第144話 芸術王国流文化侵略ノススメ ――追撃――
「二十五年ぶりに音楽を聴いたが、今の音楽はこんな風なのか?」
「何か胸に響いた! めっちゃイケてた!」
「私は静かなのがいいかなぁ」
「皆で演奏してて、楽しそうだったねぇ」
「騒がしいし耳障りだな。俺は家へ帰る」
サウンドボールから拾った観客の感想だ。
なかなか辛辣だし、ロックに拒絶反応がある人もいるみたいだ。
ロックバンドである俺達からしたら否定的な感想は耳が痛いが、音楽家としての俺からしたら実に喜ばしい反応だ。
何で喜ばしいかって?
それは明日までのお楽しみって事で!
ではでは、続けて追撃といきますか!
俺はリズミカルにスティックを四回鳴らす。そしてレオンが思いっきりギターを鳴かせる。
それが、次の曲の合図だったりする。
最初の曲よりへヴィー且つスピーディーなメタルサウンドは、出だしは一定のフレーズのままで全員が演奏する。
この曲は、《
ライブ時には、バックバンドである《神バンド》という顔面白塗り、白装束という変わった出で立ちでとんでもない演奏技術を披露する集団がいて、そんな彼らがこの曲の出だしで各々がソロを演奏して自己紹介変わりをしている。
この《神バンド》は、日本のトップクラスの演奏家を揃えており、世界でも十分に通用する程なのだが、そんなへヴィーサウンドの中、日本特有の可愛さを全面的に出した十代の女の子達が踊って歌っているんだ。
彼女達が出てくるまでは、メタルは若干停滞期に入っていた。真新しいサウンド等が一切なかったからだ。
そんな時に、《ヘヴィメタル×アイドル》という奇抜な組み合わせのユニットがメタル業界に殴り込みに来たんだ。メタラー――メタルというジャンルを愛するファンの事だな――は当然食い付いた。
下手なパフォーマンスをしたら小便が入ったペットボトルを投げ付けられるという荒っぽいファンがいる中、巧みな演奏テクニックと重厚なサウンドに負けないメインボーカルである《
しかもメタルを好きな人達というのは、二十から四十代の年齢層だったのに、彼女達は幅広いファンを獲得しちまったんだ。
俺も最初は彼女達の事を聞いて、『どうせまた可愛さを全面的に押し出しただけの形だけのメタルなんだろ』とかバカにしていたんだが、聴いてみたら完璧に心を射抜かれちまった!
同じ音楽家として、「こう来たか!」って思わせられて、悔しさもあった。だが、同時にファンにもなってしまったなぁ。
それに《レディー・ガガ》のサポートアクトとして招待されたりしていて、音楽業界でもかなり注目されている存在だ。
俺は彼女達の曲が大好きだから、どうしてもライブに使いたかったんだよね。
とりあえず、今俺達が演奏しているのは本来ボーカルが付いている曲の出だしなのだが、このライブにおいては前世の言語は一切使わない事にしているからソロ演奏パートのみ、この曲を使用している。
理由としては、二十五年前から音楽を聴いていない人達に意味不明な言語を言っても理解してもらえず、結局はハートをキャッチ出来ないと思ったからだ。
だから、一発へヴィーメタルの重厚サウンドを、ガツンと叩き込んでやるんだ!
歌じゃなくて、演奏でな!
一定のフレーズを一定の速度で演奏しつつ、場を少しずつ暖めていく。
そしてレオンが一歩前へ出て、早速暴れだした。
まずはリードギターのソロパート。一人三十秒程の持ち時間を作ってやった。
つまりこの時間に関しては、一切の打ち合わせなし。ぶっつけ本番で好き放題出来る時間だ!
レオンは音を歪ませるハンドルを持ちつつ、高速ピッキングを披露する。
弦を押さえる左手の指達が忙しなく細かく動き、ピックを持っている右手は小刻みに弦を弾く。
そして所々でハンドルを操作して、過剰とも言えるビブラートを会場に響かせた!
さらに、最前列にいる若い女の子達に演奏しながらウインクをする。
女の子達が黄色い歓声を上げてヒートアップした!
逆に女神様は真顔になってクールダウンした!
何で!?
