第228話 開戦直前


 どうも、ハルです。

 なんやかんや動いていたら、十五歳になっていました。

 いやぁ、貴族社会って絶対に面倒だって思っていたけど、下地さえしっかりしていて、目標もぶれさせなければ意外と何とかなるもんだな。

 仕事量はまともな精神だと病むレベルだったけど、俺は文官を多く採用する事で上手く仕事を分散。領主としての仕事量を約六割減までにする事が出来たんだ。

 そうする事で俺は音楽活動に専念が出来、俺が立ち上げたレーベルの売上は笑いが出ちゃうレベルになった。

 その副産物として、レーベルの収入でウィード家は全然やっていける程の稼ぎなので、領主としての報酬をギリギリまで削る事で政策に多くの予算を回す事が出来た。予算の中には文官達の給料を増額する分も含まれていて、今文官達のやる気は天井をぶち破っている。

 俺の代わりに様々な政策案を出してくれており、俺や領主代行のレイが目を通して許可の判子を押せば成立という流れになっている。今のところ領民は政策に賛成が大多数で、現状維持で問題なかった。

 税収だって絶好調で、俺は近々公爵になる事が確定している。

 五大公爵である《薔薇貴族リリアーナの姐さん》と《騎士貴族ログ爺》、《算術貴族バル兄》に《絵画貴族オーさん》と《美容貴族ララ姉》とは対等の友人となった。


 ああ、そうだ。これは報告しないと!

親友達ディリーパード》メンバーである、ミリアとレイスが一年前に結婚したんだ!

 結婚式はうちの領地で盛大に祝った。あまりの嬉しさにミリアが化粧をぐちゃぐちゃにしちゃう位泣いちゃって、お色直しが必要になった程だ。

 子供はそろそろ欲しいそうで、バンド活動についても近々相談する予定だ。

 さらにオーグは良縁があったそうで、近々結婚する予定だ。

 現在オーグは家督を継いで子爵となり、実績も豊富で税収も文句なし。そろそろ伯爵になれるのでは? と声が上がっている。オーグも他の貴族から見たら相当優良株で、縁談の誘いはかなりあったそうだ。

 その中でオーグがとある令嬢に一目惚れし、相手の方が伯爵なので格上ではあるが両家共に喜んで了承をしたという。

 オーグもとても嬉しそうで、令嬢とも上手くいっている。本当に幸せそうだ。

 ちなみにその令嬢はレイと同じ位の美人さんだ。俺も実際に会ってビックリしたよ。

 レオンに関しては、現在ファンの女の子と真剣にお付き合いをしているようだ。

 どんな子かと思い紹介をしてもらったら、レオンにしては地味な女の子に惚れ込んでびっくりした。

 だけどお互い想い合ってるし、レオンの女遊びもぴたっと辞めたらしいから、相当本気なようだ。

 うん、皆が幸せそうで何よりだ。


 後、俺の方も報告。

 結婚して三年、ついにレイとリリルが妊娠した!

 いや、今まで敢えて避妊していたんだけど、二人に子供が欲しいってねだられたんだよね。

 そこからは遠慮なくシていたら、速攻で妊娠した。

 二人共子供を授かった事に大喜びだったのは、俺も正直嬉しかった。

 アーリアはというと、相変わらず避妊を貫いていた。

 理由を聞くと、


「レイさんとリリルさんが妊娠し、わたくしまで妊娠したら誰がハル様の夜のお世話をするのです? それで愛人なんて作られたら、わたくし、大泣きしてしまいますわ」


 との事で、今は毎晩アーリアにお世話になってもらっている。

 レイとリリルは「独占出来るなんて、策士っ!!」と悔しそうにしていたが、アーリアは「ハル様の子供、羨ましいですわ……」と二人を羨ましがっていた。だから無事に出産が終わったら、アーリアとも子供を作ろうと話すと、花が咲いたような可憐な笑顔を俺にくれた。

 

 ふふふ、ついに俺も父親かぁ。

 あっ、父親で思い出したが、父さんと母さん、妹のナリアがウェンブリーに引っ越してきた!

 今までレイが私兵達を鍛えていたが、妊娠した為に父さんにお願いをした所快諾してくれたんだ。

 そして家族全員で引っ越そうという事になり、俺が領民として受け入れたって感じだ。

 一緒に屋敷に住もうって提案したけど、性に合わないと断られてしまった。

 でも領内ならいつでも遊びに行けるし、問題ない。

 生まれ故郷はここから一週間以上かかるから、引っ越してきてくれただけで十分ありがたい。

 母さんはというと、レイとリリルに出産するまでに立派な母親になれるよう、子供の世話の仕方等を教育している。

 妊娠してからいきなり知識を叩き込まれてしまうと混乱するだろうから、とは母さんの言葉だ。

 二人も結構不安に思っていたらしく、母さんにしがみついて教えを乞うていた。


 順風満帆だった。

 だったんだけど、ついにあのフォール家がうちに喧嘩を売ってきやがった。

 つまり戦争を吹っ掛けてきたんだ。

 戦争の理由はこうだ。


『武力を蔑ろにし、他国に隙を作る悪政ばかり行っている愚王に鉄槌を下す。まずは見せしめとして一番愚王と懇意にしているハル・ウィードを滅ぼす。もし我が軍門に下れば、領民と領主一族の命は助けてやろう』


