第22話 魔法を使いたく

 咲さんに案内されたところは地下室だった。だけど、冷蔵庫じゃなくてこれってただの倉庫に見えるんだけど……やたら広いから大きな荷物でも余裕をもって置くことはできそうだ。

 んん、奥の方で骸骨くんが、肉の塊をせっせと積み上げている。

 

「骸骨くん、いつもありがとう」


 咲さんが骸骨くんへ感謝の言葉を述べると、俺も同じように彼らにありがとうとお礼を言った。

 いや、二十四時間働ける力持ちと聞いてはいたけど、本当に「二十四時間戦えますか?」を地でいっているんだな、骸骨くん。いつもカタカタと甲斐甲斐しく働く姿には、ある種の感動を覚えるぜ。

 休まなくても平気だから、休まないってのもちょっとなあ……何か骸骨くんたちが楽しめそうなものを考えてみるかなあ。

 

 考えている間にも骸骨くんの肉を運ぶ作業は終わったみたいで、彼らは咲さんへ親指を突き出してカタカタすると、地下室を後にした。

 

「じゃあ、勇人くん、魔法を使うから少し下がってね」

「うん」


 俺は咲さんから数歩後ろに下がると、彼女は両手を前に出して集中しているようだった。

 数秒後、彼女の足元から上向きの風が吹き始めて、髪の毛が風によって下から舞い上がる。

 おおお、すげえ、すげえよ。魔法!

 

冷凍氷結アイスコフィン


 咲さんの力ある言葉と共に、キーンと高い音が鳴ったと思うと肉の塊が凍り付く!

 これだよ、こういうのを待っていたんだよ。まさに、俺がイメージする魔法そのものだ。

 

「咲さん、すごいよ!」

「そ、そうかな。ありがとう、勇人くん」


 うっしーの店で購入したお札を使えば、俺にも咲さんみたいな魔法が使えるようになるのかなあ。

 そろそろクロが再起動しているだろうし、戻ったら聞いてみるか。

 

 ◆◆◆

 

 咲さんと別れ自室に戻ると、座布団の上で黒猫が丸まってあくびをしていた。おお、元に戻ってそうだな。

 俺はリュックからお札を取り出して、クロに見せる。

 

「クロ、これを使えば魔法が使えるかもしれないんだっけ?」

「そうでござる。魔法を使うには体内に魔力をためねばなりませぬ。そのお札を持っていれば自然に魔力がたまるはずでござる」

「おお。じゃあ、これをポケットにしまってずっと持っとくことにするよ」

「明日にはゆうちゃん殿の体内で保持できる魔力が満タンまでたまっているはずです」


 ほうほう。それは楽しみだ。

 俺はウキウキしながら、就寝し翌朝を迎える。

 

 俺はクロがお座りする座布団の前であぐらをかき、彼女と向い合せになった。

 

「どうだろう? クロ」

「ちゃんと魔力がたまっておりますぞ!」

「そうなのか? 俺には全く分からないけど……何をしたらいいだろう?」

「まず服を脱ぐでござる」

「待てこらあ!」


 俺が思わずクロに殴りかかろうとすると、「そういう意味じゃないでござるう」と言い訳して来た。


「俺が脱いだら、猫耳に変身していつものパターンじゃないだろうな?」

「……変身はするでござる。が、決してそのような」

「必要なら仕方ないが、服を着てくれ、そこのタンスにあるだろ」


 裸で向い合せとか悪い予感しかしないぜ。

 タンスにはクロ用の下着と服が一式入っているのだ。先日俺が着せてあげたから、何とか着ることはできるだろ。

 

――猫耳少女に変身したクロが着替え始めてから、十分経過……


「着たです!」

「よおし、よく頑張った! えらいぞ!」


 着たのは結局パンツとワンピースだけだった。ブラジャーは頭にこそ被らなかったけど、しばらくブラジャーとにらめっこしたクロは装着することをあきらめていた。

 まあ、僅かなサイズだから、つけなくても揺れたりしない。大丈夫だ。問題ない。俺の興奮度的に。

 

 俺はクロの指示どおり、上半身裸になると改めて彼女と向い合わせに座る。

 

「まずは目を閉じるでござる」


 クロに言われた通りに目を閉じ、彼女の言葉を待つ。


「心臓の位置から何か流れているものを感じないです?」


 よおし、待ってろよお。

 集中だ!

