ウサギはひとりぼっちなのです・・・・

「じゃあマギコは、こことは違う魔法の国からきたんですね⁉」

「はい、そーですよ・・・・・・・・」

「そっかぁ~、雨も行ってみたいです! どうしたら行けるんですか?」

雨は私に、魔法少女に関する様々な質問をした。

いや、正確には、“している”と言った方が正しいだろう。しかし何故

言い換える必要があるのか。それは・・・・・・・これが昨日の夜からずっと

続いているから―という意味を持っているから。そしてそこから導き出される

答えは何か・・・・・・・・・ハイ、私達はこれを一晩中やり合って、私は今

まさにぶっ倒れそう。という・・・・・・・はぁ・・・・・・・眠い。

「マギコ?」

雨が私の顔を覗き込んできた。不味い! 意識が飛んでた。

「はっ、はい?」

「大丈夫ですか?」

「ハイ、ダイジョーブデス・・・・・・!」

嘘だ。本当は今すぐにでも、このテーブルに突っ伏して眠りたかった。

しかし私は、その機会を逃した。だから当然、

「じゃあ、次の質問!」

雨は元気よく手を挙げた。私は、彼女にバレない程度にため息をつく。

どうして私は、つかなくても良い嘘を、反射的についてしまうのか。

一体何時から私は、こんな悪い子になってしまったのかと、自分を呪った。

「なっ・・・・・・・なんでしょう?」

「マギコはどんな魔法が使えるんですか?」

「え・・・・・・・・・・・・」

その質問は、悪い意味で私の目を覚まさせた。以前にも、これとよく似たこと

を聞かれたから。でもそれは・・・・・・・あまり思い出したくなかった。

「・・・・・・・・マギコ?」

「・・・・・・・私は・・・・・・『時間』の魔法を教わりました」

「教わる? 魔法って、誰かから教わって使えるようになるんですか?」

「・・・・・・・・はい」

不思議そうに首を傾げる雨。どうやら、この世界の住人と、本来我々の

『魔法』の概念は少し違うようだ。だから私は雨に、

「『魔法』というのは、我々魔法少女に受け継がれる力です。

これは当然のことですが、その種類や魔力は、生まれてくる魔法少女によって

大差が存在し、私達は自分の最も強い魔力の魔法を、その筋の先生から、

使い方や注意点、時には反転魔法を教わるのです」

説明が少々硬かったせいか、考えるように雨は頭を捻った。だけど、

「マギコは、先生から魔法を教わったの?」

「はい」

「魔法の先生・・・・・・・・・カッコイイ!」

と、またもや目をキラキラ輝かせて歓喜する雨。

「そっ、そうでしょうか・・・・・・」

私は正直言うと・・・・・・・学校の先生が苦手だった。

強力な魔力を持つ魔法少女の家系―私はそこに生を受けた。

そのせいで、私は生まれてからずっと・・・・・期待されて育った。

私はその期待に応えようと、魔法学校に入るずっと前から、お姉様方

から魔法の手解きを受けていた。炎の魔法、錬金の魔法、時の魔法・・・・・

しかし、どれも上達はしなかった。そんな或る日、お母様は私に、

『あなたは・・・・・・・どの魔法を使いこなすことが出来るの?』

と、冷ややかな目でそう言われた。私は何度もお母様やお姉様方に

詫びた。何時までも魔法を上達しない私を。何時までも成長しない私を。

頭を下げて。涙で頬を濡らして。泣きながら地面に頭を擦り付けて。

そして待ちに待った魔法学校の入学式、組み分けの儀―どの魔法の魔力が

最も強いかに応じて新入生を振り分ける場において、先生は私に・・・・・・

・・・・・・・・・苦笑いをした。そして最も難易度の低い、『占い』のクラスに振り分けられた。そして其処を・・・・・・・下から三番目の成績で卒業。

「・・・・・・ギコ・・・・・・・マギコ!」

「はっ、はい!」

我に返ると、雨が私の肩を大きく揺すって私に呼びかけていた。

「またぼぉ~っとしてたけど、どうしたんですか?」

「いえ、少し・・・・・・思い出していまして・・・・・・」

「なにを?」

それには触れないで下さい! 思い出したくないので・・・・・・!

