第4の事件

第17話 7月10日(水)



 生徒会長、高峰晶紀が死亡した。

 事件発生日時は、7月7日(日)。市内のホテルにて、遺体が発見された。発見されたのは午後10時頃で、死亡推定時刻は午後9時頃と推定される。ホテルの部屋には勿論鍵がかかっており、そのルームキーも部屋の中にあった。また、ホテルのフロントからルームキーを借りた人間もいないので、一応密室という事になる。遺体を発見したのはホテルの従業員で、ホテルのチェックアウト時間になっても出てこず、電話をかけても誰も出ないので、マスターキーで部屋を開けたところ、遺体を発見した。

 その部屋にチェックインしたのは、高峰晶紀ただ一人ではあるし、そして他の人間がその部屋に入った様子や証拠もなかった。つまり高峰晶紀は、一人でホテルに入り一人で自殺したという事になる。

 。今回の遺体もまた、自殺という事で処理された。しかしその遺体の状況は、自殺と呼ぶには奇妙なものであった。

 その日の天気は晴れだったのだが、彼女はにしていた。まるでマジシャンや大道芸人のようだが、しかし彼女はそれに失敗しているのだから、そういった職業には向いていなかったのかもしれない。

 傘は、彼女の胃まで到達していたらしい。それだけでは死なないのかもしれないが、彼女の死因はそこからだった。その傘は、開いていたのだ。傘なのだから当然、根本のボタンを押せば傘は開くだろう。彼女の傘も同様に、開いた状態で発見されたらしい。

 詳しい遺体の状況は、教えてはもらえなかったが、とにかくそういう事らしい。僕が斑鳩さんに聞いた、第五の事件についてはこんな所だった。


「しかし、生徒会長である彼女が殺されたのは意外だった。彼女はてっきり、犯人の関係者だと思っていたからな。まさか被害者になろうとは」


 そして7月10日、僕と斑鳩さんはいつもの喫茶店にて話をしていた。陽香は今日も来ていない。この間までは僕の傍にひっついている事も多かった陽香だけど、最近では別行動する事もかなり多い。


「とにかく、これでもう四度目の自殺事件ですか…………。今回も、例の小説と同じような犯行でしたし」

「そうだね。確か例の小説だと、四度目の事件は…………」

「同じような感じですよ。ただし小説だと、日本刀をのみこんでますけど」


 例の小説。あの文芸部長が文化祭用に書いた、ミステリーとホラーを織り交ぜたような小説だ。今まで、四人の人間が自殺したが、その事件と小説に出てくる事件は、かなり一致している。

 まず第一の事件では、被害者の輿水凛は飛び降り自殺をしている。小説でも同様に、飛び降りによる事件が最初に発生した。第二の事件。真純陽香は首つり自殺をした。これもまた同様に、小説でも首つり死体が登場する。第三の事件では、水無月巫女が魔法陣の中央で死んでいて、この魔法陣というは、小説でも登場する。

 そして第四の事件、小説でも同様に、物を飲み込んだ死体が登場する。とは言っても、こちらの死体は傘ではなく、日本刀を飲み込んでいる。どちらかと言えば、飲み込むというより貫通しているのだが。とにかく、口から棒状の物を突っ込んで死んでいるという点では、一致していると言ってもいい。

 そして小説では、五つ目までは不可思議な自殺事件が起こっている。第五の事件は、溺死した死体。海の上に浮かんだ小舟に、水が少しだけ入っていて、その水で溺死した。目の前に海があるにも関わらず、少しだけの水で溺死したのだ。そしてその小舟が海岸へと流れ着き、主人公が発見する。

