第22話 7月14日(日)
瑠々島璃流華。二年A組の生徒で、部活動は文芸部。
彼女は、いじめられて転校した巻波萌花の友達だったらしい。友達というよりは、あるいは親友といってもいいのかもしれない。二人は、幼馴染だったのだ。年齢こそ一歳は離れているものの、幼い時はとてもよく遊んでいたらしい。
しかし、中学校の進学先が別々になり、二人はしばらく疎遠になっていたらしい。そして瑠々島璃流華が中学三年生で、巻波萌花が高校一年生の時に、いじめ事件が発生した。
『彼女のオカルト趣味は、そこから始まったらしい。高校にもよくアクセサリーの類を持ち込んでいたらしいとも聞いた』
斑鳩さんは、瑠々島さんの情報について、あらかた教えてくれた。
「でも、それだけじゃあ犯人と決まった訳じゃないんですか」
『しかし、彼女が被害者たちに恨みを持っているのは確実だ。それに、生徒会長である高峰晶紀君、彼女も当時、水無月巫女君や加佐見華君と同じクラスだったんだ』
「それじゃあ、高峰先輩もいじめに加担していたっていうんですか」
『もし彼女が加担していたら、事態の表面化をある程度防げたかもしれない。なにせ彼女は、先生方への強いパイプがあるからね』
五人死んだうち、三人がいじめ事件の主犯格だった。この事実だけを鑑みれば、犯人はそのいじめ事件の関係者とみてもいいのかもしれない。
そして現在。僕は、学校に来ていた。斑鳩さんは町の方を探索したり、何とか連絡を取れないか当たってみるそうだ。
僕の役割は、彼女の行きそうな場所を当たる事で、その第一候補がこの学校だった。
「りょーたん、いくですよ」
「よっこいしょっと」
日曜日なので当然学校は締まっていた。なので僕は陽香の手をかりて、学校裏のフェンスを乗り越える事にした。
「しっかし、わざわざ閉まっている学校に、瑠々島さん来るかねえ」
「来ないとは限らないですし、他に行くあてもないのです」
「そりゃそうだけどさ」
「とりあえず私は、文芸部見てくるですー」
「りょーかい」
さて、俺はどこに行こう。文芸部は部活棟にあるので、じゃあ僕は特別棟に行った方がいいかもしれない。
僕はあまり期待せずに、特別棟に入る。一階には家庭科室等がある。
「……………………」
家庭科室。そういえば、輿水が所属していた部活は料理部だったっけ。
輿水凛。小学生のあの、陽香の事件以来、疎遠になってしまった僕の幼馴染。そして、僕の好きだった人。
「…………陽香に言われるまで、気づかないなんてな」
高校に入って、輿水と僕、そして陽香は再開した。それ以来、ぎくしゃくしていた中学の頃よりは、話せるようにはなっていた。陽香の方は僕とかなり仲良くしていたけど、輿水とは結局あまり話せなかった。色々とあった訳だし、そうでなくても僕が気おくれしてしまった。思えば、その頃から好きだったんだろう。片思いをしていたんだろう。
「……………………」
今思えば、もっと自分の気持ちに気づくべきだった。そうはいっても、気づいたところで行動には移さないだろう。でも、せめて自分が輿水の事を好きなんだって、そう気づきたかった。
「…………今更だな」
家庭科室に入ろうとすると、鍵がかかっていた。日曜日なので当然ではあるが、しかしその事をすっかり失念していた。
「あー、しまった。陽香がいなきゃどうしようもないな」
しょうがないので、僕は陽香のいる部活棟に向かう事にした。思えば考え事をしていて、余計な時間を食ってしまった。
部活棟は、特別棟のすぐそばにあって、渡り廊下でつながっている。とはいっても、その渡り廊下もどうせ施錠されているだろう。むしろ校舎が施錠されていない分ラッキーだったのかもしれない。
「…………あれ?」
そういえば、どうして校舎の鍵は開いていたのだろうか? そもそも今日、学校は開いていないはずだけど。
