第21話 7月14日(日)
斑鳩さんと友達になった翌日。
僕は、近所の公園で陽香と話していた。僕は公園のベンチで横たわり、陽香はその辺をふよふよ浮いていた。
「結局、事件の進展はないんだよな」
「そうですね、結局犯人はわからずじまいなのです。斑鳩さんの推理だと、文芸部の人たちって事になるらしいですけど」
「そうはいってもなあ。それだってどのくらい本当なのか」
昨日、斑鳩さんと友達になってから、斑鳩さんは調査にでるといった。事件の事も、大分真相に迫りそうと言っていたが、詳細は教えてはもらえなかった。
下手に教えて、君が暴走してしまったら困ると、そう斑鳩さんは言った。僕もそこまで向こう見ずではないのだが、しかし年長者のいう事だ、素直に受け取った方がいいだろう。
「しかしだからと言って。俺たちだけで考えてもなあ」
「でも実際問題、文芸部の誰が犯人に見えるです? ある程度、自分たちでもメドをつけといた方がいいというか…………」
「誰が怪しいかか…………」
この問題を考えるにあたり、まず考えなくてはならない問題がある。
「そもそも、文芸部員は全員、犯罪を犯していないんだよな」
斑鳩さんが、嘘を見破る超能力を使った結果、犯罪を犯したひとは居なかった。つまり、あの中に犯人は居ないってことになる。
「それじゃあ、考えても無駄だしな」
「そうとも限らないんじゃないですか?」
陽香は、空を見上げる僕の目の前、客観的にいえば僕の上の方に近づいてくる。その位置だと、思いっきりパンツが見えるけど、陽香は気にもしていなかった。
「超能力を使った犯行が罪になるとは限らないですし」
「でも、斑鳩さんみたいな人が居るってことは、超能力を使った犯罪も普通に罪になるってことだろ? じゃなきゃ斑鳩さんたちの意味ないし」
「斑鳩さんの能力って、主観的な嘘を見抜くんじゃなかったですっけ。つまり、本人が犯罪と思ってなければ、別に斑鳩さんも見抜けないとおもうんですけど」
「……………………」
確かに、それを見落としていた。
斑鳩さんの超能力は、本人が嘘と思うかどうかで決まる。つまり、本人が嘘をついてないと信じれば、それは本当になるのだ。たとえ客観的に間違っていたとしても。
「もし仮にそうだとすると、犯人は自分の超能力で人を殺しておいて、なんの罪悪感も抱いてないって事か?」
そんな人間が存在していいのだろうか。人を五人も殺しておいて、平然としていられるなんて、普通じゃない。
「あるいは、それこそ呪いだったり…………なんて事もありえるのです」
「そんなばかな…………とも言えないか、超能力なんてものがあるんだし」
「なんでもありですからねー」
しかし、呪いか。そうなると本格的に、例のあの小説のようになってくるな。
「個人的には、水無月巫女先輩と加佐見華先輩のつながりが怪しいところではあるけれど…………」
「同じ人をいじめてたんですよね、偶然の一致ってやつなんですかね」
「まあ、その可能性もあるだろうけど、俺は違うような気もするんだよね」
「というと、どういう事です?」
「いや、なんというか、偏っている気がするんだよね」
「偏り…………ですか…………」
まず最初に輿水が死んで、その次に陽香が死んだ。この二人は僕と同じクラスである。そして次々と、水無月先輩、高峰先輩、加佐見先輩と殺された。このうち、水無月先輩と加佐見先輩は同じクラスであり、そして二人ともいじめに加担していた。確か高峰先輩も、水無月先輩と同じクラスなんだっけ?
