第201話 アーリアの力
――アーリア視点――
わたくしは、戦う力を求めていました。
忌み嫌われている《虹色の魔眼》をフル活用する事で、魔道具製作では一流とカロルさんから太鼓判を押される程にはなりました。
ですが、レイさんやリリルさんのように、ハル様の戦いを支えられる力を持ち合わせていません。
せいぜい出来て、魔眼を使って魔法を《改変》する程度。わたくしには武力が一切なかったのです。
実はわたくしは全属性が扱えたのですが、この魔眼が覚醒してから何故か魔法が一切使用できなくなってしまったのです。何かの物体に対して各属性の魔力を注ぎ込む事は出来るのですが、いくら詠唱しても魔法が発動する事はありませんでした。
結婚する前は、わたくしが魔道具製作能力を活かしてハル様の楽器を作っていたので、その部分でハル様を支えていると自負していたから焦っておりませんでした。
しかし結婚した後に気がついてしまったのです。いざ戦闘となると、わたくしはただの役立たずだったのです。
レイさんは剣技に秀でていて、ハル様から戦闘においては背中を預ける程に信頼されています。
リリルさんは回復魔法に加えて、強力な攻撃魔法も持っていて、やはり戦闘では全幅の信頼をおかれています。
わたくしはハル様を支えたい、一緒に幸せになりたいから一緒になったのに、戦闘ではお荷物になっている現状に納得が出来ませんでした。
「ハル様、わたくしも貴方の戦闘を支えたいですわ。何か良い方法は御座いませんか?」
とある夜、ベッドの中で快楽を味わった後に抱きつきながら相談しました。
まるで豆鉄砲を喰らった鳥のような表情をしていたハル様が、ちょっとおかしかったのは内緒です。
ハル様は顎に手を当ててしばらく悩んだ後、複雑そうな顔をしてわたくしの質問に答えて下さいました。
「正直、今から剣を学ぶってなると、どうしても長い年月が必要になるんだよなぁ。一応もしかしたらって方法があるんだが――」
「それは何ですの!?」
「おおぅ!? そ、そこまで一緒に戦いたい?」
「はい!!」
「ううむ。なら、マーク先生の授業で教わった
「あれ?」
「ふふふ、まぁ見てからのお楽しみ!」
そうして次の日に出会ったのが、二丁の拳銃でした。
たまたまカロルさんが試しに購入をしていたようで、ウィード家で導入できるか検討していた最中だったようなのです。
それを譲り受けて試しに撃ってみました。
結果、貧弱なわたくしの身体では拳銃の強烈な反動に耐えきれず、右肩が脱臼してしまいました。
ハル様が試しに撃ったのですが、片手でまるで慣れているかのように的に命中させていました。
「いやぁ、
あめりか?
そんな地名あったでしょうか?
「でも、この銃は正直アーリア向けじゃない。口径がデカいから威力は申し分ないが、アーリアの身体じゃ多分反動に耐えきれねぇよ」
わたくしはリリルさんからの治療を受けながら、ハル様の言葉を聞いていました。
ハル様のお話では、この拳銃は訓練すれば誰でも使用出来るようになるので、そこまで途方もない時間をかける必要はないのだそうです。
そんな銃でも、わたくしは扱えなかったのです。
あまりにも悔しくて、皆様の前でつい泣いてしまいました。
それほどまでにわたくしは、ハル様のお力になりたかったのですから。
すると、カロルさんからの提案がありました。
「ならば、アーリア様自ら、その銃を魔道具化させれば宜しいのではないでしょうか?」
「魔道具化?」
「ええ。反動がキツいのであれば、何かしらの方法で反動をなくしたり」
魔道具化、ですか。
そんな反動をなくせる魔道具なんて作れるのでしょうか?
