第18話 マリー
――マリー
ゆうちゃんが温泉宿に来て以来、私はゆうちゃんに首ったけなんだ。パパに聞いた話なんだけど、吸血鬼が同族以外を好きになるときは全て一目惚れなんだって。
私は一目惚れって何のことか分からなかったけど、ママが生きている頃に見たパパとママの関係が一目惚れなのかなあ。
パパは愛だ。とか言ってたけど。まだわたしにはよくわからないや。
でも、ゆうちゃんを一目見た時わたしは体にビビビって電気が走ったような気分になったんだ。これが一目惚れ? なんだろうか?
わたしは吸血鬼の中では淡泊と言われるくらい、人間の血を吸いたい! って衝動が低いほうだ。人間に触れるだけなら、目が赤くなるくらいで留まってるのがその証拠なんだよ。
人によっては、人間が目に入るだけでも、目が光っちゃう人もいるくらいだし。でも、そんな人はすぐにダンジョンから地上へ出てこれなくなる。
ダンジョンから外に出るには、人間に「好意」を持ってないと出れないんだ。見るだけで光っちゃうくらいになると、人間に「好意」じゃなくて「おいしい血が吸える食料」となってしまうみたいで、外に出てこれなくなるんだよ。
あ、そうそう。ゆうちゃん!
わたしは、ゆうちゃんが温泉宿に初めて泊まりに来た時なんだけど、ビビビって来たのね。それで、ゆうちゃんを見てると初めてものすごく血が吸いたい衝動に襲われちゃったの。
我慢できずに、ゆうちゃんの布団に潜り込んじゃって血を吸っていいか聞いちゃった。
ゆうちゃんは魔族になんてこれまで会ったことがなかったから、目が光るわたしに驚いちゃって倒れちゃった......ごめんね。ゆうちゃん。
でも、わたし、血を吸っている時以外で目が光ったのゆうちゃんがはじめてなんだよ。
何度かゆうちゃんに血を吸わせてもらったけど、天にも昇る気持ちってこういうことなんだって初めて知ったんだ。ゆうちゃんじゃない人の血も吸ったことがあったけど、ゆうちゃんは別格だったの。
何て言うんだろう。ゆうちゃんの血を吸うと、体が熱くなって、最高に気持ちがよくなって体が震えてしまうんだ。でもゆうちゃんはなかなか血を吸わせてくれないの。
無理やり吸うこともできるんだけど、パパが同意なしで血を吸うのはダメって言うから我慢してるんだよ。
わたしと同じで咲さんもゆうちゃんのことが気に入ってるみたいで、何度かゆうちゃんと一緒に部屋にいるのを目撃しちゃった。わたしがそばにいる時、顔が赤くならないのに咲さんといる時は顔が赤くなってることが多いんだよね。
人間の顔が赤くなるときってどんな時なんだろ。よくわかんないや。
パパに相談してみると、人間の顔が赤くなる時って恥ずかしい時とか興奮した時なんだって。私が興奮する時って血が吸いたいって思うときだけど。人間は違うらしい。
パパが人間の男の子は女の子の裸に興奮するっていうから、お風呂に行ったり、ゆうちゃんの布団に裸で忍び込んだりしたけど、あんまり変化なかったなあ。咲さんがいいのかな。ゆうちゃんは。
もし咲さんだけを見たゆうちゃんが、わたしに血を吸わせてくれなくなったらどうしよう。駄目だ。ゆうちゃんに血を吸わせてもらえないなんて、わたし耐えられない。
咲さんは大事な大事な自分の目を、ダンジョンに行ったゆうちゃんの安全の為ってだけで彼に目を与えていたの。
わたしにはそんなことできない。わたしがゆうちゃんに与えることができるものって、何にもないんだ。
悔しかった。わたし、相手にされなくなっちゃうのかなあ。
ゆうちゃんがわたしのことを好きでいてくれたら、血を吸わせてくれるのかな?