「マギコ雨に魔法教えて!」

「・・・・・・・・・・・・・へっ?」

唐突に雨がそんなことを要求してくるので素っ頓狂な声を出す私。

しかし・・・・・・・・・

「それは・・・・・・・・・・」

と、口籠る私。魔法少女は教わった魔法をニンゲンに教えることは、

掟で厳しく禁止されている。もしニンゲンがその魔法の発現方法等を

知っていた場合、その近くで〈奉仕〉を行う魔法少女がそれをやり難く

してしまう、という理由で。でも、それで私が口を噤んでいるんじゃない。

私は・・・・・・・・・今、とてもややこしい立場にいるから。

私は〈組合〉から魔法少女としての権限をはく奪されている。つまり、書類上

私は・・・・・・・・・魔法少女ではない。本来罪を犯して下界に追放された

魔法少女は、それに該当する一切の記憶を失くすと定められている。

無論、魔法少女に関する情報を下界に漏らさない為の対策として。

でも、その記憶を、私は今も保持し続けている。それにアリカお姉様は、今回

は『追放』ではなく、あくまで〈奉仕〉として私を下界に墜とした。

この二つの事実から、私は今も、魔法少女であると証明されている。

魔法少女であって魔法少女でない・・・・・・・・・私は雨に、魔法を教えて

も良いのだろうか。そもそも、私が彼女に教えられる魔法などあるのか?

『占い』という魔法は、周囲から『魔法もどき』と馬鹿にされる程、恐ろしい

位に魔法を使用しない魔法・・・・・・・って既にコレ、

魔法じゃないような・・・・・・・・いや占いは立派な魔法だよ!

月の満ち欠けから天気を予想したり、水晶玉で未来を占ったり・・・・・・・・・・

・・・・・・・具体例を挙げると、心なしか占いの魔法ポイントが一気に

減っていくような気が・・・・・しかも私は、どれも上手くいかなかった・・・・

「マギコお願いします! 魔法教えてぇ!」

両手を合わせてお願いしてくる雨に、私は、

「では・・・・・・・一つだけ・・・・・」

と、渋々了解した。

「えっ! なになにぃ⁉」

私はおもむろにローブのポケットから、タロットカードの束を

取り出した。これから何が起こるのか、ワクワクしたと言った感じに

手元を見つめる雨。私はコホンと、咳払いを一つして、

「では、今から他人の心を読む魔法をお教え致します」

「はい!」

私はタロットカードを雨に手渡して、

「今、自分が最も知りたい事を頭に思い浮かべながらこのカードを

きって下さい」

私が促すと、雨はカードをぎこちなくきり始めた。すると、彼女は手を止めて、

「ねぇマギコぉ」

「はい」

「これ・・・・・・雨が何を考えているのか当てる魔法、なんだですよね?」

「はい」

「じゃあ、『最も“知りたい“事を思い浮かべてカードをきる』って

ちょっと変じゃあ・・・・・・」

「え・・・・・・・・・・・・・」

しまった‼ これは『カードをきった者がその人の一番知りたい事が

判るようになる』の魔法(占い)の手順だったああああああああ‼

「マギコ・・・・・・まさか間違えたんですか?」

はい・・・・・・・・・・完璧に間違えました。

「もっ、申し訳ありません先生!」

「先生?」

うぐっ、しまった! つい何時もの癖で・・・・・・・!

