第5話 6月28日(木)
次の日。いや昨夜はもう十二時を超えていたので、正確には当日なのだが。
僕は、久しぶりの学校へと出向く事になった。当然家族には心配されたが、僕がある程度へっちゃらそうになったを見て、最終的には喜んで学校へ見送ってくれた。
やっぱり、いつまでもくよくよしていられないという事なんだろう。大事な人を失ったのは悲しい。けれど、僕たちは前に進まなくてはいけないのだ。悲しんでばかりでは生きてなどいけないのだから。
ただ僕の場合、悲しむというよりも驚きが勝った結果、こうして学校に行くことができたのだけど。
「……………………それで、陽香。昨日言った事をもう一度まとめさせてもらっていいかな」
「いいですよー。バッチこいです!」
学校へと向かう道すがら、僕は陽香に質問をぶつける。
陽香は僕の隣で、宙に浮いたままフワフワと前に進んでいる。
「……………………テンション高いっすね、陽香さん……………………」
「せっかくこうして幽霊になって、そしてもう一回りょーたんに出会えたんだから、楽しまなきゃ損ですよ!」
「幽霊って普通、未練があるからなるんじゃないの?」
「そんな事言っても、私だってなんで幽霊になったのか、さっぱりですよ。自殺した理由すらさっぱり分かんないですから」
「そう、そこなんだよ、しっかり聞きたいのは」
陽香が死んでから、陽香に一番聞きたかった事であり、そして陽香に聞いてもさっぱりわからなかった事。
「本当に、自分が自殺した理由を知らないんだよな?」
「そうですよー。自殺した日の記憶は、放課後くらいまでしかないのです。その後の事はさっぱり。気づいたら死んでて、気づいたら幽霊だったのです」
「気づいたらって、普通じゃありえないよな…………」
「それを言い出したら、普通幽霊になんてならないのです」
「それはそうだけどさ……………」
駄目だ。目の前の非現実的にも程がある現実に、脳が考える事を拒否している。
「とにかく、自殺した時の事はいくら思い出そうとしても無理なのです。死体に括り付けてあった紐だとか、勝手に書いてあった遺書だとか、そんなものはこれっぽっちも知らないです。管轄外です」
「いや、自分の事なんだから管轄内だろ」
「それで、気づいたときには幽霊になって、あの公園にいたのです。そしたら目の前にりょーたんがいるから、つい押しちゃったのです」
「僕、それで死にそうになったんだけど」
「そしたら幽霊仲間ですね!」
「そんな朗らかに言わないでくれよ、縁起でもない…………」
その死に方だと、確かに未練残りそうだけど!
「とにかく、ここは喜ぶ場面なのですよー! せっかく死んだ幼馴染がこうして生き返ったんですから、一緒に喜びましょうよー!!」
「……………………うん、そうだな」
そうだ。こうして幽霊になった理由とか、なんで自殺したのとか、そんな事は今はどうだっていいんだ。
こうやって目の前に陽香がいる。それを喜ばなくてはいけない。
「それじゃあ、急ぐですよー! ほら、遅刻しちゃうのですー!!」
スマホの時計を見ると、確かに遅刻寸前の時間だった。まあ昨日遅くまで起きていたので、当然と言えば当然だった。
「あ、おい陽香、待ってくれよ!」
この時僕は不覚にも、こんな時間がずっと続いたらいいのになんて、少しだけ思ってしまった。
幽霊といるなんて、普通では考えられないし、そして幽霊という存在が、この世に長くいてもいいだなんて事はないはずなのに。
陽香という幽霊の存在が、僕の生活にどんな影響を与えるのか。その答えはもっと先になって、嫌という程思い知らわれる事になる。
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