第14話 常夏ビーチ!

 下着を買った後に疲労しきってあまり覚えていなかったけど、どうやら水着は購入していたようだ。クロの水着は……あるのかなあ。

 マリーが持ってくることを期待しつつ、俺は食堂へと向かう。

 

「おー、ゆうちゃんー、クロもくるのー?」


 マリーは俺の肩に乗っかるクロを見やり、ばんざーいと両手を広げている。

 

「うん、クロにも手伝ってもらおうとおもってさ」

「わたしとクロの水着はサイズが同じなんだよー」

「ほう……」


 マリーは完全にぺったんこだけど、クロは僅かにあるぞ。同じものを着られるなら、マリーの水着を借りることができるな!


「マリー、水着を二着持ってたりする?」

「うんー、すぐに取ってくるから待っててね!」

「おお」


 これで、クロが魔法を使う事態になったとしても、水着を着せることができるぜ。ははは。

 ん、しかしだな、そんな事態になったら俺がどうにかなってる時だよな……ううむ。とても複雑な気持ちだよ。

 

 そんなわけで、マリー、クロ、骸骨くん二体と共にダンジョンへと出発した。骸骨くんが俺の両脇を固め、マリーがどんどん先へと進んでいく。

 あっという間に巨大鶏を倒したマリーは口元についた血を骸骨くんにぬぐってもらいながら、片手をぶんぶん振って笑顔を見せた。

 

「ゆうちゃんー、エレベーターまで先に行ってるねー」

「エレベーター?」


 俺が聞き返す言葉より早くマリーは奥へと進んで行ってしまう。

 

「ゆうちゃん殿、この奥から階層を移動できるのですぞ」

「なるほど」


 肩に乗っかったクロがマリーの代わりに補足してくれた。

 巨大鶏の部屋を抜けると長い一本道になっていて、オオトカゲが何匹か床に転がっていた。そいつらを踏まないように注意しながら進むと手を振るマリーが見えてきた。

 

 マリーの目の前にはビルの中で見るようなよくあるエレベーターの昇降口があって、下へ行くボタンもちゃんとある。石造りのダンジョンの中だというのに、ビルの中にあるようなエレベーターは場違い感が半端ないぞ。

 しかも、エレベーターの昇降口は色が真っ赤で派手というよりは目に痛い。

 

『うおおおおおお』


 エレベーターの昇降口の奥から低い男の叫び声が近づいて来る。

 

「な、なんだなんだ」


 慌てる俺にマリーがどんなことが起こっているのか教えてくれた。

 

「んー、エレベーターくんが来てるんだよー」

「えらい騒がしいエレベーターだな……」


 そうこうしているうちに声がどんどん近くなってきて、チーンと音がなるとエレベーターの扉が開く。

 中は……血のように真っ赤で周囲の壁は血が滴るように液状になっている。壁からボタンが浮き上がって来てマリーが十九階のボタンを押した。

 するとエレベーターは「うおおおお」と叫び声を上げながら下へと降りて行く。

 

 エレベーターが止まると扉が自動で開き、外へ出る俺達。


 ――なんと外は南国風のビーチサイドだった。 

 え、えええ。なんじゃこらー。サンサンと照りつける太陽に青色が鮮やかな海と砂浜に打ち寄せる波、ちゃんと心地いい波の音も聞こえるぞ。エレベーターを抜けるとそこは常夏のビーチだった。

 

「ゆうちゃんー、ついたよー」

「あ、ああ」


 マリーは砂浜でクルクル二回転すると、その場で自身のキャミソールに手をかけ勢いよく脱ぎ捨てる、続いてブリーツスカートも脱ぎ下着姿になってしまった。

 おおおおい、ビーチで水着になりたい気持ちは分からないでもないけど、モンスターが来るんじゃないのか!?

 

「マ、マリー?」


 俺は戦々恐々としながらマリーに尋ねるが、彼女はいつもの調子でどこかズレた答えを返す。


「ゆうちゃんー、海に来たら水着だよ!」


 だから! 何か来るかもしれないだろお。周囲を警戒してくれええ!

