第15話 イソギンチャクさん
人型じゃないと魔法を使えないってのは不思議な仕様だよなあ。いや、猫だったら呪文を唱えられないとなから分かるんだけど……なぜ、猫だと魔法が使えないのかって理由が全く思いつかないや。
そんなことを考えている間にも、すぐに猫クロから白い煙があがってきたので俺は彼女に背を向け、声をかける。
「クロ、水着を着たら教えてくれ」
「ゆうちゃん殿……吾輩、着方が分からないです。着せて欲しいでござる」
「え……」
予想通りといえば予想通りの展開だ……だがしかし、水着でさえ着ることができないとはどういうことだ。
俺はクロに後ろを向くように頼んでから振り返ると、彼女はちゃんと後ろを向いて立っていた。
よおし、まずはブラからだ……紐のないタイプの白一色のシンプルなブラを手に取りゴクリと喉を鳴らす。何このデジャヴ……。
「クロ、バンザイしてくれ」
「了解でござる」
俺は猫耳少女クロの両手から水着のブラを通すと彼女の胸の辺りまでそれを持ってくる。ええと、この後は寄せてって……できるかああ!
「クロ、胸を寄せてブラジャーの中に突っ込むんだ」
「??」
ダメだ。全く理解がついていっていない。下着を着せた時はできただろうがああ!
ワザとかワザとやっているのか? しかし、イカが次々と襲い掛かってくるこの状況で、時間をかけていられない。
し、仕方ない。俺は彼女の胸に触れようと彼女の背中から前へ手を伸ばす。
「はううう……」
「す、すまん」
真ん中に触れてしまった。あああ、ってよく考えたら胸がぺったんこじゃないにしろ、小さいから寄せる必要なんかないじゃないか。
納得した俺は彼女から手を離す。
次は下だ。パンツを着せなければ。これなら分かると思ったが、着せろというので仕方ない……今むふふんな気持ちになっていたら前回のダンジョンのようになってしまいそうな予感がビンビンするのにい。
クロに体育座りをさせると、俺は後ろから彼女の足先に手を伸ばし、届かねえ。仕方ないので前に回り彼女の足先にパンツを通しようやく水着を着せることに成功した。
し、刺激が強過ぎるぞほんと。
「感謝でござる。これで良いですか?」
クロは顔を赤らめてクルリとその場で一回転する。うん、小麦色の肌に銀髪、そして猫耳に猫の尻尾、白のビキニ。いいんじゃないかな。似合ってるよ。
「うん、いい感じだ」
「やったです」
「じゃあ、魔法を頼む」
「目を瞑ってもらえるでござるか、は、恥ずかしいです」
「あ、うん」
この流れは……あれかやはりペロペロですか?
言われたとおりに目を閉じると、唇に猫耳クロの唇が! なんだとお、チューだったのか! どっちもあまり変わらんが……
いや、冷静さを保たねば、ここはダンジョン、ダンジョンだぞ。
ぬがああ、舌が!
「これで大丈夫でござる」
「そ、そうか、口づけが必要だったんだな……」
「そうです……空気の魔法ゆえ……」
クロは瞳を潤ませながら頬が真っ赤になってしまう。そんな微妙な空気のところへ、一気にそれを打ち破るかのように大きな何かが水面に打ち付けられた音がする。
すさまじい音に思わず振り返る俺の目に、巨大なカニが飛び込んできた。
見た目はカニ。色も赤色で普通にカニだ。ただサイズがとんでもないぞ。全長がおよそ二十メートルほどあり、巨大なハサミには一メートルほどある触手が長いタイプの鮮やかな青色をしたイソギンチャクが乗っかっている。
自然界にもイソギンチャクをハサミにつけたカニは存在するが、小さな水槽で飼育できるほどのサイズなんだ……こいつは規格外ってもんじゃねえぞ。
「よいっしょっとー」
カニのサイズにビックリしていたが、遠くで叫ぶマリーの声が聞こえる。ええと、マリーはどこだ。
彼女はカニの脇から生える足の一つを掴み、巨大なカニを空中に放り投げる!
