第166話 酔いが回る面々


 まず、全員で秘密の共有をする事になった。

 それはアーリアの《虹色の魔眼》の事だ。

 親父の口からそれを説明し、アーリアはサングラスを取る。

 見る角度によって色が変わるこの魔眼を見て、すでに知っていた嫁達とうちの父さんと親父、兄貴以外は青褪めて卒倒しかけた。

 まぁこういう反応になるだろうなとは予想していたけど、ここまでなんだなぁ。

 本当、綺麗な瞳なのに。

 アーリアは皆の反応に堪えたのか、俯いてしまった。

 覚悟していたとはいえ、ショックは受けるよなぁ。


「アーリア、俺はお前の瞳は本当に綺麗だと思ってる」


「ですが、やはりわたくしの眼は恐れられている呪いの魔眼ですわ……」


「そんな事はどうでもいい。もっと俺に眼を見せてくれ」


「――あ」


 俺は俯き続けているアーリアの顎に手を当てて、瞳が見えるように彼女の顔を俺の方に向けさせた。

 じっとアーリアの瞳を見る。

 うん、やっぱり宝石のように綺麗だ。


「うん、やっぱり俺はアーリアの眼も大好きだ!」


「……流石に、そんなに見られると恥ずかしいですわ」


 彼女の顔が赤くなる。それでも俺は眼を見続ける。

 全然見飽きない。もっともっと見ていたい、心からそう思う瞳だ。


「ハルを独り占めするのずるいよ、アーリア!」


「そうだよ、ずるいずるい!」


 相当羨ましかったのだろう、レイとリリルが俺の背後から抱き着いてきた。

 背中に幸せな感触がある……。

 いいぞ、もっとやれ!

 

 そんな俺達のイチャイチャっぷりを見て、全員魔眼に対する不安は少し解消されたか気にしないようにしたのかどっちかだろうけど、これ以上言及はしてこなかった。

 そして親父からの一言で、アーリアの魔眼の件については一件落着となった。


「これで皆、運命共同体だな」


 全員顔を青褪めながら、高速ヘッドバンキングをやっているかの如く頷いた

 まぁ俺は社会的にとんでもない爆弾を抱えたアーリアを嫁に迎える訳だが、惚れちまったんだから仕方無い。

 そういうリスクも丸ごと引っくるめて、俺はアーリアを皆で幸せにしていこうと思った。











「余はなぁ、アーリアが魔眼に目覚めた時、花嫁姿を見る事が出来ないと思って悲しかったんだぁ!!」


「とても辛かったんですねぇ、ドールマンさん!」


 親睦会も中盤に入った頃には、皆酒が入って相当酔っぱらっていた。

 一つ決まりとして、家族の集まりの場合は地位は一切関係なく無礼講で行こうと王様である親父からの提案で、こういう集まりでは皆ファーストネームで呼び合う形になった。

 べろんべろんに出来上がっている親父は、リリルの父親であるお義父さんと肩を組んでワインを恐ろしい速度で飲んでいた。

 今やグラスでちびちびやるのは満足しないようで、ラッパ飲みだ。親父は絡み上戸なんだな……。

 お義父さんはグラスでワインを飲んでいるが、飲むペースは早い。ちなみに彼は泣き上戸。

 酒に強い父さんは聞き役に徹し、レイの父親である義父上は親父の背中を擦っていた。元々あまり義父上は酒に強くないのだろうか、一口飲んだだけでそれ以降は酒を口に入れていない。

