第30話 大浴場を改装だ
その日の晩、みんなで大浴場に集まると親父さんからどのような施設がいいのか参考になるものがないかと聞かれた。
そこで俺は、スマートフォンを取り出して検索を行う。
「ええと、薬草風呂とジェットバスはこんな感じですね」
「ほうほう。なるほど。」
「で、サウナがこれです」
「ふむふむ」
親父さんは顎に手を当て何やら思案顔だ。
「ねー、ゆうちゃんー」
「ぬお、マリー」
親父さんの顔を伺っていたら、マリーが不意に後ろから抱きついてきたあ。
彼女は肩から顔を突き出して俺の手の中にあるスマホを指さす。
「これなにー?」
「あー、これは岩盤浴といって暖かくした岩に寝そべって汗を流す施設だな」
「おー、なんだかよさそうじゃないー。これもつくっちゃおー?」
「あ、うん、あって困るもんじゃないし……」
「やったー。楽しみー」
マリーは俺の頬へ顔をスリスリした後、地面に降り立った。
作る物が更に増えちゃったけど、大丈夫か?
「よおし、じゃあ始めるとしようか。勇人君、少し離れていてくれたまえ」
「あ、はい」
「こっちよ、勇人くん」
咲さんに手を引かれて、大浴場の入り口辺りまで移動する。
その場で親父さんの様子を見ていると、目をつぶって集中に入ったようだ。
カッと目を見開いた親父さんは、両手を前に突き出し呪文を紡ぐ。
「
親父さんの手のひらが赤紫色に輝いたかと思うと、何もない空間が歪んでキングベッドサイズの黒曜石が落ちてきた!
地面に落ちる前に骸骨くんが片手でひょいとキャッチして、静かに床に置く。
「な、なんだってえええええ!」
あっけにとられて、数秒間何も反応できなかったがすぐに驚きの声をあげる俺。
何、なんなのあれ? 魔法なのお?
「勇人君、岩盤浴の岩とはこんな感じかね?」
「え?」
俺はスマートフォンで先ほど出した岩盤浴の写真と、床に置かれた黒曜石を見比べる。
「は、はい。これで大丈夫と思います」
「そうかね、そうかね。他もやってしまおう。壁も一度外さないといけないね」
「湯船はここに増設でいいと思うんですが、岩盤浴とサウナは別室の方が使いやすいと思います」
「確かにそうだね! サウナは個室じゃあないとな。岩盤浴もそうしよう。む、それならいっそ……」
親父さんはウキウキした様子で、頭の中で図面を引いている様子だった。
これはひょっとしたら、一晩でできるかもしれないな。だって、骸骨君……あんなサイズの岩の塊を片手だもん。
あれが大丈夫なら、部屋ごとだって運べちゃいそうだよ。
「うおおお」
俺の目の前にいつの間にか空に柱が現れ驚きで声をあげる。
「勇人くん、危ない!」
咲さんが俺の肩を掴みそのまま押し倒すと、覆いかぶさってくれた。
俺の目には落ちてきた柱を指先でつかみ取ってしまったマリーの姿が……。
「あ、ありがとう。咲さん」
「大丈夫? 勇人くん」
咲さんは俺の頭をなでなでしてくる。あああ、髪の毛が気持ちいいい。
いや、それよりもお。
「さ、咲さん、当たって」
「え? 怪我しちゃったの? 勇人くん」
「い、いや。そうじゃなく……桃が」
「桃? ここに桃はないよ。勇人くん、まだ冷蔵庫にあったと思うから食べる?」
ぬがああ、通じねえ。俺は目の前にある桃にむしゃぶり……い、いかん、何考えてんだ俺は!
