第27話 7月21日(土)
そこまで聞いて、もう僕の心は限界だった。
「…………なんで、そんなことを…………」
「何がですか?」
何もかもが、理解できなかった。
僕を盗られないために、輿水を殺した? 僕の心に残りたいから、自殺した?
ふざけるなよ、さっぱり理解できない。
僕は陽香の方を見る。今、僕はどんな顔をしているのだろう。きっともう、何もかもに絶望して。
自殺でもしそうな顔かもしれない。
「…………輿水と僕と陽香。三人仲良くしていたじゃないか。昔の話かもしれないけど、僕たちはいつも遊んでいたじゃないか」
「ああ、その事ですか」
その言葉は、まるで思い出になんの意味も見出していないような、冷たい声色だった。
いや言葉だけではない。表情も、熱を感じさせない冷たいものだった。なんでだろう、いつもと変わらない笑顔のはずなのに。
「でも凛ちゃんは、私を助けてはくれなかったのです」
「え」
「私がいじめられてた時、凛ちゃんは気づいていたのです。でも、気づかないふりをした。りょーたんと違って」
「…………そんな」
「凛ちゃんは、ああ見えていい人ではないのです。勿論友達思いな所はちゃんとありますけど、でも恋愛の方を優先するような人なのです」
陽香が他人の悪口を言っているのを、初めて聞いた。陽香はそんな風に人の悪口を言うような人間ではないと信じていたのに。ましてや、友達の輿水の事を。
……………………いやそれも気づかなかっただけか。少なくとも僕は、輿水の事も陽香の事も何も知らなかった。
「凛ちゃんは、私が転校でもしてくれればいいと思っていたのです。なにせ恋のライバルですから。子供って残酷ですよね、そんなこと平気で考えつく。でもりょーたんは勿論違いました」
僕は最低だ。二人の気持ちに気づかず、ただ適当に生きていた。
輿水の事が好きだった。でも告白なんてする勇気もなくて、自分の気持ちに答えを出すことを、ずるずると先延ばしにしていた。
陽香が僕の事を好きかもしれないって、思った事がないなんて言えない。でもそんなわけないって、陽香と向き合う事に逃げていた。
……………………つけなのかな。こうやって人の気持ちから逃げて、向き合わなかった。いや、つけだなんてそんな曖昧な言葉ですらないだろう。
きっとこれは、ただの罰だ。
「りょーたんは私にいってくれたのです。お前が傷ついたときには、ずっとそばにいてやるって」
―――――りょーたんは、私を嫌いにならないよね?
―――――りょーたんだけは、私の事をずっと見ててね。
その言葉に、僕はそう返したのか。そんなことを言っていたのか。
僕は無責任にもすっかり忘れて。でも陽香はずっとそれを引きずっていたのか。
「その言葉に、私は救われたのです」
陽香は本当に、うれしそうに微笑んだ。僕はそれに向き合う事すらできない。
そして陽香はこういった。
「だから、人だって殺せるのです」
本当に、なんて罪深いのだろう。
僕という人間は。
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