第21話 常夏ビーチ!

 何ということだ。トンネルならぬ気持ち悪い真っ赤なエレベーターを抜けると、そこはビーチだった。


 ヤシの木がまばらに生え、白い砂浜に打ち寄せる波。常夏の楽園がこんなところに!

 太陽は見えないけど、散々と光が照りつけている。


 刹那、鋭い何かがキラリと光ったかと思うと、マリーが前に出る。


「お魚ー」


 マリーの手に収まっていたのは体長五十センチを越えるトビウオ。大きさもさることながら、背ビレが刃物になってる! 当たると即死だなこれは。


 怖ええ! もう早くも帰りたい。

 俺の思いと裏腹に、骸骨くんが何処から持って来たのか不明だけど、パラソルを組み立てているではないか。


 その間にも次から次へとトビウオが飛んでくる。

 俺には水面が光ったことしか確認出来ないが、砂浜にマリーが叩き落としたトビウオがビタンビタンと跳ねとるがな。


 また光った!

 いつの間にか俺の鼻の前に来ていたクロが猫パンチすると、またトビウオが砂浜に落ちる。


「咲殿の目で見るでござるよ。見えるはずですぞ」


 クロが俺の顔に張り付き真面目なことをのたまうが、前が見えん。鼻をクロの毛皮が刺激して、クシャミ出そう。


「マリー、何とかならない?このトビウオ」


「んー、着替え中にビタンビタンされてもやだよねー。よし」


 骸骨くんがマリーを取り囲み、トビウオから守る体制を取ると、彼女の体がぼんやりと赤く光りだす。光が手のひらに収束し、両手を海に向ける。


「いくよー」


「ガツンとやってやれー」


 俺の応援にマリーは笑顔で頷くと、力ある言葉を紡ぐ。


「鮮血世界(ブラッディワールド)」


 世界が赤く染め上げられる!

 何だこれー! 魔法なの?


 二秒程で赤く染まった視界は元に戻り、海面にトビウオの死体が大量に浮いている。


 倒したのはいいけど、あの海に入るの?

 俺が嫌そうな顔をしていたら今度は黒猫のクロが二足で立ち、前足を前に。


「火葬燐光」


 マリーと同じく呪文?を唱えると、トビウオの死体から一斉に蒼い炎があがり、灰も残さず奴らは消滅した!


「綺麗になりましたぞ」


 華やかに俺の方を振り向くクロだったが、お前らのが怖いよ......正直。


「よおし、着替えようー」


 ワンピースを脱いだマリーが、水着が入ったままのしもむらのビニール袋をグルングルン振り回しながら、俺の手を引く。


「脱ぐ前に、水着だせよ!」


 師弟揃って裸になり過ぎだよ。そういいながらも、骸骨くんはマリーからしもむらのビニール袋を受け取り、水着に付いたタグを切っていた。骸骨くん......

 

「どっちにしようかなー」


 聞いちゃいねえなこいつ。


「そういや、クロ。猫でも泳げるのか?」


「問題ござらんよ。魔法で。水着着てほしいんでござるか?」


「泳げるならそのままで良いさ」


 俺とクロが会話してる間も、ずっとマリーはどちらの水着にするか悩んでいたみたいだ。


「ゆうちゃんー」


「どっちでもいいから、早く着ろって!」


「つれないなあ。クロはどっちがいい?」


「吾輩? 黒の毛皮ゆえ、黒がいいでござる」


「じゃー、クロはこっちね。わたしは水玉ー」


 あっさり決まった! 今まで何を悩んでいたんだ。

 ん? クロが黒の水着だと? 猫に水着はいらん!


「マリー、猫は水着を着けれないぞ」


「えー、ゆうちゃん知らないのー? クロはね変身できるんだよー」


 存じておりますとも! おりますが、クロは人型になると迫って来ますゆえ。

 ご遠慮したく。というのは冗談だ。人型だと俺の肩に乗れんだろ! 俺を護る人材は必要だぞ。俺弱いからな。


「吾輩、変身してもよいでござるか?」


 俺をじーっと見つめてくるクロ。


「いいよー、やっちゃえー」


 俺じゃなくてマリーがクロに変身許可を出してしまった! どうなる俺?


