もう一人のマギカ
通学路を歩きながら、ユウは学校に向かっていた。
その目は苛立ちに満ちており、踏みつけるように舗装されたアスファルトの
道を歩いていた。彼には聞こえてくる鳥のさえずりも、行きかう人々の会話も
通り過ぎる自動車のエンジン音も・・・・・・腹立たしくて仕方がなかった。
ユウはそんな怒りを頭にふつふつと溜めながらずっと考えていた。
雨の部屋にいたあの少女は誰なのか、と。
まるで誰かに強く訴えるかのように、そればかり考えていた。
彼女に問いても、その少女に問いても・・・・・・結局少女は名乗らなかった。
しかし自分が今まで雨の元に尋ねても誰もいなかった。
だってあそこに住んでいるのは・・・・・・雨だけなんだから。
それなのに少女は、当たり前のような顔で雨の傍にいた。
それがユウを、余計に腹立たせた。ユウは目の前の石ころを蹴飛ばした。
「なんでだよ・・・・・雨」
言ったところで雨は応えないのに、ユウは呟いた。今まで自分が、自分だけが
雨の傍にいると思っていたし、その考えは今も変わらない。なのに
あいつは、あいつは雨の、
「友達だって・・・・・・?」
ふざけるな。雨の友達はオレだけだ。ずっとオレは雨の傍にいた。
あいつの両親が、いなくなった日だって、オレは雨の傍にいた。
寄り添って、何度も、おばさんとおじさんは帰ってくるって、耳元で
言い聞かせてきた。でも、でも・・・・・・!
あいつは突然・・・・・・オレを・・・・・・拒絶した。
小学校に入学して、オレが学校行こうって誘っても、あいつは出てこなかった。
オレはあの冷たい扉の前で、ずっと雨が出てくるのを待っていた。
それでもあいつは扉を、心を開いてくれなかった。あの鉄の扉が恨めしくて、
つい蹴りそうになったこともある。そんな日々を過ごしていくうちに
二年、三年と過ぎていった。悔しかった。何も出来ない無力な自分が。
だけど今日、いつもと違って、扉は開いていた。本当は以前からずっとカギは
かかっていなかったもかもしれない。オレはあの時、なぜか心の中で期待と
罪悪感がせめぎ合っていた。面と向かってなら雨を説得出来るかもしれない。
でもずっと会っていなかった友達の部屋に勝手に入っていいのか。
そんな正常と異常の狭間の中雨の部屋に入ってみると、そこにたのは・・・・・
「ああっ!」
ユウは道に唾を吐いた。
「ホントなんなんだよあいつ・・・・・・!」
「お困りですか?」
突然声がしてびっくりしてユウは歩みを止めた。
「誰だ⁉」
「ここですよ」
声は上から聞こえてきた。ユウが見上げると、そこには女の人がいた。
だけど可笑しかった。女の人は電柱の上に立って冷ややかな笑いを浮かべ
ユウを見上げていた。訳の解らない少女の次は、訳の解らない女のご登場。
「なんだお前!」
「わたくし? わたくしは・・・・・・魔法少女です」
魔法少女?―馬鹿にすんな!
そんなのいてたまるか。ユウは頭上の女を睨みつけ、
「その魔法少女様がオレになんの用だ!」
女は訝しげるように首を捻り、
「あら、用があるのは貴方の方では?」
「はぁ? お前なんか知らないし用なんかない」
「ふぅん。ユウ君はわたくしに用はないと」
いきなり、愛称・・・・・・・・・
「てめぇ・・・・・!」
「じゃあ、雨ちゃんは自分でどうにかするおつもりで?」
こいつ・・・・・・なんで雨の名を! まさか・・・・
「お前、あいつのことなんか知ってるのか⁉」
「あいつ、とは?」
「雨の所にいた変な女!」
なぜ自分がそんな質問をしたのか解らなかったが、ユウは
魔法少女と名乗る女に尋ねていた。
「ふむ・・・・・・雨ちゃんの所にも来ていましたか」
「やっぱりなんか知ってんのか!」
「まあまあ、落ち着いてユウ君」
女はユウを制すると、続けてこう言ってきた。
「ユウ君、わたくしは貴方の〈奉仕〉をしに参りました。
貴方が望むのなら、わたくしは貴方と雨ちゃんの仲の修復を
全力で助力致します。ですが・・・・・それを決めるのは貴方です」
女が右手を差し出してきた。ユウは戸惑った。さっきからこいつの言っていることは荒唐無稽で、とても信じる気にはなれない。それでも、
「わかった! お前がオレの、雨のために動いてくれるって言うなら、
オレはお前を頼る! だけど妙な真似しやがったら・・・・・」
「しかと」
女はユウの言葉を遮って差し出した手を握りしめるとぐいっと上へ
引っ張った。瞬間ユウの身体が浮き上がり、一瞬のうちに女の
元へ引っ張り上げられた。そしてユウは、改めて彼女を見ると、
彼女は漫画に出てくるような煌びやかなドレスを身に纏い、左手には
三十センチ位の長さのステッキが握られていた。そして紺のセミロング
の頭からは犬耳が、角のように覗かせていた。女は蒼い瞳でユウを
見つめながら、
「わたくし、魔法少女のフレンシップと申します。雨ちゃんの
ため、共に頑張りましよう。早乙女ユウ君」
と、スカートの裾を摘み上げ会釈した。ユウはその姿に息を呑むことしか
出来なかった。
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