第176話 とある剣士の幕引き
「うあぁぁぁぁ、あったまいってぇ。飲み過ぎた……」
結婚式の二次会パーティで俺は、珍しく浴びるように酒を飲んだ。
当然結果は二日酔い。
前世でもこんなに飲んだ事はなかったなぁ。
でも、本当陽気な酒だった。こんなに愉快に気持ちよく酒を飲んだ事はなかったよ。
しかし二日酔いは辛いです、はい。
今はすっかり夜も明け、太陽ももうちょっとで頭真上にまで登りそうな勢いだ。
とりあえず俺は自分の部屋を出てみると、俺の屋敷は死屍累々だった。
廊下やリビング、階段に誰かしらが酔い潰れてぶっ倒れている。こ、これは酷い有り様だ……。
ちなみにうちの親族以外の人間は、皆帰っていった。ただし、俺のバンドメンバーはうちでそのまま泊まっていったけど。
「俺の奥さん達は何処にいるかな?」
隣の部屋の扉を開けてみると、リリルを抱き枕代わりにしてレイとアーリアが絡み付いて寝ている。
っていうか、リリルのその豊満なおっぱいに頬擦りしているではないか!
何だよそれ! 超羨ましいんですけど! 今からルパンダイブして俺も混ざっていいんじゃね!?
だって俺旦那様だぜ? 三人の旦那様なんだよ!?
ちょっと位エッチな事をしてもいいじゃないですか、ぐへへ。
……いや、止めておこう。
親族とかが帰った時に、ゆっくりと時間を掛けてしたいから。
まぁ童貞丸出しの願望なんだけどねぇ。
とりあえず他の部屋を見て回ったが、レイスとミリアが裸で抱き合って寝ていた。
……何人ん家でヤッてんだ、こら。
レオンは俺のクラスメイト(女子)と裸で抱き合って寝ていた。
……何人ん家でヤッてんだ、こら。ってか、いつの間に連れ込んでいたし!
そして別の部屋を見ると、オーグは起きていた。
「よぅ、オーグ。お前は二日酔いじゃなさそうだな」
「おはよう、ハル。いや、少し気持ち悪い……」
「まぁお前も結構酒飲んでたもんな」
「それはそうだろう。こんな楽しいパーティはなかなかないからな」
「へぇ、貴族のパーティでも?」
「ああ。貴族のパーティは格式や体面を気にするからな。かなりお堅いんだ」
「うへぇ、つまらなそう」
「つまらないぞ、本当に。とりあえずすまんが、もう少し休ませてくれ」
「ああ、悪ぃ。邪魔したな」
「いや、気にするな」
本当に具合悪そうだなぁ。まぁ今日は一日用事はないみたいだし、ゆっくり休んでくれ。
そう思いながら部屋を後にした。
階段を降りると、ソファで寝ている王様である親父と王太子である兄貴がくたばっていた。
なんだろう、王様として見るとすっげぇこの国の将来が心配になる姿だけど、一人の人間として見ると、人間味があって親近感が沸く。
この二人も臣下に任せて今日一日休みらしいし、そっとしておいてやろう。どうせ明日からまた激務なんだし、うちに来た位はハメ外してもいいじゃねぇかな?
まぁ全員の状態を確認するつもりはないし、とりあえず新鮮な空気を吸いたい。
俺は中庭に出ると、中庭に置いてある椅子に誰かが腰掛けていた。
いや、髪色で誰かなんてすぐわかった。
「父さん?」
「ん? ああ、ハルか」
父さんが手招きをしている。
俺は父さんの隣の椅子に腰掛けた。
しかし、本当に父さんは老けた。しばらく見ない内に顔の皺が深くなっているし、燃えるような赤髪にはちらちらと白髪が目立つ。
それに昨日の戦闘だって、もうちょっと体力はあったはずなのに、あの程度で息切れしていた。スタミナもかなり落ちているみたいだ。
「……俺が老けた、って言いたそうだな」
「……何故バレたし」
「お前は俺の息子だからだよ」
「そっか」
そして、二人で何故か空を見上げる。
雲一つない、見事な快晴だ。爽やかな風が心地よく、俺達の肌を撫でてくる。酔い覚ましには本当にありがたい風だ。
「俺は、今日を以て剣士は引退するよ」
「だから、まだ早いって」
「そんな事ないさ。剣士としてはこれでも往生した方だ」
「えっ、そうなの?」
ここでまた新事実が発覚した。
父さんどうやらこの世界の平均寿命は五十五歳と言われている事を教えてくれた。
そして剣士だと平均三十歳までなんだそうだ。
マジかよ、この世界の寿命はあまりにも短いな。いや、前世基準で考えちゃいけないかもしれない。もしかしたら前世は文明が発達したおかげで長寿になっただけかもしれないし。
でもそう考えると、この世界の人達が総じて早熟なのも説明が付くかもしれない。
寿命が五十五歳で終わるから、その分早めに身体を成長させて、身体能力のピーク時期を伸ばしているのかもしれないな。
まぁ俺は専門家じゃないから、あくまで憶測だけど。
「……そっか、初めて聞いた事実だわ」
「まぁそういう事だ。俺はとっくに剣士のピークを過ぎているんだよ。後は実力は下降していくだけだ」
「成る程ねぇ。まぁ父さんがそう決めたのなら、俺は支持するさ」
「意外だな。もうちょっと止めてくるかと思った」
「いやいや、老人に鞭をさらに打たせるような事はしねぇよ」
「誰が老人だ! せめて中年だろ!」
「ははは、わかってるさ!」
「くっ、からかわれたか」
風がちょっと強くなる。
まるで風が父さんの引退宣言に驚いているようだ。
まぁ正直俺は寂しく感じているさ。だけど、今の俺との実力差は昨日の戦いで測ってみて俺の方が遥か上だった。
体力面でもそうだけど、技術面でも恐らく上だ。多分父さんもそれを昨日の戦いで感じ取ったんだろうな。
「俺の技術や心構えは、全てハルに伝えた。託せた。俺は今日で剣士を引退するけど、俺が培ってきた全ては息子の中で生きている。だから、剣士としての俺は、お前が剣を振るう限り生き続けているさ」
「……父さん」
「ハル、お前は純粋な剣士じゃない。魔法も使うからな。だけど、お前なら俺の剣技をしっかり活用してくれる筈だ」
「当たり前だ。俺の剣技は、父さんから教わって培ったものなんだから」
「なら、安心して引退できる」
「……」
俺は、多分父さんの剣士として果たせなかったものも今、背負ったような気がした。
実際どういうものかは一切聞いた事はないしわからない。でも、俺が目指す先に父さんの剣士としての夢があるかもしれない。
うん、託された。
父さんの剣士としての全て、間違いなく受け取ったよ。
「父さん」
「ん?」
「今まで、お疲れ様」
「――ああ、ありがとう」
父さんはそっぽ向いたが、目から大きな滴が流れ落ちたのを、俺は見逃さなかった。
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