「私、ああいうチャラいのは好みではありません」
俺の頭の中に女神様の声が響いた。
そ、そうなんだ。
しかし、レオンは本当に早弾きが上手くなったなぁ。
最初はめっちゃくちゃ遅かったし、何度か投げ出そうとしてたのに。
今は息を吐くのと同じ位に自分の物としていた。
努力が実ったんだなぁ……。
「な、何ていう速さだ!」
「指が気持ち悪い位に動いてる、何だあれ!?」
「めっちゃくちゃ格好良い! もう好き、大好きです、あのお方!」
「リューンがまるで鳴いていたぞ……。今のリューンはあんな事が出来るのか?」
「煩くてたまらん!!」
「ぼくも演奏してみたいよ、パパ!」
サウンドボールが引き続き観客の反応を拾ってくれた。
いいねいいね、観客達の反応は賛否両論五分五分といった感じだ。
それでいいんだ、俺達を百パーセント認めてほしい訳じゃないからさ。
半分位の人達がロックを受け入れてくれたら、結果はもう花丸だぜ。
レオンの持ち時間が終わった。
まだ弾き足りなさそうな顔をしていて、渋々後退した。
入れ替わるように前に出たのは、ミリアだ。
彼女はレオン程のテクは持っていない。
代わりに、ミリアが見出だしたプレイスタイルは、元気良く躍りながら可愛く演奏する事だった。
レオンが高速で弾いてテクニックを披露するスタイルなら、ミリアは自分の容姿を武器にして観客を魅了するスタイル。
ポップな曲調で演奏しながら、ツインテールを左右に揺らして笑顔を絶やさない。
幼いながらも明るい印象の美少女に、男達は完全に魅了された。
「やばい、あの子めっちゃ可愛い……」
「何か癒される!」
「まるで孫のように可愛いの!!」
「ぐぬぬ……私の方が可愛いし!!」
「何なの、あの男に媚売ってるような感じ! 私、ああいうの大っ嫌い!!」
「ええ? 私は同性として憧れるなぁ。いいなぁ、超可愛いし!」
「……結婚して」
あらら、同性からは良く思われていない感想が多いな。
まぁ予想してたけどさ。
だが、間違いなく男の心はがっちり掴んだな、ミリア!
レイスはあまり面白くないようで、めっちゃくちゃ不機嫌そうだ。
うん、とりあえず放置しておく。
ミリアの持ち時間が終わった。
後退しながら観客に向けて満面の笑みで手を振る。
がっちりと心を鷲掴みされた男達と一部の女の子は、歓声を上げながらミリアに手を振っていた。
レオンもミリアも、自分のファンをこの三十秒でゲットしたようだ。よしよし。
三番手は、レイス。
レイスはピックを使わないで指で弦を弾くフィンガー・ピッキング奏法を好んでやっている。
ギター程派手な音は出ないものの、心地よい低音が高速で鳴り響く。
それにレイスは爽やかな笑みを浮かべながら、全身でリズムを取って演奏している。
さらに指で弾くのではなく、ライトタッピングと呼ばれる弦を叩いて音を奏でる奏法も披露した。
これには全員が驚愕したかのように生唾を飲む音がした。
そういうのもちゃんと拾うんだぜ、俺のサウンドボールちゃんは!
「もう何が来ても驚かないぞって思っていた矢先だったんだが……」
「音は派手じゃないけど、すっげぇ技術だぜ!」
「きゃぁーっ、あの人も格好良い!」
「私はまだ真ん中の人が好みだわ」
「こういう煩くない音がいいんだよ」
「何か迫力足りねぇなぁ……」
「そうだな、さっきのを聴いちゃうと物足りないな。さっきの音はかなり気に入っちゃったよ」
おっ、早速エレキギター改め、魔道リューンにハマった人もいるみたいだ!
ふふふふふ、よきかなよきかな。
レイスの持ち時間が終わり、レイスは観客に向けて親指を立ててサムズアップをする。
それに応えるように観客達も歓声で返した。
この世界の人達もノリがいいんだよ、基本的には。だから誰も教えていないのに、盛り上がり方を知っていたりする。
徐々に、前世のライブと同じノリになってきた。まぁ観客達にそういった影響を与えているのは、間違いなく女神様のおかげなんだが。
俺達のソロが終わる度に拍手と歓声をくれていた。それが徐々に伝播していっているようだ。
ありがとうな、女神様。
「いえいえ、私も楽しんじゃってるので、お礼は頂きませんよ」
確かに、汗をかきながら跳び跳ねたりして楽しんでくれてるよ。
俺達人間の音楽は、神にも通用するんだな!
