第185話 俺の領地の名前!


 リリルに傷を魔法で回復してもらった俺は、兵士さん達の訓練を嫁達と一緒に見ていた。

 三人にいいところを見せたいんだろうな。

 正直言えば、俺達は雑談していて訓練はほぼほぼ見ていなかった

 雑談というより、イチャイチャしていたって感じだな。


 昼頃には次の予定に向かった。

 王様である親父と昼食の予定だったんだ。

 美味しい食事を頂きつつ、俺が管理する領地についての話し合いも兼ねている。

 大体の計画案はカロルさんと嫁達で詰めていて、親父に見せて承認を貰うだけだった。

 まぁ計画に問題点があったら承認は降りないけどな。


 昼食を頂く会談の間へ向かう俺達。

 俺とレイとアーリアは慣れているが、庶民であったリリルは未だ緊張しているみたいだ。

 時々右足と右手が同時に前に出ている。

 そんなリリルの事を可愛いと思いつつ、彼女の隣に立って頭を撫でた。

 光沢があって触り心地がいい金髪は、ずっと撫でたくなる気分だぜ。


「ハル君、ありがと」


 緊張は解けたのだろう、小さく微笑み返してくれた。


「ハル、僕も緊張しているんだけど」


「ハル様、どうしましょう! 緊張しておりますわ!!」


「嘘つけ!! レイはともかく、アーリアは実家だろうが!!」


 分かってるよ、リリルみたいに頭を撫でろって事なんだろ?

 仕方ないなぁと思いつつ、二人の頭を撫でる。

 気持ち良さそうな表情をしている二人を見て、ちょっとムラっと来たのは内緒だ。


 三人の嫁達とイチャイチャしながら歩いていたら、あっという間に会談の間に到着した。

 扉の警備をしている二人の兵士さんが俺達の姿を見て、敬礼をしてくれた。


「ハル・ウィード侯爵と奥方様達、陛下が部屋ですでにお待ちになっております。どうぞ、お入りください!」


「どうもぉ」


 兵士さんが扉を開けてくれて、俺達は軽く会釈をして部屋に入った。

 長い机の奥――いわゆるお誕生日席だな――にはすでに親父が座っていた。

 あれ、王太子である兄貴がいないな?


「ハル殿、よく来てくれた」


「おっす、親父。兄貴は?」


「うむ、それに着いては席に座って話すとしよう」


 親父の傍にいた侍女さん達が、俺達を席に案内してくれた。

 座る前にレイとリリルとアーリアは軽く親父に向かって会釈する。


「この度はお招き頂き有難う御座います、陛下」


「レイ殿、余らは家族だ。陛下と畏まらずに『お父様』と呼んでくれ」


「えっと、少し時間を頂けないでしょうか?」


「うむ、楽しみにしておく」


 次はアーリアが親父に挨拶をした。


「ただいま帰りましたわ、お父様」


「アーリア、元気そうだな。…………少し大人びたか?」


「そうでしょうか? 本当でしたらとても嬉しいですわ」


「う、うむ」


 親父が多分、初夜を迎えた事を察したのだろうな。

 若干微妙そうな顔をしている。

 複雑な心境なんだろうね。


「こ、こここここの度は、おおお招き頂き、ああ有難う――」


「り、リリル嬢。とりあえず落ち着こうか。我々は家族なんだぞ?」


「で、ですがわ、私は、そ、その、庶民ですから」


「庶民とかそういうのは関係ないぞ。気軽に『お父様』と呼んでくれていいのだぞ?」


「が、頑張ります」


 リリルが最初会った時をさらに拗らせたような感じの喋り方になっている。

 やっぱり親父を目の前にすると緊張してしまうようだな。


「親父、俺も畏まった方がいい?」


「……気持ち悪いからいい」


「俺だけ酷くね!?」


「ハル殿の今までの振る舞いを見たら、急に畏まると気持ち悪い」


 侍女さん達は口を抑えて笑いを堪えている。

 ひ、ひでぇ!

 

 挨拶を済ませた俺達は着座し、早速兄貴がいない事について事情を聞いた。


「さて、ジェイドがいない理由だったな。簡単に言うとな、ニトスとハル殿の思惑通りとなった」


「というと?」


「ヨールデンの国民達が移民してきた」


「おっ、やっぱり!? やはり文化侵略ってのは凄まじいね!」


「ああ、余も驚いている。今ジェイドは彼らの対応に追われているんだ」


「へぇ、ちなみに人数は?」


「正確にはまだ数えられていないのだが、恐らくは帝国の七割が移民申請をしているらしい」


「「「「な、七割!?」」」」


 俺と嫁達が立ち上がって驚いた。

 いやいや、七割って!

 ニトスさんと話していた時は六割行けば大成功だなって言っていたんだが、大成功どころじゃないぞ、数字が……。


「大雑把になるが、大半は国民だったのだが、帝国に仕えていた兵士が全体の三割程いるな」


「兵士も来たのか。理由は?」


「どうやら皇帝の指示で、我が国に関わる品物を破棄する事を拒否した国民を斬り殺したらしい。それに絶望した兵士達が移民してきたようだな」


「何か、亡命に近いな」


「確かにな」


 うっわ、奴等そんなえげつない事を国民にしていたのかよ。

 よかったわぁ、そんなアホみたいな国に生まれなくて。

 

 あっ、親父に計画案を出さなくちゃ!


「親父、俺の領地に関する計画案だ。目を通して欲しい」


「そうであったな」


 俺は分厚い紙の束を皮袋から取り出し、親父に渡した。

 親父は一枚一枚じっくりと見ている。

 が、とあるページで手が止まり、凝視している。

 真面目な表情が少しずつ崩れていき、ついには驚きの顔を見せた。


「は、ハル殿! こ、これは!」


「何か問題があった?」


「いや、問題というより、前代未聞だ! 君はとんでもない領地を作る事になるぞ?」


「まぁ他の貴族じゃやろうとは思わないよな。ただ俺は《音楽貴族》なんでね!」


《音楽貴族》。

 最近他の貴族達にちょいちょい言われる言葉だ。

 音楽業界を格段に発展させた功績はすさまじかったらしく、畏敬の念を込めて俺はこう呼ばれている。

 実はちょっと侮蔑の意味もあるみたいで、音楽に対する依頼料を下げる動きをしている為、一部の音楽家や彼らを抱えて商売している貴族からは蔑称で使われているらしい。俺は全く気にしていないけどな。


 今回俺が提出した計画案は、もちろん音楽に関する事をやっていく領地だ。

 この世界では初めての事ばかりなので、カロルさんも全く予測出来ないと言っていたけど、そこは俺達の努力次第だろうな。


「ハル殿、これは実現可能なのか? いいか、国に税金を納める為にも、しっかりと売上を出さなくてはいけないのだぞ?」


「わかってるさ。でも俺は上手くいくって思っているよ」


「……今回ばかりはどうも信じられん」


「なら、信じてもらうように成果を出すさ!」


「ふむ、ならばやってみせよ」


「了解!」


 これで承認が降りた。

 後は細かい部分を修正して、再度提出するといった方向になったが、ほぼほぼ確定といったところだ。


 俺の領地の名前は決まっている。

 前世での著名なアーティスト達がライブを行い、そこでライブが成功したら一流のアーティストに仲間入り出来ると言われるアリーナから名前を頂いた。

《音楽の町 ウェンブリー》。

 まさに俺にぴったりの名前だと思う。

 

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