第26話 7月21日(土)




「まず、私が凛ちゃんを殺したのは事故でした。あの日、凛ちゃんが死んじゃったあの日、私は凛ちゃんに呼び出されていたのです。話の内容は、りょーたんについてでした。それは恋の相談でした。凛ちゃんはりょーたんの事が好きで、だから私に協力してほしいと、そう言ったのです。でもそれは、言うならば挑戦状のようなものだったんでしょう。


「だって私も、りょーたんの事が好きだったんですから。


「勿論、凛ちゃんだってその事は知ってました。私がりょーたんの事を好きだって。多分それは、小学校の頃からだと思うです。だって私は、そのころからもうりょーたんの事が好きだったんですから。

「凛ちゃんは、私からりょーたんの事を奪おうとする気だったんです。実際、凛ちゃんはこう言いました。

「鬱陶しいから、賀上君から離れて。私にだって、賀上君の事を好きになる権利があるの。

「何を言っているのでしょう、私には訳が分かりませんでした。りょーたんは、私と一緒にいてくれるって、そう約束したのに、この人は何を言っているのでしょう。そう私は思いました。

「私がそう思っていると、凛ちゃんは懐から包丁を持ち出しました。それで脅迫するつもりだったのでしょう。凛ちゃんはその包丁を私に向けてきました。

「私がそれで引くと思っていたのなら、滑稽だなと思いました。私の愛がそんなものだと思っていたのかと。


「結局、その包丁が刺したのは私ではなく凛ちゃんでした。


「私たちは取っ組み合いのけんかをして、結果として包丁が凛ちゃんのおなかに刺さってしまったのです。

「その時は、凛ちゃんはすぐに意識を失っちゃいましたが、かろうじて生きてました。

「かなりの重傷でしたし、放っておけばすぐ死んでまうような状態でした。

「その時私は思ったのです。凛ちゃんを殺してしまおうと。

「いくら凛ちゃんが包丁を持ち出したと言っても、刺したのは私で間違いないです。それに、凛ちゃんがある事ない事言ってしまえば、私が疑われる可能性はあります。

「包丁を持ち出したのも、それで私を脅したのも凛ちゃんです。私が疑われる可能性なんて、一パーセントくらいでしょうか。

「でも一パーセントでも可能性があるのなら、それだけは避けなくてはいけませんでした。


「それだけは嫌だったのです。

「りょーたんにだけは、嫌われたくなかった。


「だから私は、凛ちゃんに憑依して、飛び降り自殺をしました。

「実は私、生きてるときでも幽体離脱ができたんですよ? だって斑鳩さんもいってたじゃないですか、超能力に目覚める人間は、その予兆があるって。でも私に、そんな予兆を感じなかったでしょう?

「私は元々、超能力者だったのです。

「私よく、りょーたんが昨日してたこととか当ててましたよね? りょーたんは私が当てるたびに、関心してましたけど、あれは勘じゃなくてただのいかさまです。

「私はりょーたんの行動を、よく幽体離脱してみてましたから。

「とにかく幽体離脱の能力を使って偽装工作をして、その場は一件落着でした。

「でも気づいちゃったのです。凛ちゃんが死んで、とっても落ち込んでるりょーたんの姿を見て。その時私は初めて気づいたのです。りょーたんは、凛ちゃんの事が好きなんだって。そしてそれは、私が凛ちゃんに勝てないと気付いた時でもあったのです。


「りょーたんの心に凛ちゃんが残っていては、りょーたんは私を見てはくれません。


「このまま私とりょーたんが結ばれても、りょーたんはずっと凛ちゃんの事を忘れないでしょう。もし結ばれたのが、赤の他人だったら。りょーたんだって忘れられるかもしれない。でも私じゃあ、りょーたんは一生引きずるだけなのです。私たち三人が、幼馴染だから。私たち三人が、三人でいたから。


「その時が、私が自分の敗北に気づいたときでした。


「このままじゃりょーたんの眼には、凛ちゃんしか浮かばない。そう思った私は、死ぬことにしました。

「単純に失恋のショックで、悲しくなったという理由もあります。でもそれだけでは無かったです。

「私が死ねば、りょーたんの心には、凛ちゃんだけじゃなくて私も浮かびます。そうすれば、私はりょーたんの中で生きられるし、凛ちゃんにも並ぶ事ができます。

「私が凛ちゃんに並ぶ方法なんて、それしかなかったです。

「そしてさらに私が考えたのが、よりショッキングな死を選ぶ事でした、ただ死ぬだけじゃあ、私は凛ちゃんと同じ、それじゃありょーたんの心に一番は残りません。結局並ぶだけですから。でもその死体を直接見たら? その死体がとても猟奇的なものだったら? 多分一番心に残りますよね。

「私はその時、ちょうど瑠々島ちゃんから、小説の事を聞いていました。瑠々島ちゃんにしてみれば、たわいのない世間話ですが、私にとってもはとても大事な情報でした。

「その小説通りに死ねば、りょーたんの心に残る。そう考えたのです。

「事件の事に少しでも不信感を持てば、事件の事を調べます。そうすると、凛ちゃんと私の死が、その小説通りに行われている事になります。

「りょーたんは、もしかしたら私たちの死が、誰かによるものだと思うかもしれないです。

「そうすれば、りょーたんは犯人に対して強い憎しみを抱くでしょう。その憎しみと一緒に、私の事も強く心に残ります。

「しかも犯人は見つからないですから、私の事を忘れる事は一生無いです。

「犯人が見つかる訳ないですよね、自殺なんですから。

「それを思いついた時、私は自分の超能力が神様からの贈り物なのだと気付いたのです。

「愛に生きる私を祝福する、贈り物だと。

「そこからの私の行動は早かったです。りょーたんにメールを送る前に、幽体離脱して自分のからだをくくって、自殺の準備をして、メールをおくったら体に戻って自殺する。たったそれだけ。

「そして私を、りょーたんが発見してくれたのです。そしてその時。


「その眼に、私の死体だけが色濃くうつったのです」



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