「ちっ、違います! 今やり直しますからっ!」

そう言って私は雨からカードをひったくると、それを・・・・・手元が狂って

テーブルの上に、豪快にぶちまけた。テーブルと床に散乱するタロットカード。

それを唖然と見つめる雨。失敗と緊張で泣きそうになっている私・・・・・・・

(嗚呼、もう・・・・・・消えて無くなってしまいたい・・・・・・)

すると、雨は散らばったカードを拾い集めると、それらを綺麗に束ねて

私に差し出してきた。

「えぇ・・・・・・・?」

涙を堪えるように声を漏らす私に雨は、

「だいじょうぶですか?」

と、優しく声を掛けてきた。

「どうして・・・・・そんな事を聞くのですか・・・・・?」

普段なら私は、やり方を失敗したらお姉様や先生に、それこそ烈火の如く

怒られるのに、この子はむしろ、そんな私を心配している。

「だって、マギコすごい慌ててたから」

ますます、解らない。

「間違えて慌てたら、怒られるのではないのですか・・・・・?」

私がそう言うと、雨は笑って、

「そんなことしないよ。そんなのかわいそうじゃないですか」

かわいそう・・・・・・・そんな言葉、言われたこともなかった。

失敗したら怒られるのが、私には当然の反応だったから・・・・・・

「もう一度教えてください。マギコの魔法」

「・・・・・・・・・わかりました」

私はもどかしい想いを抱きながら、何時もなら中断される筈の

魔法を、雨の目の前で再開した。

  ◇◇◇

状況を整理するため、私はテーブルの上に紙(雨から借りたジユウチョウという

ノート)と書くもの(持参していた羽ペンとインク)を置き、今起こっている

事を書き写し、それを睨みながら唸っていた。因みに雨は、昨夜から私と燥ぎっ

ぱなしでいい加減疲れが出たのか、私の横で寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている。少し肌寒かったので、私は着ていたローブを彼女に被せた。

それは良いとして、これは・・・・・・・余りにもあんまりじゃないですか!

1、私は度重なる規則違反のため魔法少女をクビにされた。

2、再び私が魔法少女として活動するにはある〈奉仕〉をしなければならない。

3、〈奉仕〉内容―不明。

4、〈奉仕〉相手―不明。

5、〈奉仕〉相手の現在地―不明。

「不明ばっかりじゃないですか‼」

私は怒りのあまりテーブルを拳で叩いた。だけど隣で雨が寝ているのに

気づいて慌てた。雨が起きてしまってはいないかと確認したら・・・・・

(良かった・・・・・・起こしていなかった)