 クロの体から煙があがり、長い黒髪に前髪がパッツンの猫耳少女が現れる。


 もちろん、すっぽんぽんだ。

 マリー共々生えてない。何処がとか突っ込まないでくれ。


「しかし、吾輩、水着の着方がわからぬゆえ。ゆうちゃん殿着せて欲しいでござる」


 上目遣いで俺を見てくるが、マリーがいるだろ!


「マリー!頼む」


「えー、わたしこれから着替えるのー」


「パンツくらい履けるだろ!」


「着せて欲しいでござる......ダメでござるか?」


 涙目になるな!

 今回だけだからな。俺は無言で黒の水着を手に取ると、クロの足へパンツを通す。わざとらしくよろけて俺にもたれかかってくるクロ。

 だああ、だから暖かくて柔らかいのはダメだって! しかし、胸は無い。


「尻尾が入らないですゆえ、どうすれば?」


「そこだけ、破いておけばいい」


 俺の言葉に反応した骸骨くんがハサミを持って来てくれた。気がきくねって、そうじゃない。俺がやんの?

 仕方なく、俺はクロの水着に穴を開けるが、クロの鼻息が荒い......


「尻尾触ったら。ゆうちゃん殿の息がー」


 顔を真っ赤にするクロ。

 マリーや咲さんと違ってこの猫は分かって俺をからかってるから、タチが悪い。ブラは寄せるものも無いが、クロを見ないように後ろに回り込んで装着した。


「俺も着替えるから、後ろ向いてて」


「えーなんでー?」

「吾輩、お手伝いするでござる」


 無言で二人の頭を鷲掴みにして、反対側を向かせてから、骸骨くんに二人の間に移動してもらって、ズボンを脱ぐ。


「衣ずれの音がするでござる。三人でスル?」


 クロが何か言ってるが、骸骨くんの壁でガードだ。

 着替えで激しく精神力を消費したが、まだ問題がある。


「クロ、その姿で俺を護れるの?」


「問題無いでござる。こうすれば」


 ふわりと飛び上がったクロは、俺の肩に足を通す。この体勢は......肩車だ!


「重さが全く無いけど、これは」


 クロの太ももの感触がダイレクトに。いかんいかんぞ、これは。さらに、クロは太ももを俺のほっぺにムニムニ押し付けてくる。


「こらー!」


「冗談でごさるよ」


 和気藹々としたのは此処までだった。



――海水面が大きくさざなみを打つ。


「なんか来た!なんか来たよ!」


 水面の揺れがあまりに大きかったので、俺は骸骨くんにすがりつく。


「カニさんがやってきたー」


 嬉しそうにはしゃぐマリーだが、これシャレにならん大きさだぞ。


 出てきたのは体長二十メートルをゆうに超える巨大な毛ガニだった。

 巨大な爪の先には、巨大なヌメヌメした触手の長いイソギンチャクが付いている。


「マ、マリー。クロ。これヤバいって!」


「大丈夫ー。ゆうちゃんも行こー」


 クロの足が俺のわきの下に回ったかと思うと、俺の体が宙に浮く!


 俺の絶叫を無視して、グングン波打ち際が近くなって来るぅ!


「クロー!俺は呼吸出来ないー!」


 急ブレーキがかかり、砂浜に降ろされる俺。

 クロが俺の肩から降りてきて、両手て肩を掴んだかと思うと、つま先立ちして、


――チューされた。


「これで大丈夫ですぞ」


 クロはふわりと飛び上がり、俺の肩に乗っかると、また俺の体が浮く!


 何? 今のキスなに? あれで大丈夫なの?

 説明を求める!


 うわああ、水面が! 俺に何も言わず海中へ突っ込むクロ。


 こうして俺は海の中に沈んだ。


※着替えで一話とかおかしい。

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