 無礼講とは言っているが、端から見たら上司を宥める部下達っていう構図だ。

 前世の居酒屋で高頻度で見る光景だったから、懐かしくてちょっと笑ってしまった。


 さて、一方は女性陣。

 嫁達三人と姑達というグループが出来上がっていて、姑達が俺の嫁達に根掘り葉掘り俺との馴れ初めを聞いていた。

 うちの母さんなんて、ひたすら三人の頭を撫でまくって可愛がっていた。

 母さんの膝の上に座っていたナリアなんて、アーリアの瞳をじっと見て、


「アーリアお姉ちゃんの眼、キラキラしてて大好き!」


 と言ってアーリアに抱き着いた。

 妹が欲しかったらしいアーリアも、まるでペットを扱っているかのようにぎゅぅっと抱き締めていた。


「わたくしも、ナリアちゃんの事大好きですわぁ!!」


 アーリアは後半年後位で成人だから、まだ酒は飲んでいない。それでも結構テンションが上げ上げだ。

 結婚自体は法律で縛りはないから、最悪五歳からでも結婚は可能らしい。すっげぇ世界だよな、ある意味……。

 世のロリコンは大歓喜でこの世界に来るんじゃね?


「ねぇねぇ、ナリア。僕は?」


「わ、私は、どう思う?」


 アーリアにべったりだったナリアに、迫るように問い詰めるレイとリリル。

 おいおい、張り合うなよ。


「レイお姉ちゃんは、とっても美人で大好き!」


「な、ナリアぁ……」


「リリルお姉ちゃんはふかふかで大好き!」


「ナリアちゃん!」


 ……何がふかふかなんでしょうねぇ。

 いいもん、結婚したら俺がふかふかを独占するんだからね!

 ナリアがリリルに抱き着いて、圧倒的な双丘に顔を埋めてるのだって今の内だからな!

 俺の嫁達に抱き着かれて、ナリアもお姉ちゃんが一気に増えたからとっても嬉しそうだ。常に笑顔で見ていて和む。


 そして俺はというと、兄貴と酒を飲んでいた。

 男の大人は大人同士、女性陣は女性陣で女子会、そして俺達二人は同年代っていう集まりだ。

 兄貴は二つ歳上の現在十四歳。まだ婚約者とかはいないらしい。


「……本当に、君の周囲に集まる人達は、優しい人達だよ」


「ん? どしたの、突然」


「いやね、まさかアーリアの眼を受け入れるとは思わなかったから」


「親父が半ば脅してるじゃねぇか」


「はは、違いない。それでも、普通ならアーリアともあんなに親しく接しないよ」


 禁忌の魔眼である《虹色の魔眼》。

 忌み嫌われるこれは、迫害どころか家族もろとも即処刑対象だ。

 それ程世界に嫌われている魔眼を、俺達は受け入れた。

 うちの母さんも、義母さん達もアーリアと話してみて無害だとわかると、とにかく可愛がった。

 アーリアは幼い頃に母親を亡くしたから、一気に三人も母親が出来て喜んでいたなぁ。


「私は、将来王として生きる事になる。そうなると、こんな優しい空間にいる機会は大分減るだろうね」


「兄貴、別にそんな重く考えなくていいって」


「え?」


「俺や俺の家族を連れて、兄貴の元に遊びに行ってやるよ。家族だろ?」


「しかし、私が政務で追われてしまうかもしれない」


「そこは兄貴が頑張って時間を作ってくれ。親父だって親睦会の為に時間を作れただろ? だから絶対出来るんだって! 難しく考えすぎさ」


「そうかな?」


「そうだって。兄貴はちと真面目過ぎだぜ? もうちょっと気楽に行こうぜ!」


「ふっ、王は気楽に出来ないんだよ」


 面倒だな、王族って。

 そうだ、アーリアは俺の所に嫁ぐ形になったから、立場上は王族ではなく侯爵婦人になる。

 実質社会的地位は降格とはなるんだ。

 でも、アーリアは俺を選んでくれた。地位や立場より、俺自身を選んでくれたんだ。男として嬉しくない訳がない。


「まぁとりあえずさ、家族の集まりの時だけでもいいから、気を抜こうぜ?」


「ああ、そうだね」


 金髪イケメン王子である兄貴が微笑む。

 こんなにイケメンなのに、何で婚約者の一人や二人出来ないんだろうか。

 よし、切り込んでみるか!