スヤスヤ眠っている雨が其処にいて、私はホッと胸を撫で下ろした。

それにしても、アリカお姉様はどうして私に、こんな無茶なことを・・・・・

先述の通り、魔法少女は〈奉仕〉を行う際、その内容と相手は事前に報告され、

魔法少女が円滑に〈奉仕〉を行えるように配慮されている。

だが私にはその配慮はおろか、必要不可欠な魔法すら与えられていない。

これでは魔法少女の(奉仕)として成立しなくなってしまう。

人が橋を使わずに川を渡る行為に等しい。

「お姉様・・・・・私に一体誰を、何の〈奉仕〉をしろと言うのですか・・・・・」

私は恨めしそうに呟いた。でも幾ら、情報をくれなかったお姉様を恨んでも

何も始まらない。取りあえず、不明点を順序立てて解決していこう。

まず、〈奉仕〉相手。これは状況的に考えて、宇埼雨―この子ということになる。

私はジユウチョウに書かれた『〈奉仕〉相手』から矢印を引っ張り『宇埼雨?』

と記した。私は穴を通じて彼女の住む部屋に落下してきた。

という事は、〈奉仕〉相手=宇埼雨、〈奉仕相手〉の現在地=この部屋・・・・

ということで、一応は解決する。ところがそれだと・・・・・

「肝心の、〈奉仕〉内容は・・・・・・・?」

それがどうしても引っ掛かる。見たところ彼女は、何か悩み事や

迷い事があるようには見えないし、そんな素振りも、少なくとも私が

此処に来てから一度も見せてはいない。となると、やはり雨は、

私の〈奉仕〉相手ではないのか・・・・・・じゃあ私は、何故

此処に。わからないことだらけで、頭がこんがらがってくる。

「・・・・・マ、ギコ・・・・・」

「はいっ!」

名前を呼ばれて振り返ると、雨が何か寝言を言いながら、私の服の裾を

引っ張って来た。

「これは・・・・・・なんの・・・・・まほうでしゅ、か・・・・・・」

どうやら雨は、夢の中で、まだ私から魔法を教わっているようだ。

「風邪を引きますよ。雨」

私は動いて乱れたローブを彼女に掛けて、優しく頭を撫でた。

昔、まだ私が小さかった頃、エディお姉様がこんな風に、

私と添い寝をしてくれたことがあったっけ・・・・・・どうしてかは、忘れてしまったけど。やっぱりこの子に、〈奉仕〉の必要があるとは思えない。

私は彼女の頭を撫でながらそう思った。

(それでも、私が此処に来たのには必ず理由がある)

そう言えば雨は今日、学校に行かないのか。ニンゲンは私達でいう魔法学校

みたいな所に通うことも、それがほぼ毎日あることも知っている。

先日私が〈奉仕〉した山田隆文くんも『ショウガッコウ』なる所に通っていたし。

しかし雨は今、学校に行っていない。私達と同じように、特定の子供だけが

通うのか、それとも、今日は単にお休みなだけなのか。

それにさっきから気になっていることがもう一つある。

雨のお母さんやお父さんは、今何処にいるのか。

部屋を見渡すと、彼らの部屋と思われる所は確認できるが、本人達の気配は

全く感じられない。という以前に、此処には彼らが存在しているという証拠

自体が薄いのだ。夜中部屋にいたのも、雨一人だったし。

しかしこれらが私とどのように関係するのか、それが判らない。

結局、わからないことには変わらない・・・・・・・・

「はひっ!」

突然玄関のドアが叩かれ、私は驚いて声を上げた。

ドンドン・・・・・ドン・・・・・・ドンドンドン!

不規則に鳴り響く扉の叩かれる音。

私は出ようか、雨を起こそうか迷った。

此処は私の住む所ではないから、雨を起こした方が良いの

かも知れない。だけど雨は、夜中から今まで起きてて疲れていると

思うし、ここは起こさず、代わりに私が出た方が良いとも思う。

どうしようかあたふたしていると・・・・・・・・扉の開く音がした。

(えっ・・・・・・・)

扉が閉まり、玄関から誰かが入ってくる気配がした。

(まさか・・・・・ドロボー⁉)

