第9話 7月4日(木)
そして到着、生徒会室。
カギは陽香が内側から開けた。こんな時に幽霊は便利である。
「おじゃましまーす」
昼休みで鍵がかかっているのだから、誰もいない。それを知っていても、ついつい声をかけてしまうのが人間である。
「おっじゃましまーーーす!!」
「うおっ」
ばか、でかい声だすな、ばれるだろ!
と思ったところで気づく。陽香は幽霊、そしてその姿は僕にしか見えないので、いくら大声を出しても気づかれるはずもないのである。
「と、とにかく、こっそり探さなくては」
後ろ手で扉を閉めつつ、僕は生徒会室をうかがう。当然というかあたり前の話だが、生徒会室の中はキチンと整理整頓されていた。
「これは、また、なんというか……………………」
探し物をするには楽かもしれないが、しかし僕たちは探し物をしてるのではなく、探し物が何なのか、それを探しているのである。しかも整頓されているという事は、部外者がいじったら一発でばれる。
「よし、陽香。ここは慎重に探そう。どうせ証拠とか、そもそもあるかどうかすらわからないんだ。ここは、まず隠蔽を第一に―――――」
「これなんですかねー、よっと。うわっ、崩れちゃいました」
「早速不法侵入の証拠を出すなよ!! どうすんだバレバレじゃないか!!」
なんで書類が平積みされている所を、下の方から抜き取るんだよ! 絶対崩れるじゃんかそんなの!
「いやー、書類の山を見たら、つい…………」
「お前は、書類の山を見たらつい崩すのか…………?」
どっかの登山家のような事を言うな、こいつ。というか、そんな人間は探しものに不利すぎないか?
「じゃあ、ここは俺が片付けとくから、陽香は何かそれっぽいもの見つけてくれよ。ただし、書類の山には触らないように」
「ああ、それは大丈夫です。この部屋の書類の山は、それぐらいしかありませんでしたから」
「そっか…………」
それはつまり、書類の山が新しくできたらまた崩すという事ではないだろうか。…………この書類の山、元に戻すのやめようかな。
そうやって、僕が書類の山の前でためらっていると。
「あれ、足音だ」
「え」
突然陽香がそんなことを言い出した。
「足音くらい、するだろ。ここ学校なんだし」
「うん、でもここ特別棟だし。もしかしたらここに用事があるのかもです。ちょっと見てくるですー」
そういって、陽香は廊下側の壁に頭を突き出す。なぜか上の方の壁から頭を出すから、パンツが割と丸見えだった。
でも、頭が見えないから、なんかエロいとかより怖いな。
「あーーーー、まずいよりょーたん!!」
「うおっと!!」
急に後ろを振り向くもんだから、僕はパンツに向けていた視線を思いっきり横にずらす。
「? なんでそんな虚空を見ているですか……? って、いやそんなことより、まずいですよりょーたん!」
「何がまずいんだ、陽香」
僕はそのまま、真横をみたままの体勢で答える。正直首がつりそうな角度だったが、今更元に戻すのも憚れた。
「生徒会長来ちゃっているです!! しかも真っすぐこっちに来てるです!!」
「え、マジか!!」
まずい、非常にまずい。
そもそも不法侵入な上に、どうやって入ったのって聞かれても何も答えられない!
いやー実は幼馴染が幽霊になってしまいましてー、その子に開けてもらったんですよー、なんて事を言ったその時に、病院へ連れていかれるだろう。友達を亡くして可哀そうな奴になってしまう!
