第26話 酒は飲んでも以下略

 ヤシの実に穴を開けて、グラスに注ぎ鼻を近づける。

 んー。外からだと日本酒ぽい匂いかなと思ったけど、甘い香りが結構強いな。

 

 どれどれ。俺はぐびりと一口お酒を飲む。

 ん、んん。なんだか急に気分が良くなってきたぞお。

 あはははは。あれえ、あんなところにたわわに実った桃があるじゃあないかあ。

 

「ちょっと、勇人くん、どうしたの?」

「おお、桃がしゃべったあ」

「え、勇人くん、いきなり……揉まないで……ん、んん。いきなりどうしちゃったの!?」

「ゆうちゃん殿、一口で完全に出来上がってしまったようですぞ。こ、これは!」


 白い煙があがって、今度は小ぶりなおもちが姿を現したぞお。


「ん、んっ……勇人くん!」


 桃、桃ぉ。おもちが寄ってきたけど……俺は桃がいいんだああ。

 

「ゆうちゃん殿、ささ」

「あん、そんなところまで……勇人くん!」


 ぬほおお。桃栗三年柿八年。だから、桃は偉大なのだ! だって八年だぜ。八年。

 南無阿弥陀仏。

 

 俺は桃へ祈りを捧げながら、両手を合わす。

 

「勇人くん、ま、またあ」

「ゆうちゃん殿、吾輩は……?」


 ハッ! 俺は何をしていたのだ!

 うひゃああああ。

 

「さ、咲さん、ごめんなさい! も、揉むつもりなんてなかったんです!」


 俺はズザーっとスライディング土下座をして咲さんへ頭を下げる。

 

「ん、いいの。勇人くんなら……」


 咲さんはポッと頬を朱に染めて、俺の手を取った。

 

「さ、咲さん。うひゃああ」

「いいよ。勇人くんが触りたいなら……」


 桃がああ、むにゅううんんっと。

 ダ、ダメだって。何が起こっていたのか分からないけど、クロも見ている前でそんな……咲さん、大胆過ぎます。

 でも、もうしんぼうたまらん!

 

 俺が咲さんを押し倒してしまおうと身を乗りだした時、横から邪魔する猫耳少女形態のクロの声が。

 

「ゆうちゃん殿、放置プレイとは……吾輩、興奮してきたです……はううう」

「ん、うあああ。クロ。素っ裸じゃねえか!」

「先ほどからそうでしたが?」

「俺が気が付かないわけないだろお。俺のシャツでも被ってくれ、待ってろ」


 急いでクローゼットを開け、ハンガーにかかったワイシャツを一枚ひっつかみクロに手渡す。


「袖を通すだけでいいから」

「ハアハア……ゆうちゃん殿のにほい……」


 こらあああ、スリスリするんじゃなくてだな、着ろ! ボタンまでつけろと言わないから。

 

「クロ、それはタオルじゃないの。服なんだよ」


 咲さんがクロへ突っ込みを入れるけど、なんだか意味合いが違う気がするぞ。ま、間違っちゃあいない指摘だけどさ。

 あのエロ猫は……これ以上は言うまい。

 

「よおし、袖を通したな。やればできるじゃないか」

「もちろんですとも! 吾輩、やればできる子なんです!」

「じゃあ、普段から着ような」

「それは……善処するです」


 こいつは着ねえな。ぜってえ。

 いや、それよりもだな。全裸より、こう、何というか、エロい。

 裸ワイシャツでボタンを開けているんだぜ。ふくらみがわずかに見えて、だ、ダメだ。クロだぞ。

 あのエロ猫なんだぞ! いかんいかん。


「勇人くん、顔が赤いけど、まだお酒が回ってる?」

「い、いや。そんなことはないけど……」


 ま、まずい。咲さんに悟られたくない。

 もし、咲さんがさっきみたいに勘違いしてだな、裸ワイシャツなんてしたら……俺はもう「いただきまーす!」してしまう自信がある。

 ん、さっきからの記憶がないのって……

 