 って……ま、待てえ、ブラジャーに手をかけるな。

 

 俺は慌ててマリーに背を向けると、俺の気持ちを察してくれた骸骨くんがマリーと俺の間にバスタオルを持ち立ってくれた。

 その時、俺の肩に座っていたクロが不意にジャンプしたかと思うと、俺の顔の前で前脚をペシっと払う。

 何かに当たったらしく、クロに叩かれたであろう生物が砂浜に突き刺さりうねうねと動いている。続いて、もう一体の骸骨くんも同じように右手をブンと振った。

 同じように何かが砂浜に突き刺さる……

 

「な、何が?」

「イカですぞ。ゆうちゃん殿の顔を狙っていましたので払ったでござる」


 イカか……よく見てみると確かにイカだ。うん、十本脚の見慣れたイカだな。サイズも俺の知っているイカと同じくらいだぜ……。

 知っているか? イカが生きているうちは透明で死ぬと白くなる。クロにはたかれて砂浜に突き刺さっているイカは透明……つまりまだ生きているぽい。

 イカは頭から突き刺さっているから、うねうねと触手を動かし起き上がろうとしているな……


「ゆうちゃんーイカさんが飛んでくるから気をつけてねー」

「先に言えよ! うああ、マリー、ブラが!」

「んー、下も脱ぐよ」

「骸骨くんー、おお、ナイスバスタオル!」

 

 俺とマリーがやり取りをしている間にも、クロがまた前脚でイカを叩き落す。


「ゆうちゃん殿、イカが!」

「あ、ありがとう。マリーはよくのんびりと着替えとかやってれるな……」

「ゆうちゃんー着替えたよー」


 マリーが終わったと告げると骸骨くんがバスタオルをクルクルと手に巻いた。

 おお、マリーらしいと言えば彼女らしいビキニじゃないか。

 白と薄紫の縞々柄で細い肩紐がついたタイプのブラと、同じ柄のパンツだ。胸が無いのが少し残念だけど。

 うーん、海に浸かるとなれば俺も上着だけでも脱いでおくか。そう思った俺は骸骨くんに頼んで、バスタオルでマリーの視界を遮ってもらう。

 さて、着替えようかと思ったら、エロ猫がハアハア言っていっているじゃねえか……俺はエロ猫を投げ飛ばしたい衝動に駆られるが、ここで奴を離してしまうと俺の安全が脅かされるので、どうにか踏みとどまった。

 だが、俺の読みはどうやら甘かったようだ。

 猫がハアハアし始めると、まったく使い物にならなくなり、飛んでくるイカは全て骸骨くんが打ち払ってくれた。

 「骸骨くん、ありがとう」俺は心の中で、そっと彼らにお礼を言うのだった。

 

 よっし、水着に着替えたことだし海へ入るかあ!

 カニはどこにいるんだ? 海の中かなあ。

 

「マリー、イカが飛んでくるのは分かったけどカニは?」

「カニさんは海の中だよお。行こうー」


 こんな呑気な会話をしている間にも既にイカが五匹ほど弾丸のように飛んできている。三人が手刀や蹴りで落としてくれてるから何も問題はないんだけど、飛んでくる姿が見えないから恐怖感が半端ない。

 

 砂浜を進み波打ち際まで来たら、マリーがそのまま海へと入っていく。俺も真似して海に入り、どんどん進むがマリーは躊躇せずに海の中に全身を沈めていく。俺も潜ってみるが、当たり前だけど息が続かない……

 すぐに息切れして海から顔を出したけど、マリーは戻ってこない。

 

「クロ、マリーは息継ぎしないの?」

「マリー殿は必要ござらん」

「俺は無理なんだけど……」

「そうでした。人間はすぐ息がきれるのでした!」

「んー、待つしかないか」

「そうでもないでござるよ。魔法を使えば息ができるようになるです」

「おお、それは素晴らしい! じゃあ一旦砂浜へ戻ろうか」


 俺はクロを肩に乗せて先ほど着替えを行った砂浜へ戻ってくる。ええと、クロの分の水着はと……真っ白のビキニの上下がマリーのポシェットに入っていたぞ。

 

「骸骨くん、クロが着替えている間、イカを任せて大丈夫かな?」


 俺のお願いに骸骨くんはグッと親指を突き出して引き受けてくれた。

 

「じゃあ、クロ、変化してくれ」

「はいです!」

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