格安温泉宿を立て直そうとしたらハーレム状態になったんだけど全員人外なんだ
うみ
旧版
第1話 俺が働くことになった経緯
ああ。いい湯だ……
俺こと
俺の務める温泉宿は、自慢じゃないが施設は抜群、露天風呂も高級ヒノキ造り、客室も広いし料理もバイキング形式ながらもなかなか凝ったものを出す。
立地はどうだろうか? 飛騨高山ダンジョンが近くにある観光スポットとしても申し分ないし、温泉街としても有名な地域。
何も問題ない。極め付けは周囲の宿の半額以下のお値段! これで客が来ないわけがない!
実際にはとある理由によりお客さんは来ないんだけどね……
一日の疲れを癒す為にゆっくりと温泉に浸かっていると、脱衣所の扉が開き中に誰かが入って来る。
今日も宿泊客はいないはずだが……はて?
「勇人くん。背中を流しにきたよ」
突然入って来たのは温泉宿の従業員である咲さんだった。咲さんはたれ目が印象的なおっとりした雰囲気を与える癒し系の美人で、短く切りそろえた茶色の髪に少し大きめの胸、スラリとした太ももを持つ。
彼女はいつも着用している茜色の浴衣の袖をまくり、湯船の前で両膝を揃えて俺を覗き込むようにタオルを見せる。
彼女は俺を覗き込むために、少し前かがみになると……浴衣から胸の谷間が俺の目に飛び込んでくる! さ、咲さん! 下着つけてないんですか?
「い、いえ。もう洗いましたので……」
俺はなるべく胸の谷間を見ないように咲さんに答えるが、彼女が少し残念そうな顔で首を傾げるとおっぱいの谷間が揺れる……み、見ないようにしているのに目が行ってしまうじゃないか!
「そうだったんだ。もう少し早く来ればよかったね」
「お、お構いなく」
俺が必死で咲さんの胸から目を逸らそうとしているのに彼女が気が付くはずもなく、少しボーっとした感じで彼女はそのままの姿勢で俺を見ている。
このまま見られていると……風呂から出れないんだけど……
――その時、脱衣所の扉が再度開く音がする!
入って来たのはタオルで体を隠そうともしない全裸の少女だった! 長い金髪が少しだけ胸のいけない部分を隠してはいるが、それが却って
しかし、少女らしく未発達な胸と下にも毛が生えていない事で、俺の欲望はほとんど反応せずに済んでいる。彼女は大きな瞳に小さな口から牙が二本出ていて、瞳の色は黒色をしている。
明らかに人間ではない特徴を持つこの少女はマリー。
「マリー! 俺はまだ入ってるから後にしてくれないか……」
「えー。一緒に入ろうよ。ゆうちゃん!」
マリーは俺の言葉を全く聞かずに、そのまま湯船に勢いよく飛び込んで来た!
「勇人くん、一緒に入りたいの?」
勘違いした咲さんが俺に聞いてくる! いや、俺は一言も一緒に入るって言ってない! 逆だよ。「後にしてくれ」って言ったんだって。
そうそう、俺が働くことになった経緯は七日前に遡る。俺はここに宿泊に来ただけだったんだ……
――七日前
飛騨山脈には有名な飛騨高山ダンジョンがあるが、そんなもの一般人には身近なお話しではない。俺のような一般人にとって、飛騨高山とは温泉街だ。
仕事で疲れた体を休めに、俺はある温泉宿に訪れていた。ご存知のとおり温泉宿といっても値段はピンキリで、今回選んだ宿は一泊食事付き五千円と超格安宿になる。
しかし意外や意外この宿、内装も外観もサービスも倍くらい値段がする宿より断然優れている。俺の知る限りだけど、サービスレベルは高級ホテルに一枚落ちる程度。
昼間から宿に入った俺は、食事前にひと風呂浴びているところだ。質のいい檜で作られた露天風呂になっているこの宿の風呂は、見晴らしもよく他の客もいないため、俺が独占で使えている。まさに至福のひとときだ。
「こんにちは。お湯加減はいかがですか?」
風呂と脱衣所の仕切りの向こうから、女性の声が聞こえる。きっと脱衣所から、俺に声をかけているのだろう。
「最高です!」
俺は彼女に聞こえるように大きな声で答えると……
「よろしければお背中流しましょうか?」
え? なにそのサービス。でも折角だし……鼻の下を伸ばしつつ俺は「ぜひ」と答えると、仕切りがガラリと開き、若い女性がお辞儀をし風呂へ入ってきたのだ。
女性は茶色い髪を短く切り揃え、たれ目がチャームポイントのおっとりした雰囲気を持つ美人だった。年のころは二十代前半ってところかな。茜色の浴衣を着用し、少し大きめの胸が彼女が歩くと揺れていてドキっとしてしまう。
俺は言われるがままに背中を流され、本当にこの宿に来てよかったと満足していた。
――コロン……何かが床に落ちた音がする。
気になった俺は後ろで背中をゴシゴシしてくれているたれ目の美人に、「大丈夫ですか?」と問いかけると、一拍置いた後に彼女は「すいません。石鹸が落ちちゃったようです」と答える。
意外におっちょこちょいなんだなあと、逆に好感を覚える俺。
風呂から上がった俺は一旦部屋に戻ろうと、部屋まで移動する。部屋には誰かが居る気配がして、何か作業を行っているようだ。
この部屋は和室になっているから、きっと布団を敷きにスタッフが来ているのだろう。
俺はご苦労様と一言声をかけたくて、部屋の扉を開けると……
一瞬何か白いものが目に入る。
気のせいか?