「なあ兄貴、兄貴は婚約者とかいねぇの?」


「っ! な、何を!!」


「いいじゃんいいじゃん、男同士の恋バナしようぜ!」


「あ、あまりそういう話は得意じゃないんだけど……」


「そんなのはどうでもいい! で、いねぇの?」


「……婚約者はいないけど、その…………好きな人は、いる」


 おっ!?

 マジですか!!

 誰だ誰だ!?

 俺は兄貴と肩を組んでお互いに顔を近づけ、内緒話をし始めた。


「誰だよ、好きな人?」


「……聞いたら協力してくれるかい?」


「場合による!」


「……えっと。その、だね」


「早く、ちゃっちゃと答える!」


「……君と同じバンドの、ミリア嬢、なんだ」


 ……。

 

 …………。


 うっわぁ……、協力出来ねぇわ。

 だってミリアは、レイスとデキてるんだし。

 しかもレイスは本気で頑張ってミリアを落としたんだ。そんな事情を知っている俺は、兄貴の協力は出来ない。


「ごめん、協力出来ねぇわ」


「なっ!? ずるいぞ、名前を言わせておいて!」


「だってさ、もう婚約者いるぜ、ミリア」


「…………えっ?」


「だから、婚約者はいるっての」


「………………うっ」


 俯いてしまった……。

 しょっぱなから失恋で、泣き始めるか?

 

「……ふっ、ふふふふふ。その婚約者を、どうやって抹消しよう」


「おおおおいっ!? 職権濫用するなよ!?」


 黒い黒い黒い黒い!!

 爽やか金髪イケメン王子の兄貴のダークサイドが現れた!!

 かなり黒いし、自分の権力を使ってレイスを亡き者にしようとしてるよ!?

 怖いわ、兄貴!


「抹消したら、きっと私の元に――」


「バカかよ! レイスを消してもミリアは兄貴のものにならねぇよ!! アホか!」


「だって、だって……初恋だったんだぁ」


「……oh」


 初恋でいらっしゃったかぁ。

 王族は随分と閉鎖的な環境だから、出会いは少ないみたいだ。

 

「ほらほら、失恋は酒を飲んで騒いで忘れるもんだぜ? そらそら、一杯どうぞ!」


「うううう、本当に好きだったんだ。歌っている彼女は可憐で、輝いていたんだ」


「そかそか、今日は付き合うぜ?」


「うぅぅぅぅぅ……。ハル、一つ聞きたい」


「何?」


「彼女は、一度君に告白していないか?」


「うぇ!?」


 何でわかったし!!


「今思い返してみたら、時々君に熱い視線を送っていた気がする……」


「き、キノセイジャナイカナァ?」


「……怪しいな。王太子の権限で命じる、吐け!」


「そんな事で権限使ってんじゃねぇよ!!」


 うん、今後兄貴とは恋バナするの止めよう。

 非常に面倒臭すぎる!

 

 そんな感じで親睦会は進んでいき、結局皆、夜遅くまで騒ぎまくってそのままうちの屋敷で眠っていった。

 カロルさんは途中で帰っていったし、ナリアはおねむになったから、俺の寝室まで連れてって寝かせた。

 寝る直前、ナリアがこう言ってくれたんだ。


「久々に兄ちゃんに会えて、とっても嬉しかった。大好き、兄ちゃん……」


 久々に会ったにも関わらずそんな嬉しい事を言ってくれて、ナリアが目を閉じた瞬間静かに泣いちゃったのは、内緒だ。

 楽しい親睦会は皆が酔っぱらって眠ったと同時にお開きとなり、朝を迎える。

 今日は、ついに俺達の結婚式だ。

 俺は前世でも出来なかった奥さんを、三人も貰う事になる。

 

 ……俺は今、とっても幸せだ。

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