第184話 レイとの勝負


「それじゃ、行くよ!」


 レイは細身の剣を抜き、構えた。

 相当やる気満々なご様子だ。

 そして、今日は白いワンピースを着ていたのだが、スカートを破ってスリットを無理矢理作った。

 美しい太ももが露出した瞬間、兵士さん達は「おおっ」とどよめく。おい、人の嫁をじろじろいやらしい目で見るな! その目で見ていいのは俺だけだ!

 しかしまぁ、嬉しそうな笑みを浮かべていやがる。

 まぁそんなに戦いたいのなら、俺も最初から全力で行くか!


 俺は《赤の名剣レヴィーア》と《青の名剣リフィーア》を鞘から抜き、最初から二刀流状態で戦う。

 同時に、訓練場全体にサウンドボールを配置し、些細な音も拾えるようにした。


「ああ、こっちもいつでもいいぜ」


「なら、遠慮無く……!」


 その瞬間、レイの身体は光の粒子となって霧散した。

 初っぱなから《ゴッドスピード》か!!

 あいつが光の粒子になると、音は一切聞こえなくなる。

 俺との戦闘での相性は最悪で、俺が圧倒的に不利になる。

 だけど、この魔法にも弱点がある。

 それは、実体に戻らないと攻撃が出来ない点だ。

 俺は実体に戻った瞬間に防御するなり、攻撃するなりをしないといけない。


 さてと、何処から来るか?


 すると、サウンドボールが音を拾った。

 俺の右横だ!

 振り向いている時間がないので、《ソナー》で超音波を飛ばし、反射してきた音を映像として捉えた。

 受信した映像は、突きを放とうとしている所だった。

 俺は身体を反らして回避したと同時に右手に持っていた《赤の名剣レヴィーア》を左から右へ水平に薙ぐ。


「ちっ」


 レイが女の子らしからぬ舌打ちをし、剣の鞘を左手に瞬時に持って俺の斬撃を防御した。

 咄嗟の判断で、なかなかやるな。


「やっぱり、初手で決めさせてくれないかぁ。流石ハルだね!」


「お前、本気で刺そうとしたな?」


「ふふ、ハルには手加減出来ないからね」


 レイは鞘で受け止めていた俺の剣を弾く。俺はその動作を予測していて、タイミングを合わせて後方に飛んだ。

 地面に着地した瞬間、またレイは光の粒子となる。

 以前戦った時より《ゴッドスピード》の起動がスムーズだ。超絶厄介だぜ。


 光の粒子になってしまうと、俺の音による攻撃等も効かなくなる。

 光になっているせいか、視覚以外の感覚は無くなるそうだ。

 まぁこの状態になったらほぼ無敵だから、俺は実体になった瞬間を狙うべく目を瞑って集中した。


 次の攻撃は、俺の背後からだった。

 さっきと同じように《ソナー》を発動して、振り向かない状態でレイの実像を捉える。

 今度は振り下ろしか。細身の剣ではあまり向かない攻撃なんだがな。

 俺は反時計回りで振り返ると同時に、《青の名剣リフィーア》をレイの胴体目掛けて振った。

 このままだとレイの腹を深く切り裂いてしまうだろうけど、リリルがいつでも回復できるようにスタンバイしているから、俺は致命傷にならない部分を攻撃している。

 が、俺の攻撃は空を切った。

 レイは瞬時に《ゴッドスピード》を発動させて、光の粒子になって俺の斬撃を回避したんだ。

 ちっ、釣られたか。

 

 攻撃が空振って隙だらけの俺の背後を取り、実体化したレイはご自慢の突きを放ってきている。

 まっ、釣ったのはレイだけじゃないけどな。


 一番レイに近いサウンドボールから、何かが爆発したような爆音が流れる。

 観戦している兵士さんや、リリルとアーリアが耳を塞いでも苦悶の表情を浮かべる程の音量だ。

 それを至近距離で喰らったレイは、攻撃を中断して手を耳に押し当てた。


「うあっ!?」


 隙あり!

 俺は《青の名剣リフィーア》を振り下ろす。

 だが、レイは一瞬光の粒子となる。

 俺の斬撃は空振り、地面に浅く刺さる。

 そして瞬時に実体化したレイは、コンパクトに突きを放ってきた。


 やべぇ、完全に避けられねぇ!


 何とか身体を半身にして避けようとしたが、少し遅れてしまって右肩に彼女の剣先が突き刺さる。


「ぐぅっ!!」


 鋭い痛みに声を漏らしてしまう。

 俺は《赤の名剣レヴィーア》を地面に落としてしまう。

 その瞬間、レイは嬉しそうな笑顔を俺に向けた。


「これは一本だよね? 僕の勝ちだよね?」


「……いや、どうかな?」


「えっ?」


 俺は視線をレイの脇腹にやる。

 レイも俺の視線を追い掛けて自分の腹を見る。

 そしてはっと気が付いたような表情をする。


 そう、俺は刺される直前に《青の名剣リフィーア》を振って、脇腹に刃が当たる直前で止めていた。

 やっぱり、好きな女は斬れなかったんだよね。


「これも、一本じゃね?」


「……引き分け、ううん。僕の負けだよ」


「何で?」


「だって、ハルの攻撃の方が致命傷じゃん……」


 とても悔しそうな表情をするレイ。

 まぁ、レイがそれでいいならいいか。

 俺は《青の名剣リフィーア》を鞘に仕舞い、空いた左手で彼女の頭を撫でた。

 だが、彼女にとっては癪に触ったのか、涙目になって俺を睨み付ける。


「悔しいっ!!」


 俺の肩に刺さったままの剣を軽く叩くレイ。


「いってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」


 愛しのレイたんは、戦いにおいては容赦ございませんでした……。


 しかし、戦っている時間は約二分程か。

 実力が高いと意外に拮抗しない。

 何故なら、お互いに仕留める方法を明確に組み上げているからだ。

 今回これだけ戦った時間が短いっていう事は、レイも相当な実力を持っているという事。

 レイは本当、俺と同じ位まで強くなった。

 何か、それが嬉しかった。

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