第15話 7月5日(金)





「彼女も怪しいね」


 生徒会室を出て、僕たちは近所の喫茶店に行った。斑鳩さんに二回目に会ったときにいった喫茶店と同じ場所だ。いきつけなのだろうか。


「またもですか」

「まあ落ち着きたまえ。今回も、怪しいところとそれを否定するところ、両方あるから」

「はあ」


 僕はカフェオレを頼み、斑鳩さんはなぜかパフェを頼んでいた。…………まだ中学生のフリをしているのだろうか。

 ちなみに陽香は、喫茶店に行く途中で家に帰った。流石につかれたのだろうか。…………僕が一番疲れたと思うんですけど。


「まず、あやしいところ。彼女はどうしようもない程に嘘つきだ」

「嘘つきですか…………」

「ああ、現に彼女、さっきの問答でかなり

「はあ!?」


 重大な嘘って、あの事件について何か隠しているという事だろうか。


「指摘すればよかったじゃないですか」

「指摘しても、空気が変になるだけだろう。私が超能力者だというのはあまり好ましくはない。それに、嘘を指摘しても本当の事をいうとは限らないしな」

「確かにそうですけど…………」


 そうなると気になるのは、あの会話のどのあたりが嘘だったのかという話だ。


「そうだな、具体的に言おう」


 僕の心を読んだように、斑鳩さんは言う。


「まず一つ、

「はああああ!?」


 カフェオレを口につけていなくてよかったと、そう思うくらいのオーバーリアクションをしてしまった。しかしそれもしょうがないだろう。なにせ嘘の内容が内容だ。

 もし生徒会長が犯罪を犯しているのなら、それはもう自白と一緒ではないか。


「まあ、とり合えず落ち着け。他にも彼女は、部誌を片付けた理由についても嘘をついている。昨日、君が見た彼女の様子から、おそらく彼女は、あの小説と実際の事件の類似性を知っているのだろう。だからこそ、彼女はそれを隠したんだ」

「いや、それも大事な情報かもしれないですけど、でもはっきり言って、さっきの情報に比べると割とどうでもいいです」

「まあそういうと思っていたがね。ここからもまた重要だ」

「はあ」


 正直、高峰先輩が犯人って事で決着ついてしまいそうな気もするが。いやでも、さっき斑鳩さんはこうも言っていた。怪しいところもあれば、それを否定するところもあると。つまり、彼女が犯人ではない証拠もあるという事だ。


「彼女はそれ以外の点について、嘘を言っていない。つまり彼女は、あの小説に対して、過激だけど賞をとれるかも、そのくらいの感想しか持っていない」

「はあ、つまり」

「つまり、彼女はあの小説の事は、割とどうでもいいのさ。少なくとも、あの小説通りに事件を起こそうとするような、そんな特別な感情は抱いていない」

「あ!」


 そうか、あの事件が見立て殺人で、あの小説通りに事件を起こそうとしていたのなら、当然あの小説には何かしらの感情を持っている必要がある。


「でも、そしたら彼女の犯罪ってなんでしょうね」

「まあ気になるが、おそらく大した犯罪ではないだろうし、今回の事件とは関係もないだろう。一応調べる必要があるかもしれないが」


 正直、調べる必要もないだろう。そこまでいったら彼女のプライバシ―の問題だ。内容が犯罪なので、多少は調べる必要もあるだろうが、


「そしてもう一つ。これは大した問題でもないだろうが」

「? なんですか」

「彼女が紅茶を入れているときがあったろう。あの時の会話を覚えているかい?」

「ああ、あの」


 自分には能力があって、先生たちを思い通りにできる。そんな冗談を言っていた。


「そこに関しても、嘘はない。能力というのは嘘だろうが。つまり彼女は、先生方をある程度言いなりにできる」

「はあ」


 しかしそれは、当然なのかもしれなかった。なにせ彼女は、わが校の歴史の中でも類を見ないほどの天才だ。そんな生徒会長ならば、先生方を言いなりにもできるだろう、たぶん。


「しかし、いくら天才でも生徒会の予算について、いいなりにできるなんて事あるかい?」

「さあ、あるんじゃないですか」

「あると言ってしまったら、話が終わってしまうんだが…………。まあいいだろう。とにかく、彼女の話で怪しい点はそのくらいだ。では賀上君、これまでの話を踏まえて、誰が一番怪しいか決めようじゃないか」

「……………………」


 アイドルグループの写真を見て、誰が一番か決めるように犯人を決めるのは、いくらなんでも趣味が悪いと思った。




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