さて、続いてオーグの出番だ。
ここからは新しい魔道具の出番だ。
半年前、《リーエ・ノリエティ》という女性研究者が、《映像投影水晶》という魔道具を開発した。
子機で捉えた映像を魔力の糸で親機に送信、そして大気に蔓延している魔力自体に映像を投影するという代物だ。
前世で言うところの映写機だ。魔力をスクリーンの代わりにしているようだ。
そんな便利な物があるなら使わない手はないと思った俺達は、オーグの手元を見せる為に、子機一台を設置してある。
そして、オーグのソロが始まったと同時に、映像投影水晶を起動させる。
オーグは真剣な表情で演奏を始める。
こいつも両手の指を全て巧みに動かして、早弾きを披露する。
ただし、オーグの場合は右手は電子音を登録している上の段で、左手はベースに近い低音で登録している下の段で演奏をしている。
そう、今オーグは一人でメインメロディとそれを支える土台となるメロディを演奏しているんだ。
弾き始めてたった二年でここまで出来るようになったんだ、相当努力しないとこんなに上手くなれなかっただろう。
観客の反応はいかに?
「白と黒の板の上で、指が踊ってるんだが……。多分あれを押すと音が出るんだよな?」
「あ、あぁ、多分……な。でも、あんな両手別々の動きって、普通出来るか?」
「えぇぇぇ、無理じゃね?」
「あの方もとても高貴そうに見えて凛々しいわ……」
「何なの、この人達! 美男美女揃えてお腹一杯なんだけど!」
「これもまた変わった音をしているな。っていうか、手が忙しそう」
「パパ、あの人もカッコいいね!」
おっ、シンセサイザーはあまり否定的な意見はないな!
音も煩くなくて、むしろ耳障りがいい音作りをオーグには心掛けてもらったからな。
こいつも学校で学んだ事を、しっかりと活かしている。
オーグの持ち時間が終わり、ちゃんとノーミスで演奏出来た事が嬉しいのか笑顔を見せて、右手を空へ突き上げた。
そして同時に歓声が沸き上がった。
うんうん、観客も相当暖まってきたな。
ではでは、最後は真打ち登場!
今までにない衝撃を見せてやろうじゃねぇか!
俺のドラムにも、子機が二台設置されている。
ドラムを真上から写す子機と、俺の足元を写す子機だ。
さぁ、驚愕しやがれ!
俺は両足を交互に、そして高速に動かしてペダルを踏みながら、そのリズムに合わせて高速でハイハットシンバルとスネアドラムをスティックで叩く。
さらには瞬間的にハイハットを叩いていた手でクラッシュシンバルを叩き、時にはスネアドラムを両手で且つ超高速で叩く。
俺が披露しているのは超高速の音の手数だ。
四肢をフルに使って音を奏でるドラムを、俺はこよなく愛している。
こんなパワフルな楽器、メタルを愛している奴からしたら注目せざるを得ないだろうよ!
ギターよりテクニックが必要で、筋力や体力も要求される敷居の高い楽器ではあるが、俺は前世の経験と剣術で鍛えた身体能力で、軽々と敷居を飛び越えられた。むしろ、前世より余裕で演奏出来ていたりする。
剣術様様だぜ、全く。
さてさて、どうよ、観客の反応は?
「何だ、ありゃ……」
「さっきから驚いてばかりなんだが……」
「足も動いているし、手もすごく速い! 速すぎて目が追い付かない!」
「あの赤毛の人、あんなに凄く大変そうなのに笑顔なんですけど! 何か格好良いわ」
「あの余裕そうなの堪らないわぁ。あの人に抱かれたい!」
「煩いんだが、それ以上に凄すぎて何も言えない……」
「実は彼が一番凄いんじゃない?」
えっ、俺笑顔なの?
でもそうかもな。だって、今めっちゃくちゃ楽しいし!
やっぱり観客から反応が貰えるのって、すっごく嬉しいしテンション上がるし、何より楽しいわ!
ん~、もっと演奏したいけど、とりあえずこの曲は締めよう。
俺とオーグ以外の全員でジャンプして、タイミングを合わせて音を一つ奏でて演奏が終わった。
そして、一拍置いて大歓声!
俺達は、この歓声を全身で受けて、半端ない達成感を味わっていた。
その証拠として、皆涙ぐんでいた。俺は何とか堪えたけど。
そしてレオン、ミリア、レイス、オーグが俺の方を向いて、ちょっと泣きそうな顔をしながらも笑顔を見せてピースサインを出した。
ああ、本当にいいバンドメンバーだよ、お前らは。
俺も精一杯笑顔を見せて、サムズアップを見せた。
さぁ、まだまだ終わりじゃないぞ。
こっからはボーカルも入る。感涙に浸るのはまだ先にしようぜ?
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