五人の内、二年B組が二人。三年C組が三人。もし校内で、無差別に罪のある人間を狙っていたら、ここまでかたよるだろうか。
「でも、たまたまってこともありうるのです。あるいは…………」
「僕はこう考えているんだ。犯人の目的は、三年C組の三人じゃないかってね」
「そりゃあ、三人を殺している以上、三人が目的なんじゃないですか?」
「いや、そうじゃなく、三人を殺すためだけの事件なんじゃないかってさ」
犯人はこの三人を殺すために、この事件を企てた。いや三人とも限らないが、少なくとも、水無月先輩と加佐見先輩の二人を殺すための事件だった。なぜなら、この二人には人の恨みを買うだけの理由がある。いじめなんてしていれば、殺されたってしょうがない。
そして他の人、輿水や陽香、そして高峰先輩は、その動機を隠すためのカモフラージュなんじゃないだろうか。
超能力を使っている以上、犯人は証拠だとかを気にはしないだろう。ではなぜ隠すのか、それは動機を隠すためだ。犯人にとっての動機は、世間一般に広まってほしくない動機だったのだ。
「―――――――というのが、僕の推理なんだけど」
「つまり犯人は、動機を隠すために、ターゲット意外の人間を殺したって事ですか?」
「そうそう。陽香は、殺されるような理由なんてないだろう? だから、犯人は陽香じゃなくてもよかったんじゃないかなって思ってさ」
自分で言っていて、胸糞悪くなるような推理だ。陽香じゃなくてもよかった? ふざけるな、そうしたら、陽香や輿水は、犯人の気まぐれで死んだってことじゃないか。
「そうしたら、結局誰が犯人なんでしょう?」
「確かに……………………」
この推理が正しければ、犯人は水無月先輩と加佐見先輩に恨みを持つ人間だ。つまり、この二人のいじめによって殺された、巻波先輩の関係者ということになる。
一番怪しいのは、三年生だろうか。生駒先輩が巻波先輩と付き合っていたとか、坂神先輩が友達だったとか、その可能性は十二分だ。
いや、そうとも限らないのか。陽香だって、他学年の友達は多い。別に、巻波先輩の友達や関係者が、三年生と決まった訳ではない。
「結局、考えてもわからないのか」
そういって僕は、眼を閉じる。色々考えて少し頭が痛くなってきた。
しかしそうは言っても、思考はいつまでも、事件の事を考える。
どうやって犯人は、被害者たちを殺したのだろうか。どんな超能力があれば、人をあんなふうに殺せるのだろうか。
ただ単に、例えば念動力で動かしたとしても、被害者の抵抗は免れない。抵抗したような跡があれば、警察だって流石に自殺とはできないだろう。被害者が自ら動いて、自殺しなくてはいけないと思う。
あるいは、意識のない人間を念動力で操ったりしたとかかもしれない。あるいは催眠能力とか。もしかしたら本当に、呪いかもしれない。
「呪いか…………」
呪いという形容を使うから、非現実的に思うだけかもしれない。これを、あるいは念と言い換えてみたら、超能力の一種だと思える気もする。
強い念をこめて、殺したい人間を狙う。そうやって、五人を殺す。
念――――――。
「!!」
ある事に気づいた僕は、思わず飛び上がる。陽香がすぐ上に居たので、陽香の胸に顔が当たってしまった。
「きゃあ! りょーたん、何するですか!」
「ああ、ごめん陽香! いや、思い出した事があってさ」
「思い出したことですか?」
「うん、瑠々島さんの事なんだけど」
「瑠々島ちゃん?」
そうか、陽香は瑠々島さんと友達なのか。その事実を踏まえると、今から言おうとしている事がとても言いづらくなってしまう。
「いや、瑠々島さん。オカルト的なものにハマっているっていってたよな」
「ああ、パワーストーンとか、お守りとかって言ってたです」
「願いを叶えるって、言ってたよな」
「ええ、まあ……………………まさか」
「こんなの、推理どころかただの妄想だけどな」
願いを叶える。それはつまり願いがあるって事だ。願い、いいかえれば願望であり、そしてまじないでもあるだろう。そしてまじないとは、呪いとも書く。
「いや、でも…………」
「そう考えると、しっくりくるんだ」
そう、この間瑠々島さんに会ったときもそうだ。
瑠々島さんは、水無月先輩の死も知っていた。関係者から聞いたと言っていたが、それが嘘なら? 自分で殺したから、知っていたとすれば?
「…………ごめん、変な事言ったかも」
「…………私は瑠々島ちゃんの友達なのです。だからあんまり疑いたくないのです。りょーたんだって、そうでしょう?」
そうだ。瑠々島さんは陽香の友達なんだ。それを疑うなんて。
斑鳩さんにあんな格好つけたこといって、当の本人が人の友達を疑っていては、本末転倒だ。
「陽香、ごめん。お前の友達を疑ってしまった」
「いえいえ、いいのです。それだけりょーたんが、事件の解決に真剣って事ですから」
「…………ありがとう、陽香」
「いえいえですー」
僕は、起こした体をもう一度ベンチに寝かせる。ここで、斑鳩さんの報告を待って居よう。
そうおもった矢先に、プルルルルルルと電話が鳴る。画面を見ると、斑鳩藍と表示されていた。斑鳩さんからの報告が、さっそくきたのだ。
「もしもし?」
僕は携帯のモードをスピーカーにして、陽香にも聞こえるようにする。
『やあ涼汰。今どこにいるんだい?』
…………友達になったとたん、斑鳩さんは僕の事を下の名前で呼ぶようになった。流石に恥ずかしかったが、拒否する理由もないのと、斑鳩さんの嘆願があったので、僕は許容する事にした。
なんか断ると、斑鳩さん泣きそうだったんだよな。
「おはようございます斑鳩さん。僕は今、近所の公園にいます」
『そうか、では悪いんだが、学校に向かってくれないかい?』
「ええ、いいですけど。何でですか?」
『人探しだ。家に向かったんだが、生憎不在でね。事は急を要する、早く向かってくれないか』
「人って、だれですか? それが分からないとなんとも…………」
『犯人だよ』
え? 犯人? 今この人は、犯人と言ったのか?
『瑠々島璃流華。彼女が今回の連続自殺事件の犯人だ』
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