第177話 初夜のお相手は誰!?


 俺と父さんは暫く雑談を楽しんでいた。

 その中で、夫婦生活の先輩である父さんからは色々なアドバイスを貰えた。

 俺の場合は嫁が三人もいるっていう特殊ケースだけど、それでも絶対に変わらない事があるらしい。


「いいか、ハル。奥さんの機嫌は損ねるなよ? むしろ労ってやれ」


 どうやら父さんと母さんは、最初互いの生活リズムが合わずに大変だったらしい。

 そこで父さんは母さんの機嫌を損ねないように、感謝の気持ちを込めて花を送ったり、肩をマッサージしたりしてあげたらしい。

 すると付き合っていた頃よりもずっとラブラブになったのだとか。

 そういえば俺が二歳の頃、俺がトイレで夜に起きた時、父さんが「ハルの食事も作らなくちゃいけなくて大変だろう? いつもありがとうな」って後ろから抱き締めて労っていたのを見た事があったな。

 夫婦円満の秘訣は、奥さんの機嫌を損ねない事。うん、しっかり胸に刻んだ。


「それで、ハル」


「ん?」


「初夜は誰と過ごすんだ?」


「ぶっ!?」


 父さんからいきなりぶっ飛んだ質問が飛んできてむせてしまった。

 そして咳き込むと二日酔いで痛む頭に響き、いたたと頭を抱える。


「お前、考えてなかったのか? それとも三人一気に相手するつもりだったのか?」


「んなバカな! 童貞な俺には三人いっぺんはハードル高すぎるっての!!」


「ハルならやりかねないって思ってな」


「……どういう認識だよ、コラ」


 でも、そうだよなぁ。考えていなかった。

 前世では結婚した後の夜が初夜なんだけど、この世界では結婚初夜は親族をとにかくもてなして交流を深めるというのが主流らしかった。

 結婚式前夜のパーティは互いの親族が親睦を深める目的、結婚初夜のパーティは新婚さんが親族に対して「これからも宜しくお願いします」という気持ちを込めてもてなすものだった。

 そしてパーティの次の日、ここが初めて夫婦の初夜となる。

 俺にとってはまさに今日がその日!

 全く考えていなかったんだけど!

 つ、ついに童貞を捨てる日が来るんですね……。

 そう考えたらソワソワしてきて、落ち着かなくなってきた。

 誰と初夜を過ごす!?

 レイもリリルもアーリアも、三人共魅力的すぎるんだ。甲乙付けがたいんだよ。

 えっと、本当にどうしよう。

 教えて、女神様!


「知りませんよ。そんなの自分で考えなさい」


 頭の中から女神様の声がした。しかも、何かめっちゃ呆れているような声色でした。

 そうですよねぇ、変な事で神様頼みしちゃいけないですよねぇ。

 俺がうんうん唸りながら悩んでいると、父さんが呆れた口調で話し掛けてきた。


「全く、贅沢な悩みだからな、それ」


「わかってる、わかっているけれども!」


「なら助け船を出そう。お前、おっぱいは好きか?」


「えっ、猛烈に好きなんですけど!」


「なら、リリルちゃん一択だろ」


 ――うん、あの服を押し上げる魅力的な双丘は、男の夢がかなり詰まっている。

 そうなると、リリルなのか?


「だがな、レイちゃんもそれなりにある方だぞ?」


 そうなんだよなぁ。

 あいつ、リリルと比べてて何か変な劣等感を持っているが、普通にある方なんだよな!

 レイも捨てがたい。本当に捨てがたい。


「アーリア姫様は――うん、不敬に当たるからノーコメントで」


 父さんや、その態度ですでに不敬だからな?

 でもね、アーリアは確かに胸はないがスレンダーだ。スラッとしていてそこにドキリとする事だってある。

 それにな、貧乳はステータスなんだぞ!


「って、何が助け船だ! 余計悩むだろ!」


「はは! だけど参考にはなるだろう?」


「なったけれども!」


 ああ、どうするんだよ!

 何か思考の沼に嵌まった気がするぞ!!

 悶々としながらも、俺は父さんと下ネタ談義をする事となる。

 そこに二日酔いからある程度回復した親父と兄貴が加わり、下ネタ談義はさらに加速していく。

 親父は自分の娘可愛さに、何故かアーリアの良さをプレゼンし始める。

 兄貴は思春期真っ只中なのだろう、かなり話に食い付いてきていた。

 マジで、中庭で何話してるんだろうね、俺達。

 だけど、こういう談義もなかなか楽しいもんだな。

 頭の中で「お下品ですね……」とドン引きしている女神様の声が聞こえたが、勝手に男子トークを聞かないで欲しい。













 ――リリル視点――


 私達三人は、今、向かい合っています。

 そう、これは本気で大事な事なんです。


「第一回、ウィード家婦人会議を始める」


 音頭を取っているのはレイちゃんです。

 朝起きて開口一番にこんな事を言ってきました。

 うん、何の事で話し合うかはわかっています。


「会議内容は、『誰がハルの《初めて》を貰うか』だよ!」


 来ました、超重要な事!

