第183話 幸せの絶頂の中、兵士さん達と特訓
「ギャァッ!!」
「グエェェェッ!!」
ここはお城の訓練場。
醜い男達の断末魔が響き渡っていた。
「き、今日のハル君、いつも以上に手が負えねぇ……!」
「っていうか、さっきから笑顔だぜ!? 二十人で一斉に相手していやがるのに、ずっと笑っていやがる!!」
そりゃそうさ。
何せ俺は、一皮剥けた、真の大人になったのだからな!
さらに昨日はリリル、今日はアーリアとイチャコラしたおかげで、頭が超ハッピーなんだよな!
はっはっは、全ての動作がスローモーションに見えて来るぜ!
兵士さん達は棍棒を持って槍のように攻撃してくるが、対して俺は素手でそれらを捌ききり、反撃を加えて相手をダウンさせているのだぁ!
動きがスローリー過ぎて、あくびがでちまうぜ。
「ああ、何て素敵な日なんだろうか! 今の俺は、全ての事で上手くいくような気分だぜ!」
「調子に、乗るなぁぁ!!」
おっと、調子に乗るのは俺の悪い癖だな。
気を取り直して、向かってきている兵士さんに体を向ける。
突進から繰り出す突きを華麗に回避、瞬時に棍棒を掴んで兵士さんを蹴り飛ばす。
「ぐはっ!?」
痛みのせいで武器を手放してしまい、棍棒は俺の手元にある。
ふっふっふっ、今の俺なら棍術すら出来てしまいそうだ。
頭に思い浮かべたイメージは、アクション俳優の《ジェット・リー》。彼の動作は素晴らしく美しい。
俺は正面にいる兵士さんの脇腹を狙って棍棒を横に薙ぐ。
そして見事に綺麗にヒットする。
兵士さんはそのままうずくまって立ち上がらなくなる。
あらまぁ、痛そう。
さて、二十人いた兵士さん達はあらかた叩きのめして、皆地面に座っているか倒れているかで息をするのがやっとのようだ。
俺は棍棒を頭上で三秒程回転させた後、カンフー映画でよく見るポーズを決める。
ふっ、決まったなぁ……。
「くそ、イラつく表情をしていて倒したかったけど、手も足も出なかった……」
「結婚したら普通、新婚気分でぬるま湯に浸かるから弱くなるんじゃねぇのかよ」
「これが、英雄かよ……」
残念でした、俺は愛しい女の子がいると強くなるタイプみたいだぜ?
現に今、観客席でレイとリリル、そしてアーリアが見ているからな。これで負けたら格好悪いじゃねぇか。
あの三人には、絶対にそんな姿は見せたくないんだよ。
「ハルぅぅ、格好よかったよぉぉぉっ!!」
「ハル君、素敵だよ!!」
レイとリリルが声を張って褒めてくれた。
アーリアは元王女という事もあってか声は出してくれなかったが、笑みを浮かべて小さく手を振っていた。ただし手を振るスピードが速い速い! きっとレイとリリルと同様のテンションなんだろうなってのがわかった。
『ハル君、一回爆ぜろ』
隊長さんも含めた兵士さん達が、声を低くして、声を揃えて言った。
残念でした、爆ぜませんよぉだ!
隊長さんが立ち上がり、俺に向かって歩いてきた。
「ハル君のおかげで、俺達の実力もメキメキ伸びているのが実感できるよ。本当にありがとう」
「いやいや、俺こそ助かってるさ! やっぱり腕が鈍るのが一番不味いしさ。いざという時、嫁達を守れねぇ」
「ふっ、今の強さの源は、彼女達か」
「多分ね。最高の嫁達に愛想尽かされたくないからさ」
「それは大変だな」
「大変だけど、毎日が幸せだよ」
「……爆ぜろ」
「無理無理~、幸せ絶頂期だから無理ぃ~♪」
しばらく兵士さん達と話していると、レイが俺の方へ向かってきていた。
ん? どうしたんだろ?
「ねぇ、ハル」
「どしたのさ、レイ」
「時間あるなら、僕と一戦やってくれないか?」
はい?
何故に!?
確かに最近、レイと一度も戦ってなかったけど、もしかして性的ではなくて剣的に欲求不満でいらっしゃいましたか!?
「ねぇ~、お願い、いいでしょ?」
くっ、猫撫で声と綺麗な顔での上目遣いの威力は半端無さすぎる!
こいつ、ついに自分の容姿が優れている事を理解したんじゃねぇか!?
明らかに武器として使っていやがる!
十二歳でありながら、綺麗なOLのお姉さんみたいな容姿をしていて、そんなに近付かれたら非童貞である俺だってドギマギするっつの!
だが俺は、レイの魅力に、抗えそうにない……!
「わかった、一回だけな?」
「やった! 得物は真剣でいいよね?」
「……マジか」
「マジだよ。じゃないと身が引き締まらないし」
とんだ戦闘狂じゃねぇか……。
まぁ斬りそうだったら、寸止めすればいいし、いざとなったらリリルが即回復してくれるだろう。
俺はリリルの方に視線をやると、彼女は小さく頷いた。つまり、回復役は任せていいという事だ。
観客席に置いてあった二本の愛剣を取りに行って腰に差し、レイと向き合った。
「今日こそは、勝たせてもらうよ」
「はっ、出来るものならやってみろよ!」
「うん、遠慮無く、やらせてもらうよ」
その瞬間、レイの全身から、凄まじい闘気を一気に解き放った。
そして彼女の眼光は鋭さを増した。
俺は一瞬で理解した。
レイは、本気で挑んできている、と。
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