反動…………あれ、いけるかもしれません。
「……カロルさん、確かこの拳銃の弾は火薬を爆発させているんでしたよね?」
「はい、アーリア様。私はそのように聞いております」
「成程ですね。火薬だとあの反動が出てしまうのですのよね……」
そこで閃きました。
弾の火薬を全て抜いて、代わりにわたくしの魔力を注ぎ込めばいいのではないかと。
魔力は物質ではなくエネルギーです。まだ何も魔法として利用していない魔力に対してとある衝撃が加わったら、圧縮した魔力を解放させて弾を押し出すようにする命令を、わたくしの魔眼を使って《改変》させればいい。
エネルギーの状態であれば、物質でもないですし爆発も起きないから理論上はそれで反動ゼロの状態で、弾を発射出来る筈。
わたくしは早速カロルさんから、火薬を抜いた弾を千発購入して早速試しました。
さらに二丁の銃をわたくしの私財で購入し、一丁を分解。構造を徹底的に調べました。
驚いた事に魔道具ではなく、これはからくりだったのです。
引き金という部分を引くと、弾の底に衝撃を与えるハンマーが動きそして火薬が爆発して推進力を得る。
これは本当に画期的な発明と言っていいでしょう。
銃全体がわたくしにとっては重かったので、銃全体に土属性中級魔法である《グラビティ》の魔方陣を仕込みました。
《グラビティ》は物質を大地に繋ぎ止める力を強めたり弱めたり出来る魔法で、今回は弱めたりする効果を取り入れます。
すると非力なわたくしでも軽々と片手で振り回せる程に軽くなりました。
次に火薬が入っていない弾に対し、ぎゅうぎゅうに圧迫させた魔力を詰め込みます。
試しに弾を装填して試射しました。
「……何も起きませんわね」
カチャン、カチャンと空撃ちしているような音だけがして、弾は発射されませんでした。
つまり失敗です。
ただ魔力を詰め込んでも何も起きません。ならば、込める魔力に一工夫すればいい。
わたくしは試行錯誤を続けました。
ある時は火薬となんら変わらない効果になってしまい、再度肩が脱臼したり。
またある時は、弾が射出されるのではなくて、何故かわたくしが後方に吹っ飛んでしまったり。
何度も失敗を重ねて導き出された結論は、魔力に『ハンマーによる衝撃を感知したら、一気に膨張させる』でした。
爆発の指示をすると、どうやら文字通りの意味となって物質化、そして爆発してしまいます。
当然爆風が生まれて衝撃も発生してしまいます。
ならば魔力で弾を押し出してしまおうと考えた結果、正解でした。
こうして、反動が一切ない銃が完成したのでした。
後はハル様から銃の扱いを教えていただきました。
後ろから抱き着かれたような密着した状態でのご講義でしたので、胸の高鳴りが抑えられなかったのは内緒ですわ。
また、重さの問題も解決し、二丁拳銃の状態での射撃訓練も行いました。
学校が終わった後に帰宅し、庭で射撃訓練を行ってようやく、わたくしも戦う力を得たのでした。
そんなわたくしが今、巨大化した化け物に二つの銃口を向けています。
初めての実戦。そして初めての殺人となるでしょう。
ですが、わたくしはあの時から、一つ決めていた事があるのです。
七歳の時、ハル様に助けて頂いたあの日。
死ぬ事の恐怖というものを初めて知りました。
死んだら全てが無意味。生きている事こそ、絶対なのだと。
わたくしはまだ十二年しか生きていません。
これからももっともっと、ハル様、それにレイさんやリリルさん、将来的に生まれてくるであろうわたくしの子供達と暮らしていきたいのです。
今この場面で人生を終わらせるつもりはありません。
だから、他者の命を奪う事に、躊躇いは持ちません。
「お覚悟は、よろしくて?」
わたくしは、二人の化け物を睨み付けました。
すると二人はたじろいだのです。恐らくわたくしの魔眼のおかげでしょう。
「いいか、《虹色の魔眼》の前では魔法を使うなよ。どんな魔法も書き換えられてしまう」
「わかっている、相棒。ならば、接近戦で挑めばいい。銃の弾丸位じゃ、俺達の肉体を貫けねぇ」
成程、彼らの言い分は道理ですわ。
あそこまで密度の高い筋肉ですと、弾かれはしないでしょうが内臓まで達するかどうかも怪しいです。
ですが、わたくしもちゃんと策を用意しているのですよ?