「咲さん、俺さっきは酔っぱらってた?」

「うん、たぶん……桃、桃とか言ってたよ。桃が好きなの?」

「うわあ、うわあ……」


 咲さんは果物の桃って思ってるけど、違うよ、咲さん。

 まじかよおお。俺そんなこと言って、咲さんのおっぱいをもにゅもにゅしてたのか……穴があったら入りたい。

 

「ゆうちゃん殿は先ほどから咲殿のおっぱいばかり……次は吾輩です? こ、興奮してきたでござるうう」

「お、俺、そんなに触ってたの?」

「そうですぞ! うらやまけしからんです。何度も、何度もおおお」

「咲さん、本当にごめん!」


 再び土下座する俺。いくら酔っぱらってたとはいえ、「桃、桃」とか言いながらもにゅもにゅを何度もしていたとか咲さんにグーパンチされるどころか、顔も見たくないって言われても不思議じゃあねえぞ。

 ところが、咲さんは不思議そうに首を傾け言葉を返す。

 

「だから、勇人くんが嬉しいなら、私はいいよって……」


 両手を頬にあてて、頬を染める咲さんに思わず見とれてしまったが、何とも思ってないどころか「俺が嬉しいならいい」とまで言ってくれてるんだけど……人としてダメだろ……これで「わーい、咲さんのおっぱいが揉み放題だー」とか。

 いくらなんでも、酷すぎる。

 この勘違いを何とかせねば……。

 

「さ、咲さん、人間の女の子は男に対して気軽におっぱいを揉ませたりしないんだよ」

「そうなの? 大丈夫な時ってどんな時?」

「ええと、好きな人同士が二人きりでムードがあるときにとか……」

「私、勇人くんのことは嫌いじゃないよ?」


 ぬああああ。俺も好きだあああ。咲さん! とか言ってしまいそうになる。

 咲さん可愛いし、かなりズレてるけどいい子だしいい。もうゴールしたい。だ、ダメだ。誤解を解くのは難しい……。

 

「勇人くん、教えてくれてありがとう! 勇人くんじゃない男の人に触らせないようにするね!」


 ど、どこで覚えたんだ。そんな殺し文句ぅううう。俺もう、無理です。耐えれませんん。咲さん、俺とけ、けっこ、とここで、後ろから口を塞がれ引っ張られてしまい、後ろ向きに倒れこんでしまった。

 

 むにゅん。

 

「吾輩も相手して欲しいですうう」

「ク、クロおおお。太ももで頭を挟まないでえ」

「ん、ゆうちゃん殿、こちらがよいのですか?」

「おっぱいを頭にすりつけるなあ!」

「んん、こちらでもないと……では」


 クロは俺の肩を抱くとクルリと俺を反転させる。

 彼女は俺の髪の毛を撫でると、顔を近づけ……

 

 むちゅう。

 し、舌までえ。

 

 彼女は俺から顔を放すと耳まで真っ赤にして目を伏せた。

 む、何やら視線を感じて横を向くと、咲さんがぼーっとした顔で俺を見つめているじゃあないか。

 

「咲さん?」

「ゆ、勇人くん、私も、その、して欲しいな……」


 もじもじしておねだりする咲さんがたまらなく可愛い!

 俺は彼女に吸い寄せられるように、顔を寄せると、彼女はギュッと俺を抱きしめてきて密着する。


「さ、咲さん」

「勇人くん……いいかな?」

「うん」


 つい、俺から口を寄せ咲さんに口づけしてしまった。


「咲さん、なんだかとても頭がスッキリしてきたよ!」

「勇人くん、ありがとう!」


 ほうと熱い吐息を吐き出す咲さんへ、俺は微笑みかけさっきまで座っていた椅子へと腰かけた。

 ふう、こういう夜はダンディに、バーボンをロックで飲みたい気分だぜ。

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