 ……………………というのが、小説での五番目の死体の描写である。


「しかし、小説では五番目で事件は終わりなのだろう?」

「いえ、具体的には違うみたいですね。その後も人は死にまくって、結局全滅する訳ですし…………。ただ、五番目以降は、あんまり猟奇的な死体ってわけでもないんですよね」


 五番目の事件以降、主人公たちは仲間割れをはじめ、結果二人程死んでしまう。そして残った人間は三人となり、一人が行方不明になり、一人が普通に自殺して、残った主人公が呪いで死んでしまう。

 こうしてみれば、最期の全滅の過程は大分適当ともいえる。おそらくあの部長は、前半の五人の死体をメインにしているのだろう。

 ともあれその小説では合計十人が死に、そのうち呪いで死んだのは前半五人と行方不明になった一人、そして主人公の七人という事になるのだろう。

 …………呪い。そうこの小説は、主人公たちがかつて殺した少女の怨念によって発生した、いうなれば超常現象による事件だったのだ。


「とにかく、小説通りに人が死ぬとすれば、後一人は死んでしまう訳ですよね」

「後々の事を考えれば、あるいは後六人かもしれないし、後三人かもしれない。そこは犯人の目論見がどうなるかだが、まあそんなに死ぬ事もないだろう。私が居る限りね。大丈夫さ、この私が事件を解決さえすれば、これ以上犠牲者は出ないさ」

「はぁ」


 基本的に僕はこの人の事をあまり信用していないので、その言葉には同意しかねるのだった。そもそもこの人が僕と調査してから、すでに二人の人が亡くなっているのだ。


「それで、斑鳩さん。そんな風に大言壮語するからには、証拠とか手がかりとかあるんですよね。まさか、なんの手がかりもないのにそんな事言ってないですよね」

「君、この間の潜入捜査から、やけに私に対する態度変わったよね。具体的には、割と舐めてかかってる節があるよね」

「そんなわけないじゃないですか、自称探偵の自称中学生さん」

「…………君が私の事を、自称探偵だと思っている事は十分に分かったし、割と舐めている事も十分に分かったよ」

 

 嘘をつかれるよりは、そっちの方がましだがね。そう言って斑鳩さんは、手元のカバンからファイルを取り出した。調査用の資料をまとめたものだろう、ちらりと見えた中身には、何かの書類や新聞の切り抜き、パソコンやスマホのスクリーンショットの画像まであった。


「まず今回の事件の被害者である、高峰晶紀だが、興味深い事がいくつか分かったよ」

「はあ」

「そもそも、彼女はホテルで見つかっているといったろ? 具体的にはなんてホテルか知っているかい?」

「いえ、知りません」


 この事件は、テレビ等の報道には載っていない。一応自殺事件という事で処理されているからだろうか、それとも被害者のプライバシーに配慮しているのかわからないが、とにかくテレビや新聞で情報は手に入らないのだ。

 勿論この市内で、同じ学校の生徒の話だ。ある程度は噂話で広まってしまうが、友達のいない僕にはその類の情報は一切入ってこないのだ。

 そもそも、今週学校は休校になっている。いくら自殺事件と言えども、いくら報道されないといっても、この短期間で自分たちの学校の生徒が数人も自殺しているのだ。学校でも、色々と内部調査をするべきだし、生徒への配慮をするべきと判断したのだろう。あるいは、教育機関からのお達しかもしれないが。


「斑鳩さんに教えてもらった情報だけしか、生徒会長の死については知りません」

「そうか、まあ当然ではあるか。それでも、遺体発見時にはホテルに警官が来ていたから、知っている人間は知っているんだがね」

「それで、どこなんですか?」

「ホテルバラライカ。繁華街にあるホテルだよ。きみだって、見たことくらいはあるだろう」

「ホテルバラライカって…………」


 確か、この近くの繁華街のはずれの方にあるホテルだ。かなり大きいホテルで、僕もその前を通った事が何回かある。でもあのホテルは確か――――――。


「ラブホテル…………ですよね…………?」


 そう、ホテルバラライカは、この界隈では有名なラブホテルなのだ。


「そうだ、ラブホテルだ。彼女はそのホテルに一人で入って、そして死んでいた。彼女はそのホテルの常連客だったようだよ」

「そうですか…………」


 ラブホテルという単語にちょっと動揺してしまったが、しかし別段どうという事もない。別に高峰先輩がラブホテルを使っていようが、僕には関係のない話だ。あんなに色気のある、高校三年生とは思えない人だ。彼氏がいて当然だろうし、そういったホテルに入っていようが違和感はない。


