常識はいとも容易く崩れゆく?
「お姉ちゃんあたしのお菓子食べたでしょ!」
「た、食べていないよ・・・・・・雨」
「じゃあこれはなに? これお菓子の包み紙だよねぇ?」
「・・・・・・・・」
「もぉ言い逃れできないよ」
「・・・・・・だって、お腹空いていたんだもん・・・・・」
「違いますよマギコ。ここは『お菓子をこんな所にほったらかしに
していた雨が悪いんでしょ!』ってゆーところです」
「あっ、済みません・・・・・・」
今、私と雨は部屋で、おままごとをしていた。私が姉で雨が妹という
設定で。
「マギコ全然このシーン上手く出来ませんねぇ」
頬を膨らませて雨が言った。そんなこと言われても、おままごとなんて
生まれて初めてしたし。しかも設定が二人は姉妹で私が姉・・・・・・やりづらい。
「大体マギコ、セリフがグダグダです」
「はい・・・・・」
「おままごとはその時々のやり取りをいかにうまくすることで雨たちの
モチベーションが輝くんです」
「もち・・・・・べーしょん・・・・・?」
聞きなれない単語に私は混乱した。
「おままごとをする雨たちの価値のことです。マギコがそんなだと、一緒にやってる雨のモチベーションも下がってしまうんです!」
真剣な顔つきで言い放つ雨。鬼―おままごとの、いや、演技の鬼。
おままごとは聞いたことはあったけど、実際にするのは今日が初めて。
お子様のする他愛のない遊びと侮っていたが、成程、おままごとというのは
こんなにも奥の深いものなのだ。私は、認識を改める必要がありそうだ。
「もっ、申し訳ありません! 私、こういうことに慣れていなくて」
私が深々と頭を下げて謝ると雨は、
「雨の方こそ、ごめんなさい。ついムキになって・・・・・」
と、微笑して言った。
「そんなっ・・・・・!」
「雨、誰かとこんな風におままごとするの・・・・・初めてで」
え・・・・・・? 雨、今なんて―こんな風に誰かとおままごとするのは、
初めて?―という事は、雨は今まで・・・・・・たった独りでおままごと
していた、ということですか・・・・・?
「雨、一つお伺いしますが・・・・・」
「なに?」
「失礼ですが・・・・・お友達は・・・・・・」
「いないよ」
雨はすんなり答えた。
「あの、どうして・・・・・」
「だって雨学校行ってないんですよ。どーやって友達作るんですか?」
それでも、人は一人くらいは友達がいるものだ。私だって・・・・・
・・・・・・・・・仲の良い魔法少女くらいいますよ!
「じゃあ、ユウさんは・・・・・」
私が呟くと雨は、少し難しい顔になって、
「まさかマギコ、雨とユウが友達って思ってます?」
「違うのですか⁉」
「まさか、ユウはタダの幼なじみですよ」
でもそれは、友達ということでは?
「幼馴染とは、一緒に遊ばないんですか?」
「う~ん、昔はよく遊んだけど・・・・・今は・・・・・」
そこで何故か口を濁らせる雨。
「お二人の間に何か?」
私はつい、野暮なことを訊いてしまった。
「・・・・・・ユウ、雨を学校に連れて行こうとすることしか考えて
ないみたい」
そう言われれば、先ほどもユウさんは、雨を学校に誘いに来たかのような
素振りをしていたような。
「ユウもバカだよね・・・・・無駄なことして」
雨は、悲しそうな顔で囁いた。まるで叶いもしない夢を追いかけるのを、
憐れんでいるかのような・・・・・・
「それは・・・・・・ユウさんに失礼、だと、思います」
つい思った事を口に漏らす私。だけど、それでも勢いは収まらず、
「ユウさんは、純粋に雨に、雨と学校に行きたいんだと思います。だから
突然部屋に現れた私に、あんなに突っかかってきたんだと・・・・・・・
でもそれって、雨の事をとても大事に、それこそ、唯一無二の親友と
想っているからじゃ、ないんですか? そんなユウさんを馬鹿というのなら
・・・・・・・・・雨は、大馬鹿です!」
立ち上がって思った事を全部綺麗さっぱり言う私を、雨は
目を見開いて黙って聞いていた。すると雨は、
「マギコの言っていること・・・・・間違っていないと、思う。
だけどマギコ、やっぱり雨は、学校には行けないんです。お父さんと
お母さんも、雨は小学校に上がる前にいなくなってしまって・・・・
・・・・・だからどうやって学校に行ったらいいのかもわからなくて・・・・・」
「うるさい‼」
気づいたら私は・・・・・・・雨を平手でぶっていた。
「何故そこで諦める! 諦めたら何も得られない、何も踏み出せない!