「いくぜ、相棒!」
「ああ!」
二人が大地を蹴って、わたくしに向かって突進してきます。
凄い速度ですが、驚きはしません。
「《改変》」
わたくしは装填されている二丁拳銃の弾に、とある《改変》を組み込み、そして引き金を引きました。
魔力によって押し出された二つの弾の先端は、魔力を帯びて目に見えぬ速さで射出されます。
二人の左太腿目掛けて発射した弾は、見事命中。その瞬間二人から小さな悲鳴が漏れましたが、我慢出来る程度の痛みしかなかったようです。
出血も少なく、本当に対した事ないのでしょう。
「ふふ、この程度の威力等、これっぽっちも問題にならない!」
「悪いが、死んでもらうぞ!!」
「まだ、わたくしの攻撃は終わっていませんわよ?」
わたくしは二人の筋肉に食い込んでいるであろう弾に対し、こう言い放ちました。
「『弾けなさい』!」
するとどうでしょう。
二人の左太腿が爆発し、そのまま千切れてしまいました。
「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
突進していた二人は身体の支えがなくなり、そのまま地面に倒れては転がってしまいわたくしの近くまで来ました。
相当痛いのでしょう、無くなってしまった左足を押さえて悶絶しています。
「わたくしの魔眼は、別に貴殿方だけに使えるものでは御座いませんのよ? 自分が発生させた魔力に対しても効力はありますの」
魔力が推進材となっている弾なら、わたくしの《改変》も有効となります。
故に発射する前にとある指示を《改変》で仕込みました。
「わたくしの合図によって、火属性上級魔法の《エクスプロージョン》を発動させる指示を《改変》しました。まぁ、射出された魔力の量は少量なので、実際の魔法の半分の威力しか出ませんが」
それでも太腿を吹き飛ばす位の威力にはなりましたが。
「ち、畜生! 『癒しの水よ、我が傷を癒したもう』」
「バカ、やめろ!!」
「もう遅いですわ。《改変》」
化け物の一人が水属性初級魔法の《ヒール》を使用しようとしました。
わたくしは魔眼で彼の魔力の流れを感じとり、詠唱によって人体の自己修復能力を高めようとする魔力の動きを、わたくしの魔眼で改変。
改変内容は、『自己修復能力を失わせ、逆に細胞を死滅させる』でした。
みるみる内に傷口がただれていき、赤かった血肉が黒くなっていきました。そして化け物はさらに断末魔のような悲鳴をあげて悶え始めました。
「痛い、痛いぃぃぃぃぃっ!!」
「ひぃ!? これが、《虹色の魔眼》!!」
いかなる魔法も改変出来るわたくしだからこそ出来る戦い方。
銃を取り入れた事によって、わたくしの魔眼はさらに有効活用出来るようになったのです。
後はもっと練習をして、常に銃の間合いで戦えるようにしないといけませんわね。
とりあえず、この戦闘はわたくしの勝ちで間違いありません。
「レイさん、リリルさん、やりましたわ!」
わたくしがお二人に視線を移した瞬間、悶絶していた化け物がわたくしに殴り掛かってきました。
油断してしまいました。
視線を化け物二人から外した瞬間を襲われてしまったのです。
これは、避けられない!!
「《ライトランス》」
「《
わたくしに殴り掛かってきた化け物の額に、光属性中級魔法である《ライトランス》が突き刺さり、もう一人の化け物の頭全体を水が包み込んでいました。《ライトランス》はレイさんの魔法でしょう。そして水が包み込む魔法はリリルさんのオリジナル魔法の一つである《水牢》ですわ。
《ライトランス》を頭に直撃してしまった化け物はそのまま息絶え、もう一人は水から逃れようと必死にもがきます。これは
ですが、無慈悲な言葉がリリルさんから発せられました。
「潰します。《
その瞬間、水泡は赤く染まり、化け物は力無く倒れました。
水も一緒に弾け、そこにあった筈の化け物の頭部は細かな肉片となっていました。
《水牢爆》は《水牢》から派生する魔法で、水泡内部の水圧を急激に高めて押し潰すものです。水圧に耐えられなかった頭部は潰れて四散してしまったのでしょう。
「アーリアちゃん、トドメを刺すまで油断しちゃだめだよ」
「そうそう。勝ったのは間違いないけど、あのままだと返り討ちにされてたよ?」
うう、最後の最後にこの二人に助けられてしまいましたわ。
まだまだわたくしは精進が足りないようです。
わたくしはしょぼんとしてしまうと、お二人がわたくしの肩に手を添えてきました。
「まぁでも、初陣にしてはなかなかやれてたと思うよ」
「うん。私の時なんて、泣いちゃいそうだったし」
褒められている、と取ってもいいのでしょうか?