「部活の関係か?」
校庭や体育館からは、部活をやっているのだろう掛け声やボールの跳ねる音がよく聞こえた。しかし、特別棟が開いている理由にはならないだろう。
「…………まあ、誰かが校舎内にいるんだろう」
そう考えると、もうちょっと声のボリュームを下げた方がいいのかもしれない。さっきから、独り言が多すぎた。
とりあえず僕は、部活棟に移動することにした。陽香と合流もしたいし、部活棟なら生徒がいるにも不自然ではないだろう。
部活棟に到着すると、多少の生徒がいる気配が、部活の部屋からしてくる。僕はそんな彼ら彼女らにばれないように、抜き足差し足で文芸部まで移動する。
「さてと」
文芸部の中に入ろうとするのは、流石に問題があるだろう。なにせ先日、斑鳩さんが喧嘩を売ったばかりだ。その状態で、文芸部を訪ねるのは自殺行為かもしれない。
しかし、入らなければ意味がないのもまた事実だった。この中に瑠々島さんがいる可能性だってあるのだから。
部室の壁に耳を当てて、中の様子をうかがう。中に人の気配はないように感じた。
「しょうがない、勇気を出すか」
独り言を言って勇気を振り絞り、僕は部室の扉に手をかける。そして、扉を思いっきり開けようとする。しかしガチャっという音がして、扉は開かなかった。
「…………なんだ、誰もいないのか」
しかしそうすると、陽香はどこに行ったのだろう。あるいは僕を探しているのかもしれない。そう思った僕は、窓から校舎の外を眺める事にした。もし陽香が僕を探しているのなら、空に浮かんでいる可能性が高いからだ。そうすれば向こうは俯瞰的に探せるし、なによりこっちが陽香を把握しやすい。
しかし窓から陽香を探しても、陽香の姿はどこにもない。あきらめて部活棟を出ようとしたその時。
「……………………ん?」
僕は見つけてしまう。部活棟の対面、第二校舎の三階の廊下に、瑠々島さんが居るのを。
「!!」
まさか本当に、学校にいるなんて!
しかし驚いてばかりではいけない。一刻も早く瑠々島さんを捕まえて、話を聞かなくては。僕は急いて部活棟を出て、第二校舎へと向かう。
第二校舎は、普通の教室や理科室等の教室がある校舎だ。職員室は第一校舎にあるので、今日も第二校舎は締まっているはずだけど…………。
「…………やっぱり開いてる」
第二校舎には施錠がされていなかった。僕はそのまま第二校舎に入り、急いで階段を駆け上がる。
「とりあえず三階か」
瑠々島さんを見つけた三階まで駆け上がり、廊下を歩く。この階は、二年生の教室がある場所だ。ならば、瑠々島さんは自分の教室に行ったのだろうか。
「瑠々島さんはどのクラスだったっけ…………」
その時、僕が廊下の窓から外を見たのは、たまたまだった。陽香を見つければ協力して瑠々島さんを発見できるし、あるいは瑠々島さんとすれ違いになり、瑠々島さんが外に出ている可能性もあったからだ。なんとなくそう考えて、僕は外を見る。
そして僕は、瑠々島さんと眼が合った。
「え」
その眼は、三階の窓から見るにはあまりにも近かったし、そして普段見る眼と違い、逆向きだった。
逆向き。つまり、瑠々島さんの眼は上下がさかさまの様に見えた。眼だけじゃない、頭も胸も腹も手も足も。すべてが逆向きで、さかさまだった。
瑠々島さんは、逆向きで窓の外を、落下していたのだ。
「…………は?」
視界が瑠々島さんをとらえたのは一瞬の事で、あとは視界に、何もない虚空が広がるだけだ。そしてすぐに、ぐしゃっと、何かがつぶれる音がした。
「……………………はい?」
こうして、連続自殺事件の容疑者、瑠々島璃流華は、自殺した。
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