「ク、クロ―、骸骨くん、こっちに来るぞお」
「大丈夫です。ゆうちゃん殿には届かせません」
クロと骸骨くんたちが走り出し、俺の前に出て両手を掲げる。そこへ、巨大なカニが落ちて来たが彼女らの手から五十センチほど宙に浮いた状態で巨大カニが停止する。
よくやった、カッコいいぞクロ、骸骨くん! 俺は心の中で彼女らを褒めたたえ、ガッツポーズをする。
「あ、ゆうちゃん殿、イソギンチャクが……」
クロは顔だけこちらに向けて俺に注意を促すが、すでに遅い……俺の真上から巨大カニのハサミについていた鮮やかな青色のイソギンチャクが落ちてくる。
あ、これは、そのまま……
俺はイソギンチャクに覆いかぶさられ、視界が真っ青になる。ど、どうしようこれ。しかし、イソギンチャクって独特の生臭い匂いがするはずなんだが、なんだかフローラルで心地いい香りがする。
フローラルな香りのするイソギンチャクの話を確か……高校の同級生だった叶くんがしていたな……彼はオカルト好きで俺にいろんな伝説を聞かせてくれたんだけど、その中にいい香りのするイソギンチャクの話があった。
こんなことならもっと詳しく彼に聞いておけばよかったぜ……もっとも彼は地方の大学に行ってしまったから、高校卒業以来会ってないんだけど。
ええと、いい香りのする鮮やかなブルーのイソギンチャクの話は……確か……あ、ダメだ、意識が遠くなってくる……
◆◆◆
目が覚めると、俺は砂浜に倒れていた。辺りを見回したけど先ほどまでと違って巨大カニやクロの姿はなく、何故かビーチチェアとパラソルがあり、寝そべる水着姿の咲さんの姿が目に入る。
咲さんはうつ伏せにビーチチェアへ寝そべっており、青のブラと白地に青の水玉模様のビキニを着ていた。
「勇人くんー、オイルを塗ってくれないかな?」
俺に声をかける咲さんは、俺の知っている彼女と同じに見える。声も彼女そのものだし、しゃべり方もそうだ。
俺は少しだけ不審を感じながらも彼女に応じることにした。
「え、咲さん、肌を焼くの?」
「ダメかな?」
「駄目じゃないけど、綺麗な白い肌なのに少しもったいないかなあとか」
「勇人くんがそう言うなら、日焼け止めを塗ろうかな。ね、勇人くん、そこにある日焼け止めを塗ってくれないかな?」
咲さんはうつ伏せになったまま、日焼け止めの入ったチューブを指し示す。俺は日焼け止めを手に取り、戸惑いながらも彼女の肩に日焼け止めを塗っていく。
うわあ、ぷにぷにだああ。しかも、彼女の体温が直に感じられて……
「勇人くん、全体にお願い」
「え?」
俺は言われたまま彼女の背中から腰まで日焼け止めを塗っていき、太ももにも手を当てる。いいのか本当にい。太ももを触ると俺の手の形に合わせてムニュっと彼女の肌が形を変える。
足先まで塗り終わると咲さんは仰向けになり、今度は前を……たわわんが気になって仕方がないが、肩から塗っていく。しかしおへその辺りを塗った時に、
「あ……んん……」
咲さんから声があ。
やばいやばいと思いながらも全身に日焼け止めを塗り終わった。
「勇人くん、上がまだ残ってるよ」
「咲さん、上は全部塗ったよ」
「もう、水着の下はまだだよね」
「それって」
「水着の下にもお願いね」
咲さんは上半身を起こして俺に背を向ける。オロオロとしながらも彼女に言われるがまま俺は背中から水着のブラの下に手を通す。
塗ったぞお。塗ってしまったぞ。水着の下。しかし、まだ終わらなかった。
「勇人くん、そのまま前へお願い」
ま、マジですか。いいんですか。前を触っても。咲さんのおっぱいはクロやマリーと違ってDである。つまり、触るとポヨンとなるはず。
俺はゴクリとつばを飲み込み、彼女の胸へ手を差し入れようとした時――
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