でも確かに、初陣にしては気後れせずに戦えたと思います。
わたくしは安堵のため息をつき、両太腿に着けてあるガンホルダーにそれぞれ銃を仕舞い、ドレスのスカートで隠しました。
「有難う御座います。では早速帰りましょう! ハル様のライブを楽しみたいですわ!」
「そうだね! 思ったより歯応えがない奴等だったから、あっさり済んだのはありがたいよ!」
「私も早くハル君のライブを観たい!!」
わたくし達三人は、レイさんの移動魔法である《ワープドライブ》で、瞬間的にライブ会場に戻りました。
――《ハル・ウィード偉伝 第九章 ――英雄を支える者達――》――
ハル・ウィードを語るのに忘れてはいけないのが、三人の妻達である。
基本的に貴族の妻は、歴史上の表舞台に立つ事は稀なのだが、彼女達は違った。
まずはレイ・ウィード。
彼女はその美貌を武器に、貴族のパーティでは常に注目を浴びていた。
彼女が身に付けているものは一流であると評判で、必ずと言っていい程貴族間ではそれが流行となる。
また政治面でも手腕を振るっており、コンサート等でよく領地を離れるハル・ウィードの代わりに領地運営を行っていた。
領民からは非常に慕われていて、領民が勝手に作り上げた親衛隊が出来上がる程である。
しかしこの親衛隊が馬鹿に出来ない程で、一度レイ・ウィードの暗殺を食い止めた実績を持っている。
さらには剣の腕前も一流であり、自ら私兵達の訓練の手解きをしていたと記録されている。
その事から、レイ・ウィードには《業火の
《双刃の業火》であるハル・ウィードの妻という事で、《業火の剣姫》となったのだろうと推測されている。
次にリリル・ウィード。
性格はかなりおとなしめで平民上がりの為か、パーティは苦手なようだった。
故にパーティではレイ・ウィードが中心となっていた。
しかし、彼女の評価はそこではない。
類い稀な回復魔法の才能を有しているリリル・ウィードは、治療院を開設して院長となる。部下に直接回復魔法の指導を行い、レミアリア一の治療院と言われる程有名となる。また、私兵の中にも自ら指導した治療部隊を配備し、戦争による生存率を大幅に高めた。
料理の腕も高く、貴族向けのお菓子教室も開いていた。普段料理しない貴族からは最初は不評だったが、彼女が作ったお菓子を食べて喜んでいるハル・ウィードを見て、夫に喜んで貰いたいと思い始めて教室に通う貴族婦人が殺到したという。このお菓子教室でリリル・ウィードは、無自覚のまま強力な人脈を作っており、政治思想が一切ない交友関係を築いた。その為ウィード家の危機に積極的に手を差し伸べる貴族も少なくなかったという。
小動物を思わせる可憐な容姿に大きな胸が様々な男を魅了し、ファンクラブが設立されたという。
彼女にも《業火の
最後に元王女であるアーリア・ウィード。
パーティでは彼女以上の発言力を持つ婦人はいないだろう。
元王族という事もあり、様々な貴族が彼女と縁を結ぼうと近寄ってくる。
人を見る目に優れていた彼女は、その中からウィード家に有益そうな人材のみと交流を交わし、ウィード家の発展に尽力を注いだ。
どういう訳か魔道具製作に飛び抜けた才能があり、ハル・ウィードの新しい楽器製作にほとんど関わっているのもアーリア・ウィードだ。
楽器以外にも様々な画期的な魔道具を世に発表しており、有する著作権の数は五十前後と言われている。その為ウィード家が財政で悩む事は一切なかったと言われている。逆に彼女を何とかして手に入れようと謀略を仕掛けたり戦争を仕掛けたりしてくる貴族が多く、そこの部分に頭を悩まされていた。
そんなアーリア・ウィードも、戦闘に優れていた。
彼女は拳銃を自分なりに魔道具化させて、中距離・遠距離から攻撃する戦闘方法を好んで使っていた。
戦闘中でも優雅に舞いながら銃を操る姿は、戦場に咲いた白銀の花とも言われる程に華麗だったと記録が残っている。
また、私兵の中に《銃器兵団》なる部隊を設立。狙撃も行え、中距離牽制に大いに活躍した。
ただし当時銃は相当高いコストが必要となった為、中隊規模の人数分しか用意出来なかったとされている。
それでも各部隊の生存率を高める程に貢献した《銃器兵団》は、今でも人気が高い。
アーリア・ウィードにも二つ名が付いており、《業火の
当時正妻一人で後は側室というのが貴族の間では常識だったが、破天荒なハル・ウィードは三人共正妻としている。
その証拠に、パーティでは正妻が白のドレスで側室は赤いドレスという暗黙のルールがあったのだが、パーティでは必ず三人共白のドレスを着ていた。
記録によると、三人が正妻だった為に、誰に話し掛ければ深い繋がりを持てるのか、一時期貴族間で議論が巻き起こったらしい。
本来許されない事なのだが、それは英雄であるハル・ウィードだからこそ許されたのである。もちろん《家訓》で三人共正妻だと言っている為でもあるのだが。
実際パーティでも彼は彼女達を傍らで引き立てていたという。
平等に妻を引き立て、貴族達の前で彼女達を褒めるハル・ウィードは、愛妻家としても有名となったのである。
そんな彼の振る舞い方は、貴族のパーティでとある衝撃を与え、パーティのマナーを大きく変える出来事を起こすのだがそれは後述する。
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