第202話 熱狂的なライブ


 ――リリル視点――


 あの化け物二人を倒した後、私達はレイちゃんの《ワープドライブ》を使ってライブ会場に戻ってきました。

 そこまで強くなかったから、本当に思ったよりも早く戻ってこれたのは、とっても嬉しかったです。

 では早速ライブの感想なんですけど……もう、凄いという言葉しか見当たらなかったです。

 お城の中庭の中心に、ハル君達が演奏する舞台があって、それを取り囲むように観客席が配置されていたんですけど、この舞台がゆっくりと回るんです!

 どの角度の観客席でも絶対に、ハル君達を正面で観る事が出来ます。

 さらに舞台の上部には映像を写す魔道具が設置されていて、常にバンドメンバーの正面姿を写し出していたんです。

 こんな仕組みをコンサートなどに出した音楽家はやはり誰もいなかったみたいで、これもハル君達が史上初の試みだったようです。

 ハル君は「《べいびーめたる》の《ぶどうかん》ライブ方式だぜ!」と言っていましたが、何の事かさっぱりわかりません。

 たまにハル君は、訳が分からない事を言います。私やレイちゃん、アーリアちゃんも反応に困ってしまいます。

 常にきらびやかに照明が明滅していて、お客さん達はとても盛り上がっていました。

 隣にはマーク先生や貴族科のクラスメイト達が観ていましたが、普段厳しいマーク先生が喉を枯らす位に叫んでいてビックリしました。

 クラスメイト達もおしとやかさを捨ててハル君達に声援を送っていました。

 さらには私のお父さんとお母さんも興奮していて、一生懸命手を振っていました。

 王様であるお義父様と王太子様であるお義兄様も、本当に普通の人と変わりない声援を送っていました。

 何よりハル君の妹のナリアちゃんが、音楽に合わせて踊り始めて楽しそうでした。


「兄ちゃん、本当すごいね!!」


 嬉しそうに私に話し掛けてくるナリアちゃんの頭を、私は優しく撫でました。

 撫でると気持ち良さそうな表情を見せてくれて、本当に可愛くて仕方ありません。


 こうしてハル君を見ると、改めて私は凄い人と結婚したんだなって思っちゃいます。

 だって、音楽一つでこんなにたくさんの人を魅了させちゃうんですから。

 本当に身分とか一切関係なく、ううん、身分とかを吹き飛ばしちゃう程の音楽を披露しているんです。

 クラスメイトの女子なんてハル君の奥さんである私達に、


「ハル侯爵の妻としての枠、後一つ空いていましたわよね! わたくし、わたくしなんていかがでしょう!?」


「こんなドリルヘアーなアバズレより、清楚で高貴なわたくしの方が相応しくてよ!?」


「いやいやいや、莫大な資産を持っているレーガルス家の長女であるわたくしこそ、ハル侯爵に相応しいでしょう!!」


 うーん、ハル君はそういう後ろ楯とかお家柄で奥さんは選ばないと思うんだけどなぁ……。

 むしろそういうアピールをされるのが一番嫌いだと思います。

 だったら私なんて、三人の奥さんの中で唯一平民なんですけどね。もし身分とかで選んでいたのなら、私を奥さんにしようなんて考えないはずですから。

 一応、彼女達がそう言っていた事は、ハル君には伝えておきますけど。

 とにかく必死にアピールしてくる彼女達が怖くて、私は無視してライブに集中しました。

 彼女達は置いておいて、ハル君は本当に男女関係なく惹き付けてしまいます。

 人タラシとはきっと、私の旦那様の事を言うんだなって最近思いました。


 でも、他のバンドメンバーも負けていません。

 ミリアちゃんなんて、その可愛らしくて元気な笑顔を振り撒きながら歌っているので、主に男性の心を鷲掴みしています。

 たった一つの仕草だけで、観客の男性達は嬉しそうに声援を送っていました。

 小さい子供だって、ミリアちゃんの振り付けを必死に真似しようとしているし、見ていて微笑ましかったです。

 ナリアちゃんもミリアちゃんを好きになったみたいで、


「あのお姉ちゃんも、兄ちゃんのおよめさん?」


 って聞いてきました。

 一応違うよとは説明しましたが、兄ちゃんならぜったいおよめさんにするよ! と自信満々に言っていました。

 私達彼の嫁三人は、苦笑していましたけど。

 

 レオン君は、とにかくエッチな歌を披露します。

 でも彼は本当に格好いいので、女性客は目がハートマークになっちゃっています。

 私達三人は「ないわ」という感じで、一歩引いて見ていましたけど、世の女性から見たらきっと素敵に思うのでしょうね。

 うん、同じエッチなら、私はやっぱりハル君がいいなって思っちゃいました。

 たまに観客の一人に指差して、まるで口説いているかのように歌っていて、その観客は見事に悩殺されていたようです。

 VIP席は一般観客席より上部に設置されているので、観客席を一望できます。

 私は双眼鏡を使って観客席を見るのも楽しくて、そういうお客さんの反応がよくわかったりします。

 だから、逆にレオン君は男性客に受けが非常に悪いという事がわかっちゃうんですけど。


 今回のライブは何と、レイス君とオーグ君も歌を披露したんです。

 レイス君は澄んだ歌声で、聴いていてとっても心地よかったんです。

 何て表現したらいいんだろう、森林浴をしているような感じ?