気になった俺は目を凝らし部屋を見つめるが、さっきまであった人の気配が全くない。
何だったんだろう、さっきの白いものは……不思議に思いつつも食事の時間だったので、食堂まで足を運ぶことにする。
食堂では先ほどの女性と金髪で黒い目をした小柄な少女が、パタパタと忙しそうに食事の準備を行っていた。この少女も可愛らしい。大きな瞳に小さな口、長い金髪も相まって形のいい人形のように見える。
お人形さんみたいな少女って言葉がしっくりと来るよな。
美人と美少女がいるし、施設も抜群……これだけいい宿なのに、俺は宿泊客に未だ会っていない。不思議なこともあるもんだ。
今思えばこれだけの宿なうえに、格安という条件で宿泊客に会わなかったことを不審に思うべきだったのだ。
この時の俺は不審など露ほどにも思っていなかった。
人形のような愛らしい金髪の少女が俺を席まで案内してくれて、食事を満喫する。
食事は山のものが中心の家庭的な料理ではあったが量は十分だ。しかも黒髪をオールバックにした体格のいいシェフが、目の前でステーキを焼いてくれるパフォーマンスまであった。
部屋に戻りゆっくりとした時間を過ごし、布団に入ると俺は一日のことを思い出していた。この宿は値段の割に本当にサービスがいい。浴衣姿の美人が背中を流しに来た時は驚いた……
――その日の深夜
……冷たい……何故か冷たい……
俺は寝返りをうつと、何かに触れた。
柔らかい何かだ。
不思議に思い、振り向くと、
金髪の少女と目が合った!
ここ俺のフトン。君のフトンじゃない。いやそんな事じゃない! 何が起こった!
「少しだけ……いいですか?」
潤んだ「赤い瞳」で見つめ、俺に抱きついて来る金髪の少女。
彼女の柔らかさは感じるが……冷たい! な、何が起こっているんだ!?
俺はかなり混乱しつつもう一度少女に目をやると、彼女の赤い瞳がギラリと光る。
「ギャーーー!」
俺が悲鳴をあげると、聞きつけた従業員らしき足音が近づいて来る。かなり大きな音を立てているので、恐らく走っているのだろう。
早く来て! スタッフー!
恐る恐る少女を見ると、「赤い」目は光っていない。気のせいだったのかもしれないけど、この娘の目は黒色だったような……
その時部屋の照明が点灯し、茜色の浴衣の美人が飛び込んで来る。
「どうされました? お客様?」
息を切らせながらも、心配そうに茜色の浴衣の美人は俺に様子を聞いてくる。
「えっとですね」
俺は未だペタンと座っている金髪の少女に目をやりつつ、説明を行おうとする。
――コロン……何かが落ちた音がする。
俺はハッとなって浴衣の美人を見ると、首から上が無い!
頭が床にコロンと落ちていた! 奇妙なこの音は首が床に落ちるおとだったのだ!
「ギャーーー!」
俺は再度悲鳴をあげる。
「あ、すいません」
浴衣の美人は自分の頭を手で掴み、元の位置に戻している。
その後、体格のいいオールバックのシェフがやって来て平謝りしてくれ、少し落ち着いてきた俺は事情を聞くことにした。
どうもここは吸血鬼のシェフと少女の親子と、首が外れる浴衣姿の美人とあと二人で運営する宿らしい。
不死者と呼ばれる種族の彼らは人間社会がいたく気に入り、人に紛れて暮らしたいと人里に出て、人間と触れ合うために宿の経営をしてるとのこと。
人間の経営する宿にサービスは負けてないはずだが、客が入らないことを悩んでいるとオールバックのシェフは教えてくれた。
確かにサービスはよい。よいのだがどこかズレている。「お背中流します」はまだ許すとして、布団に潜り込むのはダメだろう! しかも目が光ってたし。
少し怖いながらもおかしいところをシェフに説明すると、シェフは俺に経営を手伝ってくれと懇願してくる。
俺はすぐに断ろうとしたものの、
「残り二人の従業員を紹介しますね」
浴衣姿の美人は、そう言うと襖を開ける。
出てきたのは、白骨の人型骸骨!
それを見た俺の意識は遠のいていく……
――現在
というわけで、俺は吸血鬼のダンディな親父が経営する温泉宿を手伝うことになったのだ。
ちなみにあの時、吸血鬼の少女が言った言葉は実のところこんな意味になる。
「少しだけ……(血を吸って)……いいですか?」
唯一の人間たる俺が指導を行い、宿を繁盛させる。そう意気込んだものの先は遠そうだ……
あの時俺の背中を流しにきてくれた美人が咲さん、布団に潜り込んだ少女がマリーというわけなんだけど、考え事をして気を紛らわせようとしていたらのぼせてきたぞ!
俺は檜風呂にゆっくりと浸かって体の疲れを癒していたはずだった。しかし、咲さんが湯船の傍でしゃがんだままで、目を向けると彼女の谷間が気になって仕方ないし、マリーは裸で湯船に浸かり、今にも抱き着いて来そうな雰囲気を醸し出しながらニコニコしている!
これ以上浸かっていると倒れてしまう! 俺は仕方なく、急いで湯船の淵に置いてあったハンドタオルを手に取ると勢いよく立ち上がり、前を隠しながら脱衣場に向かうのだった。
※改稿版を投稿しております。よろしければ改稿版からお読みください!
https://kakuyomu.jp/works/1177354054882251471/episodes/1177354054884765009
※7/26 改稿
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