第238話 実に平和な我が領土
俺が運営している《ウェンブリー》の街は、今日も絶好調である。
このウェンブリーは王都を除いて国内最大の都市と言われていて、そして音楽に触れたいなら必ず我が領土を訪れなくてはならない、みたいに言われる位まで成長した。
人口六十万人と人口すら王都の次に多いレベルにまでなっていて、観光客も年々増えている。
では何故ここまで成長したかを、この俺、ハル・ウィードが語ろうではないか!!
ウェンブリーは、前世のウェンブリーアリーナから名前を拝借した。
その名に恥じぬように音楽に特化した街づくりを意識したんだ。
他の領地には絶対にない、三万人は入場できる特大野外ステージに五万人収容出来るドームステージ。
この二つを作った事によって、俺達のバンド以外でも使えるようにしたんだ。
すると俺の懐にも使用料が入ってくるし、俺の街で展開している商店がこれでもかと言わんばかりの商売根性を発揮し、ライブを観に来た客に商品を売っていく。
さらにありがたい事に、俺達のバンド《
《
でも税収も年々増加傾向にあるので、その内両者の収益は恐らく横並びになるのではと予想している。俺の老後の為にも、このまま税収の方も頑張っていきたいもんだ!
他にも大・中・小のライブハウスも順調だ。
この世界ではまだまだ駆け出しの音楽家がたくさんいる。
俺達に憧れてバンドを作った奴等だっている。
しかしまだ大きなステージで演奏出来る程の知名度や人気がないバンドが結構多い。
そこでライブハウスが主催しているイベントに参加をして、知名度を上げていくバンドが非常に増えたんだ。
当然ながら新しいバンドを発見したい一般客、良い商品になるかもしれない人材を探しに来る他社レーベルがライブハウスを回ってくれるので、非常に賑わっている。
おかげで各ライブハウスからの税金は結構たんまり貰えているので嬉しい限りだ。
さらに、《
これは我が家の専属商人であるカロルさんが取締役、そして俺が会長という立ち位置で立ち上げた音楽レーベル《ウィード・ミュージック・エンターテイメント(日本語訳)》が独占で販売していて、この収益はかなりのものになっていた。
レーベルの収益は俺のポケットマネーになっているので、俺個人の金庫はそりゃもうパンパンに膨れ上がっている。
あまりにも俺個人で持つ金としては溢れすぎているので、ウェンブリーにある恵まれない子供たちを養っている教会に結構寄付をしている。
さらにさらに、うちのレーベルが運営している音楽専門学校の売上も馬鹿にならない。
この学校は、王都にある音楽学校とはちょっと違っていて、あくまで趣味として音楽に触れてみたいという軽い気持ちの一般人が通う、非常に授業料もリーズナブルな学校だ。
単位とかもそういったものもない、授業を受けたくなったら事前に予約をして足を運んでもらう。それ位気軽な学校なんだ。
おかげで毎年定員オーバーで、未だに枠が空くのを待っている人がいる程だ。
……そろそろこの専門学校の二号棟を運営しようかと、今カロルさんと本気で議論している最中だったりする。
そしてうちの街を語る上で、もう一つ忘れちゃいけないものがある。
それは、国内最大の色町も抱えている事だ。
多種多様な娼館に、前世の記憶を利用してキャバクラやホストクラブも用意した。
そしたらあれよあれよと事業成長していき、いつの間にか国内最大になってしまった。
まぁここまで成長したのは、この色町を管理してくれているとあるギャングが頑張っているからなんだけどね。こいつらがウェンブリーの裏社会を牛耳ってくれているおかげで、俺が抱えている私兵では届かないような所を管理してくれている。
その為、犯罪率も他の領地に比べたら格段と低く、安全な都市としても有名になったんだよね。
とまぁ、俺の貴族生活は超絶順調な訳なんだけど、当然ながら順調すぎると他の貴族からのやっかみが出てくるんだ。
たまに武力を以て脅してきたので、こっちも力を以て叩き潰したんだよ。
でもね、いかんせん金が掛かるし時間の無駄でもある。
そこで俺が考えたのは、他貴族との連携だ。
連携を密にする事で、俺らの事業の手伝いをしてもらう。すると相手側にも利益が出てくる。
酷い言い方をすると、公爵という立場を使って他貴族を下請け会社みたいな感じにしたんだよね。
だが利益もしっかり出てくるし、俺との縁も結べるから喜んで仕事を引き受けてくれる。すると俺に対するヘイトはぐんぐん下がっていく、というかむしろ好感度はうなぎ登り。いつの間にか俺に対して文句を言ったり喧嘩を売ってくる奴はいなくなった。
他の公爵達とも仲良くしていて、仕事を頼んだり頼まれたり、頻繁にお茶会をして政治抜きで普通の友達付き合いを家族ぐるみでやっている。
しかし、喧嘩がなくなるとさらなる不満が出てくる輩がいる。
それは俺が雇っている私兵だ。
彼らの仕事は街を守る事だが、何気に血の気が多い連中も沢山いる。
大規模な戦闘がないと、当然不満が爆発寸前にまでなってしまうのだ。
メンドクセェと思いながらも、前世の知識を使って妙案を立てた。
それは《ラグビー》を取り入れる事だった。
知っての通り、ラグビーは激しいタックルが行われる、危険なスポーツだ。
しかし、血の気が多い俺の私兵には十分だったんだ。
ルールを教えてやらせてみると意外と私兵たちに好評で、仕事が終わった後に仲間内で練習をする程だった。
気が付いたらチームが四つも出来上がったので、だったら試合を観客に見せてみるかと思い立った。
俺のポケットマネーでラグビー場を建設し、早速観戦料ありで一般公開した。
これも好評で、意外な収益が発生した。
ならばこの収益を懐に収めるのは勿体ないので、総当たり戦で優勝したチームに特別ボーナスを出す事にした。
……これを言った瞬間、非常に強い闘気があふれたのを、未だに忘れられない。
いや、君達の本分はこの街を守る事だからね?
「おらぁ、そんなタックルじゃ優勝できねぇぞぉぉ!!」
「おおおおおおおっ!!」
俺の仕事部屋の窓から覗くと、目の前にある修練場で血の気の多い私兵たちが、むさくるしい雄叫びを上げながらタックルの練習をしている様子が見れた。
うん、ハマりすぎじゃね?
こんな感じで、俺の領地はかなり平和だ。
周囲は戦乱の予感でビビっているが、まだビビるフェーズじゃない。
でも何が起きてもいいように準備はしてあるし、当面は平和をのんびり堪能していても問題はなさそうだな。
俺は座って延々とサインやらハンコを押し続けて凝り固まった体を伸ばしてほぐす。
「さって、仕事も終わったから、愛しの家族とのふれあいをしに行きますか♪」
俺はスキップしながら、家族が待っている部屋に向かうのだった。
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