頭を振ろうにも密着され変なところにあたりそうだったから、慌てて止める。
「勇人君、君にデザインは見せてもらったから、大丈夫だよ。怪我をされては困るから、残りは私たちに任せてくれないか?」
親父さんが眉をしかめ困った感じで、俺の顔を見やる。
「は、はい。そうします」
そんなこんなで、この日は布団に入ることにした。いつの間にか枕元には黒猫が丸まっていたので、少しだけ背中を撫でてそのまま眠りにつく。
◆◆◆
――翌朝
咲さんに連れられて大浴場に行ってみると……
「す、すげええ!」
あっけにとられる俺。なんと一夜にして香草風呂とジェットバスができてるじゃないか。ジェットバスだってさ、五人分の寝そべる場所があるんだぞ。
香草風呂からは薬草のいい匂いが漂っているし、なんじゃこらあ。
「勇人君、サウナと岩盤浴はこっちよ」
咲さんが指をさす方を見てみると、木目の横開きになった扉が。
――扉を開ける。
「す、すごすぎるぞおお!」
全体が古代ローマ風の意匠が施されたサウナになっており、扉をくぐると中央部に出る。中央部は一段高くなった円形の個所があり、ここで寝そべり汗を流すことが出来る。
中央からコロッセウムのように円形に高くなったところへ続く階段があり、上はキングサイズの黒曜石がベッドになっており、、人一人が入るくらいの窪みがあって、そこに黒い小さな石が敷き詰められていた。ここが岩盤浴施設なんだな。
広さがまたすごい、岩盤浴施設だけで二十。中央部ではゆったりと十人以上は余裕で寝転べる。咲さんが中央部の段差に腰かけて俺に手を振っていた。
何だこれは! 確かに俺はサウナがどんなもので、岩盤浴の岩とかもスマートフォンで見せた。しかし、部屋のデザインは親父さんがやったものだ。
ここまでの工事をするなら、工期半年は余裕だって。す、凄まじすぎる。
「どうかな。勇人くん」
「凄すぎてもう何て言ったらいいのか」
「気に入ってくれた?」
「うん、これはすごいよ! 大浴場だけで商売になると思う!」
「じゃあ、勇人くん脱いでね」
「え?」
一体どうしちゃったんだ? 咲さんの顔を伺ってみたが、ニコニコ俺に微笑んでいるではないか。
可愛いが、なんでなんだろう?
「タオルを持って来るから、脱いで待っててね」
「あ、ああ。今からこのサウナを試してくれってことかな」
なるほど。そういうことか。いきなり脱げって言うから何事だって思ったよ。サウナが問題ないかどうか、人間である俺以外試すことができないからな。
それならそうと言ってくれれば。
いそいそと服を脱いでから気が付いたが、咲さんにタオル持ってきてもらう必要あったか? 俺が待ってくればいいだけじゃないか……しかし、もう遅い。咲さんがすでに戻って来てしまっていた。
後ろを向いて咲さんからタオルを受け取ると、中央の段差に腰かけタオルを上に乗せた。
「咲さん、ありがとう。どんな感じだったか後で報告するね」
「うん」
咲さんが頷くも、立ち去っていかないんだけど。
あれ? 最初のお試しだから、何かあるといけないからここにいるの? ちょっと恥ずかしいんだけどお。
さっきから、じーっと俺のことを見ているしい。
――二十分後
かなり汗をかいてきたが、まだ行けそうだぞ。
だってさ、サウナはとても気持ちよく汗をかくことができいるんだから。
しかし、汗で濡れて腰に巻いたタオルがちょっと……透けてきた。
「勇人くん、すごい汗」
咲さんがにじり寄ってきて、手に持ったタオルで俺の顔を拭いてくれる。
「ありがとう。咲さん」
咲さんは甲斐甲斐しく俺の肩、背中、胸と汗を拭いてくれたが、タオルが太ももへ。え、ちょっと。そんなところまで吹くといろいろ不味いことに。
「さ、咲さん、下はちょっと」
「ん? いっぱい汗かいてるよ」
俺の言葉を無視してあんなところまで拭こうとする咲さん。そして、汗でびっしょりになった俺の下半身に乗せたタオルに手をかけてくる。え? そ、そこはらめええええ!
腰に巻いたタオルは取ったらダメよお。
なんて心の中で叫んだがむなしく……咲さんがタオルをはぎ取ってしまったのだ。すぐに、新しいタオルでそこの汗を拭いてくれる咲さん。ぬううあああ。うあうあう。
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