「しかし大事なのはここからだ、彼女がホテルを使用していた理由についてだ」

「……………………?」


 理由? そんなもの、一つだろうに。


「彼女は、売春をしていたのだよ」

「はあ!?」


 僕は思わず立ち上がって、斑鳩さんに詰め寄ってしまう。斑鳩さんの、驚いたような、困ったような視線を受けて、僕は急に恥ずかしくなってしまう。周りに人がいなくてよかった、そう思いながら、僕はしげしげと自分の椅子に座りなおす。


「それで、売春ってどういうことですか?」

「まあ落ち着き給え。どういうこともなにも、そのままの事実だよ。彼女は、売春をしてお金を稼いでいたのさ。彼女の家はそこまで貧乏という訳でもないから、おそらく遊ぶ金欲しさではないかな」

「そんな……………………」


 その事実は、僕たちの学校の生徒会長が売春をしていという事実は、僕にとってはかなりのショックだった。いや、僕だけではなく、学校の生徒や先生全員がショックを受けるに違いない。


「まあ一部の生徒や先生方は、君のようにショックを受けたりはしないだろう」

「え?」

「そもそも、そんな風に売春をしていたら、学校側だってなんらかの処置をするだろう? それに、生徒の間でも噂になっていてもおかしくはない」

「それはそうですけど…………」

「事実、噂になった事もあったみたいだ。しかし彼女は優秀だからね、そんな噂も少したてば消え去った。学校側が追及をしなかったのも、噂が消えた理由の一つだろうがね。ではここで問題だ、なぜ学校は追及しなかったのかな」

「そりゃ勿論、高峰先輩が優秀だったからでしょ?」


 全国でもトップクラスに学業優秀な高峰先輩の事だ。多少の噂があった程度では、彼女が売春をしているなんて考える人間はいないだろう。


「勿論、それも理由の一つだし、むしろ理由としては大部分だろう。しかし理由がそれだけではない。いたんだよ、先生たちの中に。その先生たちが彼女をかばったから、学校も追及しなかったのさ」

「いたって、何がですか?」

「利用客だよ」

「え」

「つまり彼女は、自分の学校の先生にも売春をしていたのさ。先生だけでなく、生徒にもしていたらしい。まったく、とんだ人だよ、高峰君は。学校を表でも裏でも支配していた訳だ」


 今度は驚いて、席を立ちあがるなんて事はしなかったが、しかしショックは先ほどよりも大きかった。


「男の子だけでなく、女の子も利用していたらしいよ。本当彼女は、人を魅了する超能力者なんじゃないかとすら思うよ。彼女、この間こう言っていたろ? 先生たちは自分のいう事をなんでも聞いてくれるって。それはつまり、そういう事だったのさ」


 それはつまり、先生の弱みを握っていたという事か。それでは確かに、先生たちも話を聞かざるを得ないだろう。

 高峰先輩は、成績がとてもよかった。そんな生徒なら、たとえ売春がばれたとしても、自力でどんな大学だって入れるだろう。しかし先生たちはバレれば、それはすなわち職を失うという事だ。高峰先輩と先生との関係は、そういう意味では不平等なものだったのだろう。そして女性にも売春をしていれば、女性も自分をかばってくれるのだ。

