事件の後始末

第24話 7月21日(土)



 今週末、僕は自分たちの学校の屋上にいた。特別棟の屋上、それは輿水の飛び降りた場所でもある。

 今日、待ち合わせにここを選んだ理由は、特にない。というより、理由が多すぎて一つにはできないのかもしれない。


「……………………」


 斑鳩さんは、泊まっていたホテルで服毒自殺をしたらしい。朝になってホテルマンが遺体を発見した。遺書がしたためられており、内容はとても短いものだった。

 『自分の罪を償う人生に疲れてしまった』と、そう書いてあったらしい。

 僕にこの話をした烏丸さんは、電話越しでは涙を聞かせなかったものの、その声は枯れ果てていた。無理もない、斑鳩さんの事を、烏丸さんはとても心配していた。それこそ、わざわざ僕に会いに来るぐらいだ。

 斑鳩さんは、何を最後に考えていたんだろう。どんな気持ちで自殺したのだろう。いやきっと、何も考えていなかったに違いない。それは、僕の考えが正しければの話だけれど。


「……………………」

「お待たせですー」


 物思いにふけっていると、空の向こうから陽香がやって来た。宙を飛んでこれるのだから、幽霊は本当に便利だと思う。


「遅いじゃん、陽香。僕この暑い中、ずっと待ってたんだぜ」

「そう思うなら、あんな分かりにくいメッセージはやめてほしいです。りょーたんの部屋においてある書置きなんで、普通は気づかないですよ」

「はは、でも陽香は気づいたじゃん。僕は、陽香なら気づいてくれるって思ったから、自分の部屋に置いといたんだぜ」


 そんな都合のいい事言って、りょーたんはしょうがないです。

 そう言いながらも陽香は案外まんざらでもなさそうだった。


「どうしたんです、こんな所にまで呼び出して。いけない相談ですかー?」

「いや、ちょっと、聞きたい事があってさ」

「聞きたい事ですか? 別に学校じゃなくても…………」

「ここの方がいいかなって思って」


 いろんな意味でさ。

 陽香は、ふわふわと飛んでいたのを止めて、僕の隣に立つ。そして、二人で、屋上の淵から町を見下ろす。


「よーし、なんとでも聞くがいいですよ! お姉さん、質問になんでも答えるです!!」

「はは、ありがとう」


 ここ数日のあれこれで元気のない僕を、励まそうとしているのだろう。その心遣いがとても嬉しくって、だからこそ、今からする話がとてもつらい。

 きっと僕は、いまから言う言葉を、いつまでも後悔するだろう。それでも僕は、言わなくてはいけないと思う。


「あのさ、陽香」

「はい!」


 そして僕は言う。かつて斑鳩さんが出来なかった事をする。


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