第3の事件
第8話 7月4日(木)
7月2日火曜日。鳴海高校3年C組の
被害者の死亡推定時刻は午前一時前後。当然自宅には鍵がしており、家族の犯行が疑われた。しかし警察は、この事件も結局自殺という事にした。それは、やはり現場の異常な状況を鑑みての決断だったのだろう。
被害者の死因は出血多量。腹部を包丁で何度も刺した後が見受けられた。傷の形状から、自分でつけた傷である可能性が高いとの事だ。勿論、この事実だけで自殺だと決定された訳ではない。他人が、傷を自殺に見せかけた可能性だって十二分にある。
問題は、むしろ被害者の周囲だった。この場合の周囲とは、人間関係だとかの比喩的なものではなく、そのものずばり周囲だ。
魔法陣。
そんなものが描かれていたのだ。
その魔法陣は被害者の血で書かれており、魔法陣にできた指紋から、被害者が自らの血で書いたものである可能性が高いと結論づけられた。つまり、被害者は自らの腹部を刺した後、その血で魔法陣を描いて、そして死んだという事になる。
魔法陣は緻密に描かれており、足の踏み場もない程だった。そして被害者は魔法陣の中央で横たわり、まるで眠るかのように死んでいた。
ここで、もう一つ問題が発生する。足の踏み場もない魔法陣、そして中央で横たわる被害者。もしこの事件が殺人事件だった場合、どうやって犯人は魔法陣を書いたのだろう。
被害者の指で魔法陣は描かれているので、もし仮に指を動かして書いたとしても、犯人は中央に取り残されてしまう。そこから出ようとしても、魔法陣が行く手を遮る。
勿論、何かしらのトリックを使えばできるのかもしれないが、その行為に対するメリットがないとして、結局自殺というところに落ち着かせるのが無難だというのが、警察の見解だった。
………………………という内容の電話を受け取ったのが、今日の朝5時の事だった。なんでも斑鳩さんにも事情があって、当日電話ができなかったらしいのだが、だからと言ってその翌日の朝っぱらから電話しなくてもいいだろう。
そして学校で、僕は陽香とともに事件の調査をしていた。学校では、まだ水無月先輩の事は噂にはなっていなかった。おそらく学校側が隠したのだろうが、その事実が露呈するのは時間の問題だろう。
この数日、僕は学校の生徒に聞き込みをしていた。というか、聞き込みをしようとしていた。
正直に言ってしまうと、友達のいない人間に聞き込みをしろという方が無茶だった。斑鳩さんには申し訳ない。
人間に憑依できる陽香に憑依してもらえば、その人の記憶とか読み取れるんじゃないかと期待したが、全然できなかった。ただ、憑依している間は、主導権が完全に陽香の方になるので、これは少し便利かもしれない。これからの調査に期待ができる。
そして今日は、聞き込みの代わりに調査を行う事にした。これは斑鳩さんからの提案である。
曰く、以外な所に以外な証拠がある。
との事だったが、しかしどこから手を付けたものか……………………。
「陽香ー。なんか怪しいところとか、この学校にあるー?」
「学校に普通、怪しいところなんてないのです。りょーたんは学校をなんだと思っているんですか」
「いやー、そうは言ってもさー、犯罪の証拠ってどこにあるだよ一体。そもそも、学校にないだろ、普通。犯人の家にあるだろう、普通」
聞き込みの失敗によるショックで、僕の心は大分ズタボロになっていた。
斑鳩さんは、この事件の犯人は学校の生徒だという。その意見には賛成だけど、しかし証拠まで学校になると考えるのはいかがなものか。
「じゃあ、とりあえず偉い人がいるところにいくのはどうですか? 偉い人は何かを隠しているのが定石ですー」
「偉い人っていうと、校長とか先生か? しかし、今の時間忍びこむのはたぶん不可能だけど……………………」
「確かにそうですね。んー、じゃあ、生徒会ってのはどうですか? 一応、生徒会長も偉い人です」
「生徒会長だと、校長に比べて格が落ちる気もするな」
生徒会長が絶対的な権限を持つとか、そんなもの漫画の世界のみで通じる話である。
「でも、生徒会長のいう事を、先生たちも聞くみたいなのです。何でも、生徒会長は校長先生の弱みを握っているとかで」
「そんなばかな。大方、生徒会長の凄すぎる成績に、先生方も遜っているってだけだろ」
うちの生徒会長こと
「とにかく、生徒会室は行ってみる価値あると思うのです」
「まあ、ここでうだうだしてても始まらんしな。いっちょ行ってみるか、生徒会室」
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