校に行って別行動をした私は、瑠々島ちゃんに憑りつきました。

「あとはもう簡単です。屋上から飛び降りるだけです。

「遺書は、あらかじめ用意していました。それを置いておけば、自殺になりますしね。

「りょーたんや斑鳩さんが瑠々島ちゃんを犯人だと断定したタイミングで、瑠々島ちゃんが死ぬ。

「そうすると、完全に瑠々島ちゃんが犯人だと思いますよね。

「そして私の計画は終了しました。

「ついでに邪魔な斑鳩さんも殺して、これで私のやった事はだれにもばれないと、そう思いました。


「…………でも、現実は違いますね。

「こうやって、りょーたんに追い詰められているんですから」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る