 との事。

 なるほど、親父を愚王と罵って悪者に仕立てあげ、そして自分こそが正義だと掲げやがった。

 事実上クーデター宣言だ。

 親父を引きずり下ろして、自分が冠を頂くつもりでいるらしい。

 しかも俺を滅ぼすときたもんだ。当然許せる訳がない。


『誰がてめぇのような三下の軍門に下るか、阿呆が! まず格の違いをしっかり把握してから喧嘩を売りやがれ、と注意してやりたいが、敢えて受けてやる。泣いたって許さねぇ、誰に喧嘩を吹っ掛けたのか、身を以て知るがいいさ』


 俺はそう返答し、それからは開戦準備に勤しんでいた。

 指定された開戦日は実は今日。宣戦布告をされてから一週間しか準備期間はなかったが、俺は元からこんな下らん戦争に時間を掛けるつもりはないし、フォール家とじゃれている暇すらない。こちらは準備は完了して、私兵達には本日に備えて昨日は全員休暇を与えている。

 

 戦争の舞台は、ウェンブリーから二キロしか離れていない《レヴィア平野》。

 木とかが一切ない、凹凸もない、草も短く遮蔽物が一切ない場所なんだ。

 つまり、この舞台だと純粋に物量が物を言う。むしろ俺達が敵を通すと、一気に街に雪崩れ込まれてしまう、まさに背水の陣だ。

 戦力差も約十倍程であり、正直俺達の勝利は絶望的である。

 だが、俺と俺の私兵達の士気は全く衰えていない。

 むしろすでに勝った気でいる。

 それは、俺の新しい魔法の内容を伝えたからだ。

 だから皆悲観せず、落ち着いていられるんだ。


 今私兵達は、開戦の合図を待って俺の眼前に整列していた。

 そして俺は作られた壇上に上がり、士気をさらに高める為の演説を行おうとしていた。

 私兵達は俺に視線を集中させている。

 不安な様子は一切ない。うん、間違いなく勝てる。

 では、俺も一仕事しようか!

 俺は口にサウンドボールを吸着させ《拡声》の指示を与えた。


「諸君。俺達は今、アレクセイ・フォールという身の程知らずから喧嘩を吹っ掛けられている! どうやら自分は王の器にあるという、とんでもない勘違いをしている大馬鹿野郎らしい」


 俺が盛大に敵を罵ると、小さな笑い声が上がった。

 よし、掴みは上々だな。


「さて、諸君には今回の作戦はすでに伝えているが、予定通り実行する。諸君の中には、今回の作戦については正直納得していない者だっているだろう。だが、許して欲しい。俺は、こんな阿呆相手に、非常に大事な盟友である諸君を誰一人失いたくない!」


 盟友と言われ、一部感動している私兵がいた。

 でも、今考えたら私兵達は盟友じゃない。もっと大事な存在だ。


「……違う、諸君らはもっと大きな存在だ。諸君らは、英雄と言われているハル・ウィードを形成する大事な存在。つまり、諸君らは俺の分身と言っていい!!」


 俺の言葉に山びこのように「分身?」と繰り返す私兵達。


「そうだ、分身だ! 諸君らがいなければ、俺は英雄なんてなれないのだ。一人では無理なんだ! だが、同じ志を抱き、共にこの戦場に立っている諸君は、間違いなく《ハル・ウィード》という英雄を形成している。俺達全員が揃ってこそ、救国の英雄が完成する!」


 私兵達がざわつく。

 俺の言葉に「俺達が、英雄の一部……?」「俺達を捨て駒だと思っていらっしゃらないのか?」等、様々な声が飛んでいる。

 普通私兵というのは、使い捨てにされる事が多い。

 だから俺は「皆は俺と同格な立場なんだ」と言って、士気を限界突破させる。

 思惑通り、相当やる気が出てきたようだ。

 一部興奮してきている奴だっている。


「諸君の一人でも欠けてしまうと、救国の英雄も傷付いてしまう。だから敢えて言おう! 死ぬな!! 諸君ら一人一人の命の価値は、俺と同格だ!! 何度も言うが、諸君らがいるからこそ、俺は英雄としての地位を持てている!! 死んでしまったら、英雄としての栄誉や名声を身に浴びる事が出来ないんだ。もし諸君らに少しでも英雄願望があるのであれば、生きて称賛を浴びろ!! その報酬と場はすでに用意している」


 私兵達から熱気を感じる。

 武に身を置く人間としては、一度でも憧れや願望を抱く英雄願望。

 俺はそれをこの演説で煽っている。

 では、トドメと行こうか。

 俺は《赤の名剣レヴィーア》と《青の名剣リフィーア》を抜く。


「諸君、敵は数だけを集めた有象無象にしか過ぎん! 俺達の剣で、殲滅する。行くぞ、我が分身達よ!!」


『応っ!!』


 約四千五百の俺の私兵達は敵に視線を送った。

 約一キロ離れた先に、敵は陣を構えている。

 向こうは、人の壁が地平線を覆っている。

 約五万。戦力差は絶望的だ。

 だが残念ながら、その戦力は大幅に削られる事になる。


「行くぞ分身達。さっさと終わらせて、祝賀会でもしよう!」


『はっ!!』


 俺は、敵陣に向けて掌を向けた。

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