「よし、とりあえず俺はそのロッカーに隠れる。陽香、後は任せた!!」
それだけ言い残し、急いで僕はロッカーへと向かう。陽香は何せ幽霊だ。僕以外の人間には見えないのだから、ここは陽香の事は捨ておいて自分の保身のみを考えなければ。…………薄情だと言ってくれるな。これが今の状況においては最適な行動なのだ。
しかしここで、予想外の出来事が起こる。
「待って、私を置いてかないでー!!」
そういって陽香は、僕の入っているロッカーに無理やり入って来た! 音で例えるなら、にゅるんって感じに。
「ば、ばか。陽香は幽霊でばれないんだから、他の所行ってくれよ」
「そんなこと言ったって、もう手遅れです。あ、ほら来た」
陽香がそう言い終わる前に、生徒会室の扉が開かれた。ここからではまったく見えないが、おそらく生徒会長だろう。
しかし、参ったこの状況。さすがに陽香をこの状況で外においだすわけにもいかない。いくら他人に見えないと思っていても、万が一があると考えると中々出ていけないものだ。しかし狭いロッカーで、ふたりきりは普通にまずい。苦しいし、倫理的にもまずい。さっきから陽香との距離が近いし、なぜか陽香は僕に触れるモードになっているから、体温がダイレクトに伝わってくるのだ。
「あらあら、何かしらこの書類~。倒れたのかしら~」
僕がロッカーで、人知れず戦っていると、ロッカーの外からそんな間延びした声が聞こえる。この独特の口調、間違いなくうちの生徒会長、高峰晶紀だ。
「まいったわね~、直さなくっちゃ~」
彼女が何か作業をしている感じが伝わってくるので、おそらく陽香が倒した書類を片付けているのだろう。申し訳ない。
「これでよし。しかし、怖いわね~自殺事件だなんて~」
作業が終わると、今度は独り言をしゃべり始めた。結構独り言を言うタイプだったのか、意外だ。
「これも、何か関係があるのかしら~」
これ? これとはなんだ?
「陽香、陽香」
僕は小声で、近くにいる陽香に話しかける。
「そこから、生徒会長の手元見えるか?」
「ばっちり見えるです。あれは、たぶん文系部の部誌です」
部誌? あの、文芸部が文化祭で配っていた奴か。僕は見てないから何とも言えないけど、たしかそんなに売れていた訳でもないし、そんなにおかしいところがあるなんて聞いてもいない。
「とりあえず、文芸部の人に話を聞いた方がいいのかしら~」
忙しいわ~、と言いながら、そのまま彼女は生徒会室を離れていく。
「「ぷはーーっ!」」
それを見届けるやいなや、ロッカーから勢いよく出てくる僕と陽香。
「いやー苦しくて、死ぬかと思ったです。あ、そういえば私死んでたんでした、てへっ」
「いやてへっじゃねえよその煽りを受けて僕が普通に死にそうだったよ」
後、僕の倫理観とかも死にそうだった。
「さてと、陽香。生徒会長の言ったその部誌とやらは、どこの机にあるんだ?」
「えっとね、確かここだったかなー」
陽香は、すぐそばにあった一人用の机をゴソゴソといじり始めた。
「あったあった、これだね多分」
「よしでかした」
陽香が持っていたのは、白黒の小冊子だった。『波間の言の葉』というタイトルのその小冊子は、表紙の左上にしっかり鳴海高校文芸部部誌とかいてあるし、下の方にも柏葉祭と書いてある。柏葉祭というのが我が鳴海高校の文化祭の名前なので、どうやらこの小冊子が文芸部の部誌で間違いない。
「あれ、でもなんか違和感あるな、この部誌」
僕が文化祭でちらりと見たときは、もっとこう、派手だったように思えるけど。
「多分、白黒だからじゃないですかね。実際配ったのはカラーのやつだったし、これは試しで作ったヤツなのかもです」
なるほど、確かに僕がみたのはカラーの表紙だった。じゃあこれは練習用? なんでこんなものが生徒会室にあるんだ。
「取り合えず、中を見てみるのです」
「ああ、そうだな」
部誌を、そこらへんの会議用のでっかい机に置いて、僕たちは二人で部誌を見る。僕が普通に見て、陽香が僕の頭の上から見るスタイルだ。浮いている幽霊ならではだろう。
「あ、りょーたん。見てみて、ここ」
陽香が指さした部分。それは文芸部長の書いた小説らしかった。
「おい、これって……………………!」
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