第12話 人型モンスター
現れたモンスターはロボット? のようだった。白銀に輝く金属でできた立方体を積み上げて作ったような人型モンスターと言えばいいのか。ロボットにしては雑過ぎてモンスターにしては生き物らしさがない。
一番近いのは古いコンピューターゲームで出てきたような、ドットを組み合わせて作成した出来の悪い人間といったところだろうか。
一見すると強そうに見えないが、咲さんとマリーの緊張感がビリビリと俺に伝わってくる。
「行ってくるわ」
咲さんの両腕が自ら外れ、音を置き去りにするほどのスピードで人型モンスターへ迫る。咲さんの目の効果か、俺には咲さんの動きがはっきりと見えたのだ。
咲さんは高速で動きながらも両腕を上手く使って、人型に糸のようなものを巻き付けていく。対する人型は、頭の部分が光ったかと思うと光と共に衝撃が刃となり全方位を襲う。
せっかく咲さんが張り巡らせた糸が全てちぎれてしまうが、俺はそれどころじゃない!
刃がこっちまで迫ってくるじゃないか! うああああ!
「大丈夫。任せてー」
マリーが俺の前へ。両手の手のひらを前方に突き出すと、彼女の手のひらから赤く不気味な光が溢れ始める。
が、赤い光に到達する前に、刃は一瞬浮かんだ黒い膜のようなものにはじかれるのだった。
「ええー」
マリーから驚きの声が漏れる。
「何が起こったんだ?」
「あー。今のゆうちゃんがやったんだよー」
ええええ。俺何かしたっけ? あの黒い膜を出したのが俺?
「俺が? 何を?」
「咲さんの目だよー。ゆうちゃんの危険を察知して守ってくれたんだよー。んー。加勢しちゃおっかなー。咲さんに」
「咲さんの目。すげえな。俺人間やめちまったのか......」
「目以外は人間だよー。大丈夫大丈夫」
「危ないときの保険だと思えばいいか」
「うんうんー」
マリーに納得させられてしまった気がするが、これは異常なことだぞ。今の刃がどれほどの威力か知らないが、ここは五十四階だよな。
咲さんやマリーが本気で戦おうって思う階層だ。えっと、確か。
「銃弾って、二階くらいまでだっけ」
「うんー。ミサイルでもせいぜい五階じゃないかなー」
「......今の刃の威力ってどんなもんなの?」
「んー。時速百五十キロで走る電車にぶつかったー」
「まじかよ!」
「より強い衝撃かなー」
「......」
つまり、この黒い膜があれば俺が事故でお亡くなりになることはまずないだろう。新幹線に飛び込んでも平気なんじゃないだろうか。
こんなもの人間の手に余る。どうすりゃいいんだこれ。
そこでふと気が付いた。こんな強大過ぎる目を渡してしまって咲さんは平気なのか?
「ちょっと、そんな目を失って咲さん平気なのか?」
「んー。咲さんにとっては満タンのペットボトルから一滴中身を抜いたくらいの戦力ダウンかなー」
「微妙過ぎる例えだけど、要はほとんど変わりなし?」
「うんー。咲さんつよいんだー」
「俺にはもう想像がつかないよ。この目だけでも俺が事故で死ぬことなくなるくらいなんだけど」
「あはは。でもその目、あー。まあいいか」
「途中で止めないでくれる! 怖いんだけど」
「あー、守るだけじゃないってことだよー。ゆうちゃんが使うこと無いと思うからー」
「ふむ。まあ、いいか」
「そう、まあいいんだよー」
自己防衛以外は特に必要ないけど、暴発しないようにどうするかだけ咲さんに聞いておいたほうがいいか。
呑気に話込んでいる場合じゃない。咲さんが戦っているのをすっかり忘れていたぞ。
見ると咲さんと人型モンスターの戦いは既に終わっていたようだ。
最初見た糸のようなもので両断したんだろう。バラバラになった人型を見下ろす咲さん。
彼女は空中に浮いた腕を人型のパーツ? に突き刺し何かを引き抜いた。
「ちょっと。勇人くん、マリー。何してたのかしら?」
戻ってきた咲さんの目がとても怖い。呑気にしゃべっていたのがバレバレだったようだ。
あれほどの戦闘をしていて、って最初しか見てないけど......こちらが何してたかまで確認していたのか。
「あー。いや。咲さんの目の話を」
「え。私のことを!」
途端に態度が豹変する咲さん。自分のことだと勘違いしてるんだけど言わないほうがいいだろう。目の話してただけなんだけどね。
ご機嫌になってくれたのはいんだけど、激しい動きをしたからやはり首が取れてる......
しかも、いつの間にか頭だけが俺の肩に乗っかっているではないか。
思わず叫びだしそうな自分の口を必死で抑え、咲さんの頭を掴み元の位置に。
すると、腕もゆらゆらと俺の前を飛んでいるではないか。つけてってことだろうねー。あー。
腕も咲さんにくっつけた直後、咲さんに抱き着かれた。
「怖かったー」
咲さんは言うが、ちっとも怖そうじゃない。むしろ、俺が悲鳴をあげそうになったんだよ! 主に咲さんの頭が肩に乗っていたことで。
「目的のブツは取れたのか?」
「ええ。一回で取れたからほんと運がいいわよ」
「そ、それはよかった。戻れるのかな」
「ええ。戻りましょ」
はあ。とりあえず無事に帰れそうだ。よかったよかった。
◇◇◇◇◇
宿に戻るとまだ昼過ぎだったが、あっという間に町内会ご一行さんがやって来る時間になり、会長さんをはじめ皆さんに挨拶を行い、檜風呂に入ってもらうことになった。
露天風呂の景色を楽しんでくれたようで、大いにご満足いただけたようだ。
咲さんは目の修復に今日は引っ込んでいたので、俺はマリーが暴走しないように監視するだけで事足りた。
それが幸いして皆さんを驚かせることなく、帰っていただくことができた。
これがきっかけで、お客さんが増えていくといいな。いずれは宿泊客も。
特にダンジョンで精神力を使ったので今日はもうヘトヘトだ。シャワーで汗だけ流して寝てしまおうか。
咲さんの目が気がかりだけど、一応様子を見ておこうかな。
汗を流してから咲さんの部屋まで来ると、触ってもいないのに扉が開く。
「勇人くんー」
いきなり抱き着かれたが意味が分からんぞ。咲さんは普段マリーのように、ここまであからさまな態度はとらない。
マリーとやり合っている時は別だけど。
「咲さん、目は?」
「この通り! 元通り」
咲さんの右目は確かに言われた通り、元に戻っている。
「で、咲さんどうしたんです? 一体?」
「んー。まあ入ってよー」
口調がマリーみたいになってるけど本当に大丈夫か?
部屋に入ると、ビールの空き缶が散乱している。あ、飲みやがったな! 町内会の皆さんの為に用意したビール! 買い過ぎて余ったやつだよ。
「勇人くんー。ギュッとしてー」
あかん、酔っぱらってらっしゃる。この人。酔っ払いの相手ほど面倒なものはない。まして咲さんは規格外に力が強いんだ。下手したら死ぬぞこれ。
ここは言う通りに抱きしめると、満足したように咲さんも俺の背中に手を回してきた。
「勇人くんー」
頬を胸にすりつけてくる咲さん。これはおいしい展開になるのだろうか。いや、咲さんと俺に限ってそんな展開にはきっとならない。
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