 身の回りのありとあらゆる人が、自分を守ってくれる。こんなにも心強いこともないだろう。だからこそ、彼女は安心して売春をしていたのかもしれない。


「……………………」

「あー、やっぱり刺激が強かったかな。すまないね、こんな話をしてしまって。しかし私が、君のこの話をしたのには理由があるんだよ」

「理由ですか…………」

「この件は、犯人の動機にもつながるんじゃないかと、私は思っているんだよ」

「動機ですか? それはつまり、犯人は高峰先輩の客だったってことですか?」


 確かにそう考えれば、高峰先輩をホテルで殺した理由についても、ある程度の説明がつくのかもしれない。

 犯人はおそらく、高峰先輩をいつものように、客としてホテルに呼び出したのだろう。そしてホテルの部屋で高峰先輩を殺した。勿論この説明では、説明しきれない事がかなり多い。しかし、そう考えれば、犯人はホテルでしか高峰先輩を殺せない事にもなるだろう。


「いや、客ではないよ」


 斑鳩さんは、僕のそんな推理をたやすく否定する。


「勿論客でないという証拠もないがね。しかし私が注目したのはそこではない。彼女は売春という罪を犯していたという点さ」

「罪…………ですか…………」

「ああ。罪を犯した人間が殺される。それはすなわち、小説との一致点といっても決して過言ではない」

「あ! 確かに、小説では主人公たちが罪を犯してますね」


 そもそも主人公たちが呪いによって殺されたのは、主人公たちのかつての罪に起因する。彼らは。かつて一人の少女を殺してしまった。そしてその少女の呪いで、次々と人が死んでいくのだ。


「そう、つまりだね」


 斑鳩さんは、手元にあったグレープフルーツジュースを飲んでから、こういった。



「被害者たちは、全員罪を犯していたのさ。そしてそれが、犯人の動機なのさ」



 その推理を聞いての感想は、正直言って納得できないだった。


「…………つながらないんじゃないですか? 生徒会長が売春をしていたからと言って、それで被害者たちが全員罪を犯していたとは限らないじゃないですか。それに、それが犯人の動機につながるってのも、こじつけが過ぎるというか……………………」

「確かにそうだね、しかし賀上君、少なくとも、全員に罪があるというのは確定しているのだよ」

「……………………」


 僕が斑鳩さんの推理を否定するのには、理由が勿論ある。被害者全員に罪があるとすれば、それはすなわち輿水や陽香にも罪があるという事だ。

 あの二人に罪がある。それも人に殺されるような罪。そんなことを考えたくはないし、そんなことをしないと僕は信じていた。


「遡ってみようか。第四の被害者、高峰晶紀に関しては前述の通りだ。彼女の罪は、売春行為とみるのが自然だろう。そして第三の被害者、水無月巫女だが、彼女は高校一年生の時に、いじめをしていた過去がある」

「いじめですか……………………」


 その言葉を聞いて、僕は昔の事を思い出す。小学生の頃、輿水と陽香、そして僕の三人で遊んでいた記憶。懐かしくて、きらきら輝いていたころの記憶。そして、忘れもしないあの出来事。


 ―――――りょーたんは、私を嫌いにならないよね?

 ―――――りょーたんだけは、私の事をずっと見ててね。


 あの時、僕は陽香にそう言われたんだ。子供の頃の口約束。そんなもの、陽香はもう覚えてはいないだろう。

 僕はあの時、なんと返したっけ? 僕は陽香に、なんと声をかけたのだっけ?


「おい、賀上君。聞いているのかね? 大事な話だよ、今は」

「―――――すみません、ちょっとぼーっとしてました」

「まあいいが。それで、水無月巫女の件だが。彼女は一年生の頃、同級生である加佐見かざみはなと共謀して、巻波まきなみ萌花もかをいじめていた。詳しくは調べきる事が出来なかったが、それはもう、大分ひどいいじめだったらしい。結局、巻波萌花は転校。大事にはならず、二人も処分を免れたらしい。人をいじめておいて悠々と学校に来れるんだから大したものだ。まあそれが彼女の罪だろうね」