 レオン君やミリアちゃんは激しい曲調だったけど、レイス君の場合はちょっとゆっくりめな曲調でした。

 好青年なイメージのレイス君とイメージがぴったりで、たくさんの女性客はレイス君にメロメロなようでした。

 私も正直少しドキッとしちゃったのは、ハル君には内緒です。

 オーグ君も歌が上手くてびっくりしました。

 確かハル君が「オーグとは一番歌の特訓をした」って言っていたから、本当に頑張ったんだろうなって思いました。

 オーグ君が歌っている曲は、確かハル君が異世界の曲を私達の言葉に直した曲らしくて、《えっくすじゃぱん》って人達が歌っている《ふぉーえばーらぶ》って曲らしいです。

 意味は永遠の愛らしいです。

 翻訳するのは本当に大変だったようですが、「ぜってぇオーグに歌わせたいんだ!」って言って張り切っていました。

 元々オーグ君は声が高めでしたけど、歌でも高くて男性でもこんなに高い音程で歌えるんだなってビックリしました。

 

 そして最後はやっぱりハル君!

 ハル君は激しい曲、優しい曲、悲しい曲等を器用に感情を込めて歌い分けます。

 それでも共通して言えるのは、音楽をやっているハル君はとっても輝いているという点です。

 剣を持って戦うハル君もとっても格好良いんですけど、音楽をやっているハル君は一番魅力的なんです。

 頬から滴り落ちる汗も照明に照らされて輝いているし、何より常に楽しそうに演奏するんです。

 そんな彼の表情に皆、視線が釘付けになります。

 お父さん曰く、「彼は男が憧れるような事を体現している男だ」と言っていますし、同性でもやはり憧れるんだろうなって思いました。

 私を含めた女性達なんて、恋に落ちてしまっています。

 だって、常に一緒にいる私やレイちゃん、アーリアちゃんだって、ハル君から目線をそらせずにいます。

 本当にそれほど魅力的なんです。


「おいお前ら!! まだまだ元気が足りねぇぞ!! 喉が潰れる程声を絞り出しやがれぇぇぇぇぇっ!!」


 ハル君はあんなに叫んでいるのに、全然声が枯れません。

 だから観客も精一杯声を出して、ハル君に声援を送っています。

 熱気が本当に凄くて、私達も汗が出ちゃいます。

 それでも私達はハル君達に声援を送るのを止めません。

 だって、大きい声援を送ると、ハル君達から倍になって返ってくるからです。

 声援に対して演奏で応える。今までのコンサートでは考えられなかったそうです。

 私は今までコンサートなんて観た事がなく、ハル君のライブが初めてだからわからないけど、よく遊びにくるアーバインさん曰くただ演奏を聴かせるだけだったんだそうです。

 だから、ライブでは観客も演奏者も一体になってライブを盛り上げている。本当にそれが素晴らしい経験なんだと仰っていました。


 約二時間半のライブはあっという間に終わっちゃいました。

 拍手喝采の中を優雅に去っていくハル君達。ハル君達の姿が見えなくなった後、観客も全力で応援していたので、終わった後も席に座って休んじゃう人が多かったです。

 私もちょっと疲れちゃいました。

 でも嫌な疲労感ではなく、疲労感を越える程の満足感がありました。

 それでもまだ観たいなって思うのは、わがままなのかな?


「皆、控え室に行ってハル達を労おうよ」


 レイちゃんがそう言いました。

 VIP席にいる皆で控え室に向かいます。

 扉を開けると、床で五人共倒れていました。


『な、何事!?』


 暗殺!? 暗殺があったの!?

 私達はびっくりして彼らに近付きました。

 すると―――










 










 ただ寝ているだけでした。

 ちょっとずっこけそうになりましたが、寝ているだけで一安心です。

 今考えてみると、ハル君達は二時間半ずっと演奏しっぱなしだったんですよね、休まずに。

 本当に、全てを振り絞って楽しい音楽を私達に届けてくれているんだなって、改めて実感しました。

 周囲の人達はこのまま彼らを寝かせてあげようと、ハル君達を称えていたりライブの感想を言いながら部屋を出ていきました。

 私はこそっと残って、彼の燃えるような赤い髪を撫でながら、小さくこう呟きました。


「お疲れ様、ハル君。素敵だったよ」


 誰にも聞こえていないけど、真心を込めて呟きました。

 ハル君にだけ、聞こえていたらいいなって思うのは、欲張りでしょうか?

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