第182話 二番手は……


 今日も夕飯は一人だった。

 いつも皆で食事している部屋で俺一人ってのは、なかなか心が冷える。

 でもね、机の上に手紙が置いてあった。


『部屋で待っています』


 つまり、もう誰かがスタンバっているという事だ。

 次は誰だ……?

 リリルと初めてして慣れただろうと思ったんだが、やっぱりまだ緊張はするようだった。

 心臓はバクバクしているし、素敵な夜を想像してしまって胸もアレも期待に膨らんでいる。

 期待しすぎているせいか、食事の味がよくわからなかった。

 多分美味しかったんだろうけど、味を楽しんでいる余裕はなかったなぁ。

 リリルとした時は、本能に任せてしてしまったからなぁ。少し落ち着いて致そうとは思う。

 ……出来るかな?


 さて、食事も済んだし、行きますか。

 俺は部屋に向かうが、何だか足がとても速く動く。

 いつも以上にきびきび動いている感じだ。

 そんなに俺は、致すのが楽しみで仕方無いのかよ!

 早歩きをしたせいで、いつもより早く部屋に着いた。ああ、めっちゃくちゃ心臓の鼓動が早くなっていて苦しい。

 ……動悸かな? いやいや、そんな歳ではないぞ。

 わかってる、期待し過ぎて鼓動が早くなっているんだ。


 俺は自室の扉の前で深呼吸をする。

 だめだ、深呼吸しても落ち着かねぇ!

 ドアノブに手をかけようとしている俺の手が、まるでアルコール中毒者の手みたいに震えている!


(落ち着け、落ち着けよ、ハル・ウィード!! もう俺は童貞じゃねぇ! 俺はもう一皮剥けた大人なんだ!!)


 自分の心に対して言い聞かせる俺。

 そうだ、俺は童貞じゃねぇ!!

 大丈夫大丈夫、次も上手くやれる!

 俺はヤれば出来る男なんだ!!


「……よし、いくぞ!」


 ドアノブを捻り、自室の扉を開けた。

 すると、そこにいたのは天使だった。


「――ハル様」


「…………」


 声が、出なかった。

 窓から見える月を背後にして立つアーリア。

 月明かりがアーリアの糸のように細くて綺麗な髪を照らし、幻想的な輝きを放っている。

 サングラスを外した彼女の瞳は、月明かりで影になっているが、特徴的な見る角度によって色が変わる虹色の目が一際目立つ。

 さらには生地の薄いネグリジェが月の光で透けて見え、影となってアーリアのボディラインを写している。

 胸は確かにない。ささやかな膨らみ程度だ。

 だが、それは欠点にならない。

 今月明かりを背後にした彼女は、天使のように可憐な女性なんだ。

 あまりにも美しすぎて、本当に生きているんだろうかと思ってしまう程だ。


「……ハル様?」


「きれい、だ」


「……え?」


「とても、綺麗だよ、アーリア」


 俺は自然とアーリアに近付き、彼女の小さな手を握った。

 その瞬間、アーリアの体が一瞬跳ねた。


「本当、思わず見惚れた」


「っ!!」


 アーリアの顔は赤く染まっている、と思う。

 何せ部屋の明かりは月だけだ、よく見えないけどきっと、顔は赤くなっているだろうな。

 くそっ、落ち着いて致すって決めたのに、無理だ!

 こんな魅力的な子に対して、冷静でいられる訳がない。

 俺は彼女を抱き締めた。ちょっと力を入れすぎたかもしれないけど、彼女を離さないように、逃がさないように抱き締めた。


「ごめん、アーリア。今すぐお前を欲しくなった」


「謝らないでくださいませ、ハル様」


 アーリアも、俺の腰に手を回して抱き締めてくれた。


「わたくしは、ずっとこの日を夢見ていたのです。心身共に、ハル様の伴侶となる事を」


「……アーリア」


「ハル様、わたくしも初めてで至らぬ点があるかもしれません。そんなわたくしですが、抱いて頂けますか?」


「勿論だ、こんな俺で良ければ、いくらでも」


「……ハル様、今夜は冷えますわね」


「そうだな、ならベッドに行こうか」


「……はい」


 それから俺達は、ベッドの中でお互いの服を脱がし合い、お互いの体を味わった。


「愛しているよ」


「愛していますわ」


 行為の最中に愛を囁いてお互いにくすりと笑い、汗ばんだ肌を密着して口付けを交わした。











 いつの間にか寝てしまっていたようで、窓から差し込む日差しで目が覚めた。

 隣を見ると、アーリアが小さな寝息を立てて寝ていた。

 寝ている表情も可憐で、見ていて飽きないな。

 

 すると俺の視線に気付いたようで、アーリアの目がぱっちりと開いた。


「は、ハル様!?」


「おはよう、アーリア。いい目覚めだったか?」


「ビックリしましたわ!!」


 軽く頭をコツンと叩かれるが、全く痛くはない。

 すると、アーリアが俺の胸に顔を埋めてきた。


「ハル様……貴方のせいですから」


「えっ、何が?」


「朝なのに、体が、その……火照って、しまっていますわ」


「そっか、ならその火照りを俺が静めてやろう」


「……よろしく、お願い、致します」


 そして朝からまた致すのだった。

 甘えてくるアーリアが本当可愛かった。


 さて、今日はお城に行って親父と兄貴との食事だったなぁ。

 午前中は二人に合う前に兵士さん達と乱戦特訓がある。

 ふふふ、素敵な朝を迎えたから今日も俺は一日、頑張って過ごせるぜ!

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