「…………あの、一つ質問いいですか」

「勿論」

「巻波萌花は、その後どうなったんですか? 転校した後、幸せになったんですか」


 転校して、それでハッピーエンドにはならないだろう。むしろ、いじめられた過去はその本人を、いつまでもさいなむ。それは、その事はよくわかっていた。だからこそ、僕は彼女には、幸せになっていてほしかった。それは、祈りのような気持ちだと思う。自分勝手な、祈りだ。

 しかし斑鳩さんの口から出たその事実は、僕の祈りをたやすくへし折った。


「彼女、巻波萌花は死んだ。自殺だったらしい」


 どうして、僕はこんなにも泣きそうなのだろう。彼女は、ただの他人で、知らない人だ。この世の中、知らない人は次々になくなっている。その中には、彼女以上に苦しい人もいたろうし、彼女以上につらかった人もいるだろう。でもそれでも、僕は彼女の死が、とてもつらかった。自分の事のように、つらかった。


「…………なんで、彼女は死んだんですか」

「結局、転校先の学校でも馴染めなかったらしい。いじめ等の深刻な問題はなかったらしいが、それでも彼女にとって、それだけでもつらい出来事だったのだろう。傷ついた心を癒せなかったというのは、それだけでつらいものなのだろうね」

「……………………」


 僕は、手元にあったコーヒーを飲み干す。もう冷めていたコーヒーは、するりと僕の喉を通る。すると、頭痛と気持ち悪さが大分ましになった。


「とにかく、それが水無月巫女の罪だ。さてそれでは、君のクラスメイト二人についてだが」

「……………………あの二人に罪なんてないですよ」


 せっかくまともになった頭痛や吐き気が、またぶり返すのを感じた。心なしか胃も居なくなってくる。


「証拠、あるんですか」

「聞き込みの結果だからね、これといった証拠はない。しかし、君はあの二人とは仲が良かったんだろう?じゃあ知っているんじゃないのかね」


 やめてくれ、その話をしないでくれ。僕は頭の中でそう叫ぶ。


「小学校六年生の時、真純陽香さんはいじめられていた。ひどいいじめだったそうだね。輿水君と真純君は当時同じクラスで、よく相談をしていたそうじゃないか」


 やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ、やめてくれ。


「しかしいじめは収まらず、ある日重大な事件が起きてしまう。それはいじめられた側の抵抗だったが、しかしそれは些細とは言えないものだった」


 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろよ!


「真純君は、いじめっ子のリーダー格をカッターで刺してしまう。しかし刺しどころが悪かったのか、リーダー格の少女は深い傷を負ってしまった。それがあの二人の罪――――――――」


「やめろよ!!」


 僕は、立ち上がって机に手を叩きつける。斑鳩さんは、とても驚いた顔で僕を見つめる。そして、反省したかのように、少しだけ僕から眼をそらす。

 そんな、逃げるかのような態度が気に食わず、僕は言葉を紡ぐ。


「あの二人は、戦ったんだ。いじめに対して、真剣だったんだ。確かにそれは、大人からすれば間違った選択肢だったかもしれない。僕たちには、もっと素晴らしい方法が、ベストな方法があったのかもしれない。でもそれでも、僕たちは必死だったんだ! 子供だった僕たちにできる方法で、必死に戦ったんだ。必死に生きたんだ! それを、罪だなんて、言わないでよ―――――」


 気づけば僕は、眼を下に向けていた。涙がとめどなくあふれ、からのコーヒーカップに水が溜まっていく。


「――――――すまない。私が軽率だった。君の気持ちを考えずに、無神経な事を言ってしまった」

「……………………声荒げてすみません。今日は帰ります」


 僕は自分の荷物を持って、喫茶店から出ていく。僕の声は、きっとろくに出ていなかっただろう。

 店を出ていくときの、ベルのカランカランという乾いた音が、無音の店と僕の心に響いた。




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