第160話 俺、受勲式に挑む!


 俺は案内役の兵士さんの後ろを着いていく。

 会場は、前回俺が受勲した場所と同じく、城の庭園だ。

 俺はニトスさんと横に並んで会場へ向かっているが、近づくに連れて喧騒が大きくなっていく。

 ふと、ニトスさんが俺に話し掛けてきた。


「流石ハル君、緊張していないみたいだね」


「そうでもないさ、少し緊張しているよ」


「……それでも少しなんだ」


「まぁ一度経験してるしね」


「その時に受勲を断るという暴挙に出たのは、今でも城内の語り草だよ。今回の勲章は受け取って貰えるだろうかって、皆少し怯えていたよ」


「そこまで怯えんでもいいじゃないか……」


「君が気まぐれ過ぎるせいだと思うよ」


 気まぐれじゃない、気に入らなかったんだって。

 前回は俺の武勲だけを称える勲章だったから断ったんだ。

 だって俺、音楽家だぜ?

 音楽関係じゃない勲章を貰っても嬉しくないし、あれを受け取ったら軍事関係でガッチガチに縛られそうだったしな。絶対今みたいに伸び伸びと音楽に打ち込む事は出来なかっただろう。

 今回の勲章に関しては、戦争で活躍したから武勲関連の意味を含めなくちゃいけないとは事前に説明受けたから仕方ないけど、音楽関係の勲章も同時にくれるって親父が言っていたから、俺は受勲を受ける事にした。

 どんな勲章になるんだろうか、出来れば格好いい奴がいいなぁ。


 そして、ついに庭園前の扉に着いた。

 とてつもない喧騒だ。何を言っているかは聞き取れないけど、事前に聞いていた通りすっげぇいっぱい人がいるようだ。

 確か、兄貴が一般人も見れるようにしたって言ってたな。

 恐らく相当な人数が入場希望すると予想していたようで、五百ジルで入場券を販売したようだ。ちなみにその収益は、国庫行きだ。

 流石コンサートを行えるだけの広さを誇る庭園だけあって、収容可能人数は一万人。そこに王族と繋がりがあったり懇意にしている貴族や商人達が招待されているから、それらを引いて約七千人の一般人が入場できるチャンスがあった。

 しかし、ものの一時間で入場券は完売!

 それだけ今回の受勲式は、国民全員が注目や興味を示しているっていう事だ。


「それでは、お二人方。扉を開けたらそのまま陛下の所まで真っ直ぐ歩いてください。カーペットの下を見ていただくと、陛下より数歩前にレミアリアの紋章が刺繍されております。それの手前で止まり、一度跪いて礼を行ってください」


「「はい」」


 兵士さんに説明を受けて頷いた俺とニトスさんは、しゃきっと背筋を伸ばす。

 そんな俺達を見て問題ないと判断したんだろう、兵士さんは振り返って扉を開けた。

 扉を開けた後、兵士さんは通路の横に移動して俺達に敬礼した。

 もう進んでいいって合図らしい。


「行こうか、ニトスさん!」


「ああ、行こう」


 俺達は扉を出てすぐに敷いてあった赤いカーペットを踏み締めた。

 その瞬間、まるで爆発したかのような大歓声が俺達を出迎えてくれた。

 色とりどりの紙吹雪が舞い、俺達を称える声や拍手が鳴り止まない。

 さて、ちょっと皆がなんて言っているのか、サウンドボールを展開して聞いてみるか。


「英雄が二人も出てくるなんて、この国は安泰だ!」


「レミアリア、万歳!!」


「あぁ、ニトス様、麗しいですわ……。結婚したい!」


「あんたのような不細工じゃ無理よ!」


「うっさい、あんたこそ不細工じゃない!!」


「ハルさま~~! 結婚してぇ!!」


 ……ニトスさんのファンが喧嘩してるんですけど。

 うん、放っておこう。


 でも何だろう、ここまで称えられると本当に嬉しいし、戦争を頑張った甲斐があったと思える。

 そして非常に照れ臭い!!

 俺と結婚を望んでいる女の子の声があったが、残念。すでに先約ありだ。


「これが、私達が守り抜いたものだ」


「ああ。武勲を称えられるのも悪くはねぇな」


「ふふ。私も正直勲章なんてどうでもいいのだけど、この歓声を聞いたら逆に誇らしくなってきて是が非でも受勲したくなったよ」


「実は俺も」


「同じだね」


「ああ、同じだな!」


 俺とニトスさんは小さく笑いながら、この誇りを胸にカーペットを進んでいく。

 そして言われた通りに、親父より数歩前にあるレミアリアの紋章が刺繍されている所で止まり、跪いた。

 よく見ると、親父の隣には兄貴、そしてアーリアがいた。アーリアに関しては、とても柔らかくて優しい笑みを浮かべていた。

 淡い水色のドレスには、フリルがたくさん使われていて、胸元には高そうな宝石が埋め込まれたネックレスを着けていた。

 ……さすがお姫様だけあって、見事に着こなしていて綺麗だった。

 親父が右手を小さく上げると、歓声はピタリと止まり、今までの喧騒が嘘のように静まり返った。

 

「皆の者、我が国は軍事力でものを言わせているヨールデンに攻め込まれた! だが、二人の若き英雄、そして我が屈強な兵士達によって侵略の危機を逃れる事が出来た!!」


 親父が、アーリア発明の魔道具であるマイクを使って、庭園全員に聞こえるように声を張り上げて言った。

 言葉は続く。


「もちろん、我が兵士達の働きも見事であったが、この二人が主導し、圧倒的不利なこの戦いをたった三日で終わらせたのだ!! 兵士達にも十分な恩賞や昇格を与えるが、特に素晴らしい働きを見せたこの二人に対し、勲章を授与する!」


 親父のこの言葉に、またもや歓声が上がる。

 親父は満足したように頷いた後、さらに言葉を続けた。


「さらに、このハル・ウィードは、音楽業界の発展に尽力を注いだ! それに多くの楽器を開発、発表をし、《バンド》という演奏形態をも編み出した! この功績は、芸術王国を名乗る我が国の名を、確固たるものにしたものである!! よって、ハル・ウィードには特別な勲章を用意した! ではまずハル・ウィード、我が元まで参れ!」


「はっ!!」


 俺は立ち上がり、親父と後一歩ほどの距離まで近づき、そして敬礼をした。

 親父は満足そうに頷く。


「ハル・ウィード。貴殿は武の才がありながらも、音楽に対してもその才能を遺憾無く発揮し、我が国の名声を上げてくれた。貴殿の功績を称え、この《レミアリア白金双翼勲章》を授与する!」


 勲章をまるで壊れ物を扱うかのように、いつも親父の近くにいる大臣さんが持ってきた。

 俺はちらっと見てみたが、それは本当に、この俺が言葉を失ってしまう位に素晴らしい勲章だった。

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