 集中するううう!

 あかん、何も分からんわ! 

 

「クロ、分からん」

「魔力を感じた事がないです?」

「ああ、唯の人間だからな」

「今、吾輩の魔力が分かります?」


 クロをじーっと見つめるが、全く何も感じ取れない。さらにじーっと見ると、彼女の顔が赤くなってきた。

 まだ足らないか。じーっと……

 クロが飛び込んで来たー! そのまま押し倒されてチューされる。

 まずい! また発情モードかよ。しきい値低すぎだろこいつ。

 うわあ。舌がー! なにをするおまえらー。

 やっとクロが俺から離れると、おや、彼女の周囲に薄いオーラのようなものが見える。これが魔力か?

 

「見えたです? 魔力?」


 口元のヨダレを拭いながら、クロが聞いてくる。


「お、おお。見える」

「魔力はゆうちゃん殿の体にも同じように流れているです。意識してみるでござる」

「おう」


 目を閉じ、心臓から流れる血流のように何かが流れているのが感じ取れた!


「魔力、感じました?」

「うん、何となくわかった!」

「魔法は、その魔力を外に出すイメージで」

「目からビームみたいなもんだな。いや手からでもいいんだけど……」

「言い方にセンスが無さすぎて、吾輩どう言えばいいか」

「……まあいい。魔法ってどうやって発動するんだろ?」


 咲さんは呪文、このエロ猫はチューで発動してたな。


「一番強くイメージがわく仕草とか呪文とか何でも大丈夫でござる。イメージできることが肝要なのです」

「イメージかあ」


 よし、やってみよう。床に置いてある布団を動かすイメージだ。呪文がカッコよいと思うから、俺の魔法発動には呪文を使うことにしよう。

 よおし、行くぜ! 


「動け布団!」

「酷い呪文でござる……」


 何故かげんなりしているクロはほっておいて、俺は目から怪光線を出すイメージで、布団に向けてオーラを飛ばす。


 すると、布団が……

――動かねえ。


「ちょっと、ゆうちゃん殿。服を着せたのはこういうことでござるか?」


 ん? 何か言ってる猫耳クロに目をやると、


――ワンピースが下から思いっきり捲れてた!

 えええええ! 布団じゃなく、クロのスカート捲りとかどうなってんだ?


「いや、この布団をだな」

「スカートをめくって、布団でござるか! 新鮮で興奮するでござるうう!」

「待て! 違う! 布団を動かそうとしただけだ!」


 迫ってくるクロの頭を手で押して、抵抗しながら俺は今やろうとしたことを説明した。


「前途多難でござるね。練習あるのみです」

「うーん、仕方ないなあ」


 俺が頭をひねっていると、扉がノックされ外から俺を呼ぶ声が聞こえる。


「勇人くん、ご飯よ」


 おお、もうそんな時間かあ。

 

「咲さん、ありがとう」


 俺が扉を開けると、咲さんが俺たちの様子を見て首をかしげる。


「どうしたの? 二人で難しい顔して」

「魔法の練習をしていたんだよ。うっしーのお店で買ったお札を使ってさ」

「勇人くんの魔法! どんなのなんだろう? もう使えるようになったの?」

「あ、いや、まあ、うん、咲さんの魔法を見て真似して呪文とか使ってみたんだけど……」


 歯切れの悪い俺に対し、咲さんは喜色を浮かべ両手を握りしめると、キラキラした目で俺を見つめてきた……

 

「嬉しい! 私の魔法を!」


 さ、最後まで聞いてほしかった。これは……魔法を使ってみるまで引いてくれなさそうだよお。


「ね、やってみて!」


 ほらきたああ! スカートめくりしかできなかったなんて言えない、言えやしないぞ。

 いや、今度はうまくいくかもしれないじゃないか! よおし。


「んじゃ、もう一回。やってみるよ」


 目からビームが出るように、オーラを布団に飛ばす!


「動け布団!」

「ゆ、勇人くん。こういうのは二人きりのときに、ね」


 咲さんのお願いするような声……不思議に思った俺が彼女を見ると……

――服が全部脱げていたああ!


「ご、こめんなさいー! そんなつもりでは」


 俺は下着姿の咲さんに平謝りするのだった。

 魔法って難しい!

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