その私は、泥棒から雨を護る―というのが今回の〈奉仕〉内容だと

直観的に悟り、眠っている雨を背にして身構えた。

部屋の角に手が掴んで、一気に緊張する私。

そして其処に姿を現したのは・・・・・・・・・・男の子だった。

雨と同い年くらいで、黄色い帽子に鞄を背負った男の子。

「だっ・・・・・・誰だおまえ!」

男が気迫に満ちた声で私に問いてきた。

その声で、雨が目を覚ますのが判った。

「・・・・・・ユウ⁉」

寝起きとは思えないくらいで雨は叫んだ。

「ゆ、ユウ?」

それは、この男の子の名前か。すると目の前の男の子が私に詰め寄って

来て、

「おい・・・・・お前誰だよ!」

「なんでユウが雨ん家にいるの!」

雨が立ち会がって私越しに声を荒げた。

「それよりも雨、この女誰だ・・・・・・」

「いいから出てってよ‼」

何が何だか解らず混乱する私をよそに、雨は家に押し入った男の子を

追い出してしまった。

「雨、さっきの子は・・・・・」

私が聞いても雨は目を瞑って頭を横に振るだけだった。

私は彼が、私が此処に来た理由を知っているように思えてきて、

俯く雨を残したまま、部屋を飛び出した。

◇◇◇

「あっ、あの!」

呼び止めると、ユウという男の子は廊下の真ん中で立ち止まると、そのまま

振り返ってこっちに近づいて来た。

やがて私の目の前に立つと、親の仇でも見るかのような目つきで

私を睨んできた。彼は私よりも少し背が高いので、私は彼に見下げられる

ような恰好になってしまう。

「お前・・・・・・誰だ?」

子供とは思えない低く威圧感の溢れる声で彼が問うてくる。

「だっ、誰と言われましても・・・・・・」

こんな至近距離で、子供とはいえ男の人に話しかけられるのは初めてで、

私は背中を丸めて俯いてしまった。するとユウは小さく舌打ちを鳴らし、

「雨とはどんな関係だ! 親戚か? いとこか? どうして雨の部屋にいた⁉

雨が自分から入れたのか⁉ それともお前が無理やり押し入ったのか⁉ もしそうならタダじゃおかないぞ! いいから答えろ‼ お前は一体・・・・・・」

「そっ、そんな一度に訊かないでください!」

私が怒鳴っても彼の勢いは収まる気配が無く、

「もう一度聞く。お前は雨のなんだ⁉」

と、私の肩を激しく揺すって訊いて来た。それに私は、

「・・・・・・・・・・友達・・・・・です」

と、恥ずかし気に俯いて答えた。彼はそれを聞くと、同じように下を向いて

黙ってしまった。しばらくすると、彼は唸るように、

「・・・・・・友達は・・・・・・オレだけじゃねぇのかよ・・・・・・」

と、呟いた。そのまま私の肩から手を退けると、踵を返してフラフラと

立ち去ろうとした。

「待ってください! 教えてください。雨はどうして・・・・・・」

とユウの腕を掴んで訊くと、彼は、

「友達だろ・・・・・・あいつから直接聞けよ・・・・・・」

そう、力なく呟いた。そして彼は、朝日に照らされた廊下を、歩いて行った。

その背中が、何だか凄く・・・・・・・寂しそうだった。

私が部屋に戻ると、雨は台所で何か作業をしていた。

「何をしているのですか?」

私が後ろから尋ねると、雨は私に気づいたらしく、振り返って、

「朝ご飯を作っているんです」

雨は微笑んで答えた。

「朝ご飯? それは、雨が作るのですか?」

「はい」

「ですが、朝ご飯は・・・・・・」

本来親や年長の兄弟が作るもの―私がそう言いかけると雨は、

「この部屋には、雨しかいませんから」

「えっ・・・・・・?」

それは、此処に住んでいるのは・・・・・・雨一人という事なのか?

でもこんな小さな子がたった独りで生活しているなんて、私は想像出来ない。

「お父さんやお母さんは?」

「知りません。今頃何処でなにしてるのやら・・・・・」

雨はボウルの中の卵を泡だて器で手慣れた手つきでかき混ぜながら言った。

その横顔が・・・・・・寂しそうに見えたのは、私の勘違いだろう、か?

「あの、雨?」

「なんですか?」

「さっきの・・・・・・」

「ユウのことですか? 気にしないでください。どうせまた、学校行こうって

ゆー誘いですから」

「どうして雨は、彼と一緒に学校に行かないのですか?」

「・・・・・・親もいないのに、どうやって学校に行くんですか?」

その言葉に、私は何も言えなくなった。つまりこの子には、一緒に朝ご飯を

食べたり、笑いあったり、叱ってくれる親がいない。だから、学校にも行けない。

よくよく見てみると、この部屋には子供用ベッド、小さなテーブル、小さな洋服ダンスはあるのに・・・・・代わりに勉強机や教科書と言った、この年頃―いや、

私達の年頃の子供なら誰でも持っていて当たり前の物が・・・・・ない。

まるでおままごとを実際の部屋でやっているかのような、そんな部屋だ。

「さっ、ごはんできましたから、マギコは先に座っててください」

雨は私にそう促すと、綺麗にふんわり焼きあがったスクランブルエッグと

ソーセージを側に置いてあった―子供用の皿に器用によそった。

その時、私の頭の中で歯車が、カチリと音を立てて重なり動き出したような

気がした。この小さな女の子は、当たり前の日常を当たり前の顔で生活している。

だけどそれは全部私達にとって・・・・・・・非日常の何物でもなかった。

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