ゆうちゃんの好きな女の子ってどんなんだろう? ちょうどコンビニに行った時、女の子の雑誌がいっぱいあったからゆうちゃんに見せてみると、彼のお気に入りが分かったんだ。
おっぱいの大きい娘もいたけど、わたしのようにおっぱいの小さい娘もいた。人間の学校にある制服をゆうちゃんは好きみたい。じゃあ、制服着て、この本のようにパンツだけ脱いでゆうちゃんに迫れば気に入ってくれるのかな?
そう思ったけど、ゆうちゃんは「パンツはけ」っていうの。失敗したのかなあ。咲さんみたいにおっぱいが大きくないとダメなのかな。それとも、この写真の女の子みたいに毛が生えてないとダメ?
結局、ゆうちゃんに雑誌を取り上げられてしまった。研究しようと思ってたのに残念だー。
次の日の晩、こっそりゆうちゃんの部屋を覗いていたら、見てる見てる雑誌を。
やっぱりこの雑誌に出てる女の子たちが好きなんだとわたしは確信したんだ!
じーっと雑誌を眺めるゆうちゃん。そんなゆうちゃんをじーっと眺めるわたし。
十分ほど経つころ、ゆうちゃんが何か持ってきた。手にはティッシュの箱を持っている。なにかなーと思って乗り出したのがいけなかった!
ゆうちゃんは咲さんの目を貰って以来、感覚が以前より鋭くなっているの。だから、覗いていたの見つかっちゃった。
「マリー! いたのか!」
ものすごく焦った感じでゆうちゃん。
「うんー」
「うわあ。うわあ」
「ゆうちゃん、やっぱりその雑誌好きなんだね」
「あ、ああ。うあああ」
「ゆうちゃん、どうしたの、そんなに焦って」
「あ、ああ。落ち着いてきた。何でもない。何でもないんだ。マリー。一人にさせてくれないか」
「ん。風邪でも引いたのかな? そのティッシュ。わたしだとあっためれないなー。わたしが人間だったらなあ」
風邪を引いて熱が出たゆうちゃんをわたしが人間だったらあたためてあげれるのに。残念だ。わたしが引っ付いたらゆうちゃんがますます冷えちゃう。
それで風邪がひどくなったら大変だ。
「いや、風邪を引いたわけじゃないから安心してくれ」
「ティッシュで鼻をかむんだと思ってたよー。人間って風邪ひくし、鼻水でるんだよね?」
「ああ、風邪を引いたらそうなるかな」
「じゃあじゃあ。ゆうちゃん、風邪じゃないのに、それどうするの?」
「あああ、もうほっておいてくれ!」
ゆうちゃんがティッシュの箱を持ったまま布団にもぐってしまった。仕方ないからわたしは部屋を出ることにしたんだ。
その後自室でゴロゴロしていたら、ゆうちゃんの声が聞こえる。
「マリー! そこにコウモリがいるのは分かっているんだ!」
あ、バレた。コウモリさんを一匹、ゆうちゃんの部屋に残して来たんだ。コウモリさんがいれば、わたしは話を聞くことができるし、コウモリさんのところへ移動することもできる。
仕方なく、わたしはコウモリさんを引き戻すことにしたんだ。
その後ゆうちゃんがどうなったのかは分からない。明日聞いてみよっと。
――翌朝
「ねえねえ。ゆうちゃん、昨日は何してたのー?」
「ん、そのまま寝ただけだよ?」
ものすごーく挙動不審なゆうちゃん。何か隠してそうだなー。
「えー、ほんとかなあ。誰にも言わないから教えてよー」
「ええい、うるさい! 大人の事情ってもんがあるんだよ!」
むー。どうしても言わない気だなー。じゃあ、咲さんに相談するから!
「いいもんだ。咲さんに聞いて来るから!」
「ま、待て! ほんとに何もないんだって!」
うーん、やっぱり咲さんに相談しようっと。
※やめてあげてー。ゆうちゃんの精神力は既にゼロよ。
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