 五歳からハル君と一緒にいる私とレイちゃんは、ハル君がまだ誰とも経験がない事を知っています。

 アーリアちゃんにも一切手を出していなかったのも、アーリアちゃん本人からすでに聞いています。

 正直言って、ハル君の初めては私であって欲しい。そんな願望をずっと抱いていました。

 レイちゃんを見ると、「僕が貰う!」という表情になっています。やる気は十分です。

 アーリアちゃんはサングラスを外していて、目を瞑って両頬に手を添えています。すでに自分が初めての相手になるって思って妄想しているようです。

 でもどうやって決めるんでしょう? 私はそのまま質問します。


「そこなんだよねぇ。ならいっその事、これで決める?」


 レイちゃんは細身の剣を鞘に閉まった状態で握りました。


「「無理!!」」


「えぇぇぇ……」


 私とアーリアちゃんは頭を高速で横に振って否定します。

 だって、圧倒的にレイちゃんが有利じゃないですか!

 私はある程度レイちゃんと戦えるけど、それでも剣の距離に持っていかれたら必ず負けるし、ましてやアーリアちゃんは戦う術がありません。

 不平等過ぎます!


「わたくし、まだ戦う術を持ち合わせていません。その提案は断固拒否しますわ!!」


「……まだ? という事は、その内戦う術は出来ると?」


「はい、練習中ですが、もう少しで感じが掴めそうですわ」


「――へぇ、それは一度お手合わせ願いたいね」


 レイちゃんから闘気が溢れてきます。

 何でしょう、ロナウドさんと修行し終わった頃から、レイちゃんがとんでもない戦闘狂になっている気がします。

 ロナウドさん、どういう修行をしたんでしょうか……。

 とりあえず、このままだと何も進まないので、私から一つ提案をしました。


「ならレイちゃん、《あれ》で勝負しようよ」


「ん? あぁ、《あれ》ねぇ。僕苦手なんだけど……」


「でも戦うよりかは平等だよ?」


「……まぁ、そうだよね」


「二人共、何なのですか、《あれ》って?」


 アーリアちゃんが質問をしてきます。

 あれ、もしかしてアーリアちゃんは知らないのでしょうか?

 私達もハル君から教わったものだから、アーリアちゃんも知っていると思ったんですけど。


「アーリアちゃん、《あれ》っていうのは《じゃんけん》っていうものなの」


「じゃんけん……ですか? 全く知りませんわ」


「うん、私達もハル君から教わるまで知らなかったよ」


 私とレイちゃんは、簡単にアーリアちゃんにじゃんけんのルールを教えました。

 そこまで複雑なルールじゃないので、物覚えの悪い私でもすんなり覚えられた位ですから、アーリアちゃんもあっさりと覚えました。


「成程、これなら平等ですわね。戦うよりかは遥かにマシですわ」


「……はぁ、戦う方が僕にとっては勝率が上がったんだけど」


「レイちゃん、やっぱり確信犯だったんだ……」


 あっ、だからレイちゃんは自分で会議の音頭を取ったんですね。

 自分が得意な戦いで勝負出来やすくする為に、真っ先に提案する為に。

 よかった、じゃんけんっていう代案を出せて。


「じゃあ、早速始めよう。最初はぐーだからね。そして負けても文句なしで!」


「わかったよ、レイちゃん」


「わかりましたわ」


「それじゃ、いざ尋常に!」


「「「じゃんけん!!」」」


 こんな真剣なじゃんけん、生まれて初めてでした。




















 ――王都大衆食堂、《頭上の一番星亭》店主視点――


「さぁさぁ、まだまだ受け付けているぞ! 『ハル侯爵の初めてを奪うのは誰かトトカルチョ』!」


 今日は最近王都に来たばかりという新米商人が開催しているトトカルチョを、私の店で行っている。

 しかし、何とまぁ品のないトトカルチョなんだ。

 だが今我が店は席に座れないお客がいる程大盛況となっている。

 私は普段はあり得ない注文量を、妻と一緒にフル稼働で頑張ってこなしている。


「現在の倍率は、レイ婦人が一.〇二倍、リリル婦人が一.〇倍、アーリア婦人が一.三倍となっている! そして大穴狙いの《三人同時に!》が三倍だ!!」


 ちなみに今日は女性客が一人もいない。

 それはそうだろう、こんな下品なトトカルチョをやっているんだからな。

 しかも皆均等に賭けるもんだから、倍率が《三人同時に!》以外は均等になっていてほぼ儲けが出なくなってしまっている。

 だが、皆あまり儲けを気にしていないようだ。

 三人の婦人はどれも若くて綺麗どころばかり。自分が推している婦人に一票入れたいのだろう。


「小動物のように可愛いのに破壊力抜群の胸を持っているリリル婦人、これしかないだろ!!」


「いやいや、十三歳なのにとてつもない色気があって、凛々しいレイ婦人だろ!!」


「てめぇらなんにもわかってねぇな! アーリア姫様のあの透き通った肌は、絶対触り心地最高だろうよ!」


「男なら、三人同時にだろう!!」


 うん、同じ男として聞いていても、なかなかに気持ち悪い。

 まぁ店がかなりの売上になっているから喜ばしいが。

 そろそろトトカルチョの受付は終了となる。

 そこで、とある男が呟いた。


「……ハル侯爵、羨ましすぎだろ。マジ一回爆発すればいいのに」


 その男の一言で、皆が頭を激しく縦に頷いた。

 そして皆が声を揃えて――


『ハル侯爵、いっぺん爆発しろ』


 と言った。

 うん、私もそう思う。

 正直、羨ましすぎる。死んでも口に出さないが。



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4/25夜頃、活動報告にて文学フリマでの出展詳細を報告します。

是非お時間ある方はお立ち寄りください!

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