判らないのなら訊け! 雨には訊く相手がいるだろう⁉ 大切な幼馴染が
いるのでしょう⁉ こんな所に閉じ籠っていないで、こんな狭い部屋で
おままごとに興じている暇があるなら・・・・・・・行動にうつせ! マギコ‼」
「・・・・・・え・・・・・・マギコ・・・・・・?」
その時、私は思い出した。私がさっき雨が言ったことは全部・・・・・・
私が以前、何もかもが嫌で部屋に引きこもった時に、エディお姉様から
言われた言葉だ。
「あっ・・・・・すすっ、済みません‼ 出過ぎた真似を・・・・・!」
さっきまでの威勢は何処へやら、慌てふためいて詫びる私。
「くすっ・・・・・あはははははははは!」
突然腹を抱えて、雨は笑い出した。叱られたことが―そんなにも、可笑しい?
「マギコって、変な魔法少女ですね。急に怒ったと思ったら、今度はそれを
謝りだして」
雨は必死に笑いを堪えて言った。
「そう・・・・でしょうか・・・・・」
マギコにそう言われて、自分でも、顔が真っ赤になっていくのが解った。
「自分でも気づかないんですか?」
揶揄うように言う雨に、
「お姉様方からは、変わっているとよく言われますが・・・・・・」
本当は、もっと色んな人から言われているけど・・・・・・
「雨・・・・・やっぱり外に出た方が、いいのかなぁ・・・・」
恥ずかしがるように下を向きながら呟く雨。
「そうですね・・・・・やっぱり、一日中部屋にいるっていうのは
ちょっとぉ・・・・・・・」
「さっきは大馬鹿だって言ったくせにぃ?」
「・・・・・・・すみません」
「マギコもむかし、誰かにあんな風に怒られたんですか?」
「どっ、どうして?」
心を悟られたと思い、私は変に狼狽した。それに対して雨は、
「なんとなく」
と言った。
「さっきも『マギコ‼』って言ってたし」
「あっ・・・・・・はい、昔、お姉様に・・・・・・」
「お姉ちゃんに?」
「ええ・・・・・・・」
「じゃあ、マギコも雨の、立派なお姉ちゃんですね」
「そそそっ、そんな滅相もない・・・・・‼」
私に妹はいないし、だから『姉』というのがどういった存在なのか、
私には解らない。だけど雨の言葉からは、お姉様方と私を同一視する
ように思えて、私はそれが酷く恐れ多かった。だけど、誰かに慕われるの
なんか初めての経験で、私は、『お姉ちゃん』という言葉に、高揚した。
「私は雨の・・・・・・お姉様、ですか?」
私が改めて尋ねてみると、
「えぇ~とぉ、お姉ちゃんはお姉ちゃんだけど、なんてゆーか・・・・・
・・・・・・赤ちゃんの頃から飼っているワンちゃんを『年上』って思う
感じっ?」
指を立てて可愛らしく笑って雨は言った。
なんだかそれもう・・・・・・・私の知っている『お姉様』から、
果てしなくズレているような・・・・・・・
私は今一度『姉』という存